ページが見つかりませんでした – 香りの構成を理解することにより、香水選びがもっと楽しく、便利になります。共感覚的に香りを楽しむフレグランス・フリークによる、香水の口コミレビューと情報のブログ。 http://kosuijoho.com 香りの構成を理解することにより、香水選びがもっと楽しく、便利になります。共感覚的に香りを楽しむフレグランス・フリークによる、香水の口コミレビューと情報のブログ。 Wed, 08 Feb 2023 14:20:09 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.1.18 https://i1.wp.com/kosuijoho.com/wp-content/uploads/2016/06/cropped-logo0623.jpg?fit=32%2C32 ページが見つかりませんでした – 香りの構成を理解することにより、香水選びがもっと楽しく、便利になります。共感覚的に香りを楽しむフレグランス・フリークによる、香水の口コミレビューと情報のブログ。 http://kosuijoho.com 32 32 113390548 美女香水12選!香りの擬人化による、香水選びの新提案 http://kosuijoho.com/personification-of-perfumes http://kosuijoho.com/personification-of-perfumes#comments Sun, 11 Aug 2019 11:07:22 +0000 http://kosuijoho.com/?p=2496 香水の魅力とは何か?

それは美しい芳香はもちろんのこと、こと丹念に編まれた香りの、その複雑な調香によって4次元的に織りなされる、香水の「個性」にあると私は感じます。

それらは感覚的で、直感的。けれども深く香水と向き合い、様々な情景やイメージを雄弁に描き出す香りや、あたかも人間の特徴や感情、性質を備えた様な不思議な香りと出逢うごと、明確に。

「心が捉えうるもの」は言葉による翻訳が可能だと信じ、今回は「心にグッとくる美人な香水」に焦点をあて、その個性やキャラクターを擬人化することで掘り下げてみました。

服や化粧のように香りで印象を自由にアレンジするも良し、自分に似合う香りを模索するも良し、理想の姿を心に抱かせる香りを纏って己を鼓舞するも良し、気の合う香水とダンスするも良し。

「私の香り」選びの一助となれましたら幸いです。

クリスチャン ディオール ジャドール(永遠の恋人)


* Christian Dior J`adore *
香調:フローラル・フルーティー <レディース>

玲瓏たる花と果実の饗宴。
心の澄んだ、麗しい淑女のような香水。

1999年発表 * 調香師 Calice Becker 

<トップノート>
コモロ諸島産イランイランが、世にも甘美な抒情詩を奏で始める。 そっと囁くように、次第に心をくすぐるように。花の香の一番美しい部分だけで紡がれる、妙なる調べ。それはとても感覚的で、蜜のように甘く、夜露に濡れたように艶やか。太陽の熱に蕩け、まったりとした、エキゾチックな果実の風味を抱く、官能的な花の匂い。

それが肌の上をすべるように流れ出し、ゆったりと、マンダリン・オレンジの明るいフルーティー感と手を繋ぐ。 ほどよく水分を含んだ、穏やかなトーン。シトラス感はあまり強くなく、イランイランの持つ果実的な風味を際立たせ、彩度を上げるかのような、快よい爽やかさ。
更にそこにアイビーリーフが加わり、ほのかなグリーン感と涼やかさが、香り全体を麗しく磨き上げる。

<ミドルノート>
グラース産グランディフロラム・ジャスミンとインド産サンバック・ジャスミンの、玲瓏たるアリアが響く。 透き通るような華やかさに、冴え冴えとした、草の葉を思わせる淡いグリーン感。陽光のような温かみに、インドールのもたらす独特のなまめかしさ。それらを曖昧なフルーティー感で包んだような、ジャスミンの魅力の全てが詰まった匂い。

控えめな、それでいて明瞭な澄んだ音の粒たちが、美しい旋律を成すかのようにあふれ出すその香りに、種々の花々のハーモニーが絡まる。肉感的なまろみを持った、甘く複雑なインド産チュベローズ(月下香)。蜂蜜の混ざったような、繊細な香のトルコ産ダマスクローズ。クリーンな華やかさを醸すオーキッド(蘭)に、パウダリーな静けさを抱いたバイオレット――――。

花の粋を尽くした、眩惑の芳香。 ジャスミンを基調に、濃密な甘みや愛らしい華やかさ、クリーミーな感触、ふわっとした柔和な雰囲気を纏った、「至高の花」の嗅覚上の現出。 時を追うごとに、フレッシュで瑞々しい質感は、柔らかなパウダリー感へと移ろいゆく。

<ラストノート>
沈黙の甘い匂い。 蜂蜜の濃い香に果実の酸味が混ざったようなくぐもったブラックベリーと、サラサラとして豊潤なダマスカスプラム。そのクラシカルで愛らしいフルーティー感を、ムスクが押し包む。粒子の細かく、程よい密度のパウダリー感のもたらす軽やかさに、ムスク特有の清潔感と柔らかな甘さ。 それらが印象付ける静謐に、果実の懐っこい甘酸っぱい匂いが微笑みを添えたような、心地よいラストノート。

どこか石鹸のような表情を持ちつつも、ベリーの風味や瑞々しい甘味がロマンチックな色味を刷いており、優雅で艶やか。 ミドルの花々が眠りについてゆくのを見守るように、香りは穏やかに立ち上り、ゆったりと、寄り添うように肌の上に留まる。

一文で香りを表すと  フルーティーなイランイランが、ジャスミンを中心とする精緻で豪華な「花」の香りへと高まり、次第にパウダリー感を纏いながら、ブラックベリー風味のムスクに落ち着きます。

どんな美人のイメージ?

才気あふれ麗しく、何事にも動じない。
強靭な、不撓不屈の精神を持ち、気高く優雅。

穏やかな微笑みに、深く潤った優しい情熱的な瞳。
頑固でちょっとわがままだけれど、真面目で素直で一生懸命。

―――――彼女の傍にいるだけで、男性は自信と安らぎ、ときめきを得ることができるような、そんな素敵な淑女。

彼女の信頼と尊敬に満ちた真っ直ぐな眼差しを向けられると、自分は「最高の男」だと、そう心の底から信じることの出来る、宝物のような存在。
自分を高め、自分に無いものを与えてくれ、自分に有るものを与えてやれる、大切な存在。
いつだって幸せそうな微笑で今を生きる喜びを分かち合いたがる、健気で、愛しい存在。

彼女と居ると、それまで知ることのなかった自分の新たな一面が引き出され、自分をより誇らしく感じることができ、また、彼女の温かな思い遣りと深い愛情に包まれることで、完璧に育て上げたはずの自尊心ですら、新たに細部にわたり命が吹き込まれ、血が滾り、熱く満たされるのを感じる―――――。

誰のものでもない、誰のものにもならない、男の純情をくすぐる永遠の恋人。

香りの表情と性質

温かみのある、タイムレスなフルーティー・フローラル香水の傑作。
「花束」でなく、「1つの幻の花」を描き出したような、まとまりのある精緻な香りが魅力です。

全体を通して甘めではありますが、グリーン感やフルーツの苦味、瑞々しさが絶妙なバランスで混ざっており、とてもフレッシュ。

また、アクアティックな質感がモダンな印象を醸し出しつつも、香り自体はクラシックで、石鹸などを通して誰もが何処かで知っている香りの延長上にあるという点で、とても親しみやすく万人受けしやすい香りといえます。

軽やかで、明るく、柔らかい。
程よく深みがありつつ、清潔感にあふれていて、洗練されている――――。

成熟した大人の品格を感じさせる、パーフェクトな香水です。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ボンドNo.9 ブルックリン(天性のアーティスト)


* Bond No 9 Brooklyn *
香調:オリエンタル・スパイシー <ユニセックス>

早朝のやわらかで眩い日差しを思わせる、清澄なウッディー&シトラスの香り。
人と社会をより良い未来へ導く、天性のアーティスト。

2008年発表 * 調香師 Laurice Rahme

<トップノート>
グレープフルーツのシャープな苦味と酸味がシュワシュワと弾け出し、カルダモンがスッと鼻に抜けるような、涼やかで甘い、樹脂を想わせる淡いスパイシー感を絡める。 潤いを湛えた、透き通るようなその香は儚く、湧き出る森林の深い香の中に、温和で芳醇な印象を纏ってゆく。

<ミドルノート>
サイプレス(ヒノキ科の常緑高木)のスパイシーで爽やかなウッディー感が穏やかに広がり、その上を風が吹き渡るように、ジュニパーベリー(杜松の実/蒸留酒ジンの香り付けに用いられる)の、ライム果汁めいた濃く低い酸味とハーバルな苦味が立ち上がる。 明るく澄んだその香の奥には、微かにゼラニウムの、薔薇にレモンの風味を重ねたような独特の気配が感じられ、それは時を追うごと、次第にまろやかな甘みと華やかさ、艶をにじませてゆく。

<ラストノート>
シダーウッドの、クリーミーな甘味が熱っぽいスパイシー感の中に溶け込んだ情熱的な木の香があふれ出し、ガヤック(ユソウボク)がエアリーでエキゾチックな、コクのあるウッディー感で奥行きを出す。 どこか温かさを感じる、静かで落ち着いた、曖昧な表情。そこに、レザー(革)がそっと命を吹き込む。 アニマリック感は薄く、軽やかで、鈍いビターな甘味だけがその存在を主張するような、ほのかな匂い。それらはまるでオーラのように香り全体を包み込み、生き生きとした、エネルギッシュな魅力を編み上げてゆく。

一文で香りを表すと  カルダモンの甘さを纏ったフレッシュなジンの香りが、だんだん温かみを帯びながら、優しいウッディー&レザーに着地します。

どんな美人のイメージ?

創造性にあふれ、仲間思い、家族思い。
“声”をポジティブな変化のために用い社会を豊かにする、多くの人々の人生にインスピレーションを与えるアーティスト。

―――――まるで太陽の化身かのような圧倒的な輝きを放ち、その笑顔は周囲をパッと明るくする。
常に与えよう・助けようと心を砕き、その優しさと寛大さは、ありのままの他を受け入れ、より良い人間へと成長させてくれるほどのもの。

また、誰かが傷つき自信を失いそうなとき、咄嗟に相手の存在を全力で肯定する言動をとることのできる、強い、迷いの無い精神を持ち、決してぶれない。

人生に感謝し、旅を愛し、誰も見ていないどんな小さな瞬間にも責任ある行動をする、思いやりに満ちた心の綺麗な人。

香りの表情と性質

選び抜いた素材それぞれの個性への敬意と愛情を感じる、シンプルで透明感あふれる香水。
音楽に例えるならば、技巧的なア・カペラの合唱を聴いている時のような、清々しさと美しい調和を楽しむことができます。

スパークリングな明るさと、さり気ない温かさ、それらが一つの香りの中で一体となることで成熟し、強さや艶、情に満ちた優しさを醸し出している、なんとも不思議な魅力を感じる香りで、ごく淡いその香り方は開放的。

また、“スパイシー”な香調ではありますが、鼻にくる硬さのあるスパイシーさでは無く、アロマティックにスッとした、心にくるスパイシーさ。
甘さはほとんど無くマスキュリンな雰囲気を持ちますが、全体的にとても軽やかかつクリーンで、現代的な、洗練された印象を受けます。

肌に纏うと、ウッディーの持つ頑丈さや安心感に包まれ、ジュニパーベリーの放つ澄んだ輝きに心を刺激され、レザーの色気ある温かさにシャンと背筋が伸びる、とても感覚的な気持ちの良さを味わうことができ、そうしているとふと自然と良い人間であろうと努力したくなる、そんな、心に良い影響を与えてくれる香りです。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ディプティック オイエド(九鬼周造「いきの構造」な美意識)


* Diptyque Oyedo *
香調:シトラス・アロマティック <ユニセックス>

耿耿たるシトラスの奏でる、満月のような匂い。
日本人の美意識をくすぐる、「いき(粋/意気)」な美人香水。

2000年発表 *

<シングルノート>
マンダリンの甘い果実の香りがジューシーに広がり、ライムがシャープな苦味を、レモンがきらきらとした明るい酸味を絡める。シロップのように溶けて混ざり合い、甘めで、どこか温かみを感じる、まろやかなシトラスミックス。その柑橘ハーモニーをふわっと持ち上げるように、タイムが爽やかなハーバル感を吹き込む。

微かにグリーンで、どこか鼻に抜けるようなスパイシー感の混ざった、ソフトなフレッシュ感。ベースのウッディー系の香りを支えに、ゆったりと漂う柑橘の甘さを際立たせ、あるいは苦味や酸味を霧に包み、柔らかさと洗練を縫い込んでゆく。 そんな、淡いハーブの香りが全体の印象をグッと引き締めた、軽やかで品の良い柑橘の香りが、始めから最後まで穏やかに続きます。

一文で香りを表すと  入浴剤の「ゆずの香り」のような、温かで明るい、バランスの良い柑橘系の香り。

どんな美人のイメージ?

薄化粧、湯上りの肌にうすものを纏い、意気張りの素足が、冷たい座敷の褪せた畳を踏みしめる。
細っそりとした姿、その柳腰には緑の黒髪がかかり、艶やかな、近接の過去の潤いを想起させる光沢を帯びた瞳と、白魚のような指先が、いつかの余韻をひそやかに語る。

ゆったりと座し、酌をして。軽く崩した姿勢は“異性へ向かう能動性と異性を迎うる受動性”をほのめかし、甘えずして色気のある、独特の抑揚をもって紡がれる言の葉は、聞く人の心を掻きむしる。

婀娜っぽい、かろらかな微笑みを浮かべ、凛呼たる気概をもち華やかに振舞う、彼女の穏やかな強がりに滲む、諦めに基づく恬淡、熱い涙のほのかな痕跡―――――。

江戸の人々はその「心意気」を尊び、共感し、諸行無常の儚い浮き世に生きる苦しみを「意気張る」ことによって昇華せしめ、そうして情緒を重んじる文化の中で、それは「美的理念」にまで押し上げられていった。

日本の美意識、「いき(粋/意気)」の感覚。

色気と意気張りと恬淡と派手、――――内面の葛藤を振り切って、あるいは振り切ろうとするエネルギーの表出。

これはそんな、「粋」を呼吸する人々を彷彿とさせる香り。

香りの表情と性質/シトラスの香りはセクシー?!

日本固有の美的理念『いき(粋/意気)』を分析した哲学者・九鬼周造氏によると、粋とは、

『媚態』(=異性に媚びる態度)とその『二元的可能性を基礎とする緊張』(=自己と異性の二者の間における、相手の征服を仮想目的とする男女関係の構築における緊張感)をベースに、

『意気地』(=江戸の道徳理念を反映した気概。 「鳶者は寒中でも白足袋はだし」「武士は食わねど高楊枝」や江戸の太夫の讃美『金銀は卑しきものとて手にも触れず、仮初にも物の値段を知らず、泣言を言はず、まことに公家大名の息女の如し』などに謳われる、理想主義的な“意気張り”による媚態の霊化)、

そして『諦め』(=仏教によるところの解脱。 あるいは“世智辛い、つれない浮世の洗練を経てすっきりと垢抜した心、現実に対する独断的な執着を離れた瀟洒として未練のない恬淡無碍の心”、という意味での「無関心」)による非現実性を含んだ、民族的・歴史的色彩をもった、

『質料因たる媚態が自己の存在実現を完成したもの』(≒本来ならば現象の構成要素の1つでしかない「媚態(=異性への媚び)」が、それ自体で1つの概念を成したもの)であると説明されています。

日本の「美意識」を理解するには、「余情」や「幽玄」、「わび・さび」、「もののあわれ」、「移ろいゆくもの(諸行無常
)」や、「あいまいの美」といった概念の哲学的・文化的理解を多く要するかと思いますが、(これらの時代背景を含めた「古典的な日本人の美の感覚」を捉えるには、世阿弥の能楽論書や三木清の言うところの日本式「情念」等が、現代人にとって大きなヒントであると私は感じます)、

こと「いき」に関しては、遊里に発し、江戸の町人の間で美的な生活理念として一般化されたという特殊性により、九鬼氏が「いきの構造」の中に集めたように、意識現象としての粋の意味から、客観的表現としての粋の存在様態に至るまで、様々な具体の中に「いき」が息衝いているため、令和に生きる私達にも直感的に理解しやすく面白いです。

いくつか挙げると、粋な姿としては、薄化粧、素足、うすものを纏うこと等。味覚・嗅覚においては「有機体に強い刺戟を与えるもの、しかも、あっさりした淡白なもの」。模様ならば「小雨や柳条の軽みをもった、明瞭な縦縞」、色彩ならば「温色の興奮を味わい尽した魂の消極的残像の表現として、黒味を帯びた色、灰色や褐色、寒色系」。

芸術的表現における「いき」の例としては、西洋絵画の「腰つきの妖しい」表現や「裸体」とは全く異なる感性として、日本画に見られる「軽く崩した姿勢」や「湯上り姿」を艶姿として挙げています。

また、音楽ならば田辺尚雄氏によるところ、旋律においては都節音階(=E-D/C-H-G/F-E)における都音(=主音)なる平調(=E音/ミ)と、微音たる盤渉(=H音/シ)の整然たる関係の保持、および各音の(=西洋音楽でいうところのコード進行からの)逸脱の度合いの少ないもの、リズムにおいては、唄と伴奏楽器の間の多少の変異の存在(≒旋律上の品性を損なわない程度の遊び心と、リズムの微かな不和の生む緊張感)が「いき」なのだと考察されています。

文化の差異とは面白いもので、改めて日本の美意識に触れてみると、
この香水は西洋的感覚(とそれに影響された現代日本的な感覚)では全くもって「セクシー」といった類の系統ではありませんが、上記の「いき」の定義によれば、この香りは極めて「いき(粋/意気)」な色っぽさを持っているということができます。

確かに想像してみると、江戸の夏、浴衣姿の女性が縁側で凛と微笑む姿の艶っぽさは、決してゴージャスな薔薇やバニラの香りではなく、まさにこんなシトラスの、すっきりとして洒脱な香りがよく似合います。

最初から最後までずっとシトラスが香るシングルノートで、軽やか。
入浴剤を入れた湯のような気持ちの良い香り方をするので、世代や性別を問わず、自然な爽やかさ・溌溂さを演出したり、リフレッシュに用いるのもおすすめです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★★☆☆
[TPO] 春・夏 / デイタイム・夕涼み

シャネル アリュール(社交的なカメレオン)


* Chanel Allure *
香調:フローラル <レディース>

正統派だけれど新しくもある、フローラル&フルーティー&バニラ。
変幻自在のカメレオンのような、あか抜けた社交的な女性を彷彿とさせる香水。

1996年発表 * 調香師 Jacques Polge

香りの構造は従来のトップ・ミドル・ラストのピラミッド型ではなく、次の6つの区分の香りが、まとう人によって異なる順序で現れる「シンクロ・ノート」。
どれも薄いヴェールが風にそよぐみたいに常に淡く交じり合い、軽やかで、けれど時折複雑な表情をも見せる、不思議な香水です。

<フェミニン・フローラル> 花びらだけを集めたような、繊細でパウダリーなノート。メイローズのエレガントさに、ほんの少しジャスミンがスッキリ感を加えたような、曖昧な香り。主張はせず、華やかさだけを香り全体に行き渡らせているような、あまり目立たない存在。軽やかで、どこかスパイシーさも感じる、正統派のフローラルブーケ。

<イマジナリー・フローラル> 潤っていて、滑らかで、これが香るとハッとするほど素敵。マグノリアのフレッシュな甘い花の香に、ハニーサックル(スイカズラ)のフルーティー感が大胆に混ざり、その下をスイレンが波となって流れているような、ささやかなロマンティック感。蜜めいた純な匂いが、ギリギリのバランスで洗練された印象を醸す、美的センスがあふれるノート。

<フルーティー> 美味しそうな、瑞々しい印象をもたらしてくれるノート。シチリアン・マンダリンを中心とした穏やかな柑橘の香りを、桃系のまろいフルーティー感で膨らませたようなフワッとした果実感が魅力で、さり気ないのに印象的。フローラルと絡んだときが特に美しく、きらきらとした、優しい女性像を描き出す。

<フレッシュ> このノートが香りたつときは、少しシャープで、パッと輝くような明るさがある。シトロンを中心とした、酸味の強い、くっきりとしたシトラス(柑橘)ノート。

<ウッディー> やわらかで落ち着いた、気品あふれるノート。これが香るときはかなりしっかり主張するのに、重々しさはなく、どこかクリーミー。ハイチ産ベチバーの媚びないすっきりとしたウッディー感を、サンダルウッドがオリエンタルな情緒で甘く包み込んだ、あたたかな、夢心地の香り。成熟した大人の空気が流れ出す。

<オリエンタル> あちらこちらに顔を出す、ほんわりとしたレユニオン産バニラ。控えめな甘さで、香り全体に女性らしい遊び心を散りばめる存在。 ふっと香って、居なくなって、ふらっと別のノートと絡んだかと思えば、ふいにストンと主張もする、愛らしい子。オリエンタル的な暖かさと少しのスパイス感が潜んでいて、さらっとしつつもコクのある、あか抜けたバニラ像を描き出している。

一文で香りを表すと  クラシカルで正統派な、オールマイティーな香り。

どんな美人のイメージ?

社交的で協調性の高い、人気者の女性。
あか抜けていて、周りの空気をよく読み誰とでもすぐに打ち解ける、パーフェクトな人。

この香りの持つカメレオン性は、まさにそんな優れた人格を感じさせるもの。

こだわりなく様々な表情を見せつつも、不可侵な領域はきちっと守っている、洗練されたクラシカル調。そこに清潔なパウダリー感や、気持ちの良いフレッシュ感を盛り込んだその姿は、香水にも人にも通じる「あか抜け」の法則があるように思います。

周囲の人とうまく調和しつつも、自分をしっかりと持ち、臨機応変に対応する。
いつでも心を開いて真剣に他者と向き合い、相手の良いところを見習い、人格を尊重する―――――。

誰のこともうっすらと愛しているような、温かな情に満ちた女性。

香りの表情と性質

フローラルを基調とした、どこかメカニカルな香りの移り変わりが楽しめる、他にはない構成。
各ノート毎の個性あふれる香りは端整で、それらは交じり合い香水特有の複雑なハーモニーを奏でているのに、嗅ぐ人には不思議と難解な印象を与えたりはしない。

それはまるで、クラシカルな香りはそのままに、「香り方」だけがモダンに生まれ変わったかのような、なんとも言えない感覚上の新しさがあります。

また、とても女性らしいのに、弱さやセクシュアルさが全くないところも、この香水の大きな魅力。

全体的にソフトで、拡散性も程よく、香り自体も癖が無く、酸味も甘味も控えめ。
いつでも安心して使うことのできる、社交的な香りです。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

グレ カボシャール(偉大な師匠)


* Gres Cabochard *
香調:レザー <レディース>

禁欲主義的な、シプレ系レザー香水。
誰にも何にも縛られず独自の道を切り拓く、偉大な師匠を想わせる香り。

1959年発表 * 調香師 Bernard Chant

<シングルノート>
レザー(革)のアニマリックな匂いが、灰になって肌の上に君臨する。粉末のざらついた硬さが嗅覚上におこす、コントラバスの音のような、鈍く震えた緊張感。その奥から、オークモスのアーシーな苦味が染み出す。 低く、喉に落ちるような、暗い苦み。それはアルデヒドの不思議な暖かさに包まれて、シャン、と背筋を伸ばす。

暗闇のなか深く、そっと響く香りの声は澄んでいて、張りがあって、熱っぽい。

タバコの葉の豊かなスパイシー感が、灰の中から切ない理想を語る。アンバーやムスクと溶け合ったその微かな甘さは、それがまるで過去のものであるかのように、くすんで、さびて、埋もれている。静かで少し憂鬱な、甘いと言うよりもただ仄かに温かい、傾く日のような匂い。

それらを繋ぐのは、柔らかなフローラル。古い宗教画の中から摘んできたような薔薇の香は、ポプリよりも生きた艶を持ち、生花よりも命の輝きに乏しい。 懐古的、あるいはデカダンスな空気を肌に刷き、すこしだけ微笑んで。淡いパウダリー感を鉤にレザーの灰の裾野に咲いて、埋もれた暖かな甘さをその根で吸い上げる。

どこか石鹸めいた、誠実な華やかさの広がる一方、オークモスの伸びた背中には、磨いたような、清々しい光が踊る。 まだ新鮮なジャスミンとオランダスイセンのグリーン調の花の香が、漂う苦味を優雅にならし、白樺らのまろやかなウッディー感と共に、弓をいっぱいに引くような凛とした香りのハーモニーを奏でる。

長く、安定して香り続けた先。少しずつ苦味が抜ければ、高原の花の蜜のような、ほのかな辛い甘みに丸まってゆく。

一文で香りを表すと  レザーの真ん中で、苦みの強いシプレとソフトなローズ系フローラルが調和した、パウダリーな香りです。

どんな美人のイメージ?

自己を陶冶し、高潔無比な自我を確立し、己の選んだ道を究め伝統を守り、更には独自の道をも切り拓く、聡明叡智なパイオニア。
そして其れを惜しみなく後生へと伝え、教え導き育ててゆく、偉大な師。敬愛する師匠。

華やかな風格を備え、威風凛然として多芸多才。
深い愛情を基盤に成される厳格な指導、先見の明、豊かな表現力、どれもが鋭く円熟無礙。

芸術の厳しくも美しい世界を愛し、孤独に打ち克ち未だ見ぬ世界を創造し、人々に夢と希望を与えてくれる類まれな人物―――――。

この香りの醸すストイックさは、そんな性質を想わせるもの。
温かな人間的魅力と存在感はレザーやタバコの甘苦いスパイシー感に、厳格な表情はシプレの苦味に似て、溢れんばかりの才能、情熱や風格は輝く花の美しさに似て、魂を震わせる。

浮ついた心をビシッと引き締めてくれる香りでありつつも、纏っていると懐の深さを思わせる柔らかな温かみを感じられる所がこの香りの最大の魅力で、それは生涯を通して戦い続ける人々のみが持つ、独特の静かな熱のようでもあります。

香りの表情と性質

渾然一体となって香るようでいて、中にはしっかりと構造があるような、不思議な秩序を感じる香り。
クラシカルなシプレ調ですが、苦味がガツンと効いている一方で、石鹸のような柔らかなフローラルも同時に広がる、正座しながらほれぼれ嗅いでいたくなるような香水です。

鈍く暗いのに、真ん中にポツンと置かれた蝋燭から柔らかな光が広がっているような、不思議な明度と温度。
外側はパウダリーな感覚を与えるのに、内側はとてもジューシーかつクリーミーで、それらを包み繋ぐかのようにスモーキーさが染み渡っている、複雑な香りの感触。

香りにはこんなにも豊かな表現力があるのだなあ、と改めて感心してしまうほど、心に訴えてくるものがある香水です。

また、「カボシャール」とは「強情」や「わがまま」という意味だそうですが、しなやかな柔軟性でもって、始めから終わりまで1つの香りを保つその様は、まさにそんな純なエネルギーに満ちていて、凛々しく、素敵。

女性らしい甘い香りは絶対に付けたくないけれど、シトラス系は癇に触るしメンズ香水も癪に障る、というような気分の日に付けると「これだ!!!」と体中に電気が走る、心地よい、禁欲主義的な表情。
ダンディズムのようでいて、ある種の女性ならではの闘志を知っているような、強い、気高い、美意識の塊。

誰かと戦うための筋肉でなく、誰にも縛られず存在し続けるための骨と筋肉。
この香りの持つ強さのベクトルは、そんな「個」でありたいという欲求とその快を、それらを満たすに伴う辛さ・厳しさで縒り、悦楽の中に丁寧に溶かし込んでいったようなもの。

常にはそ知らぬ顔で寄り添い、怠惰な気分にはビンタをくれ、また、辛い気分のときに付けると、強い苦味がとても気持ちよく心を包み込み、静かで、ほっと慰められると同時に、スパイシーな温かさが沸々と意欲を湧かせてくれる、薬箱にも常備しておきたい系。

万人には薦められませんが、クラシカルなシプレ調がお好きな方や、複雑でかっこいいレザー香水をまとってみたい方には是非とも試してみてほしい、本当に素晴らしい香水です。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

クロエ ラブストーリー(か弱く柔順な恋の中の女性)


* Chloé Love Story *
香調:ホワイト・フローラル <レディース>

恋の中の女性が醸す「か弱さと柔順さ」が香水に化けたような、あまりにも清楚で愛らしい香り。
柑橘のフルーティー感に包まれたネロリと、遠慮がちで大人しいムスクの囁き声。

2014年発表 * 調香師 Anne Flipo

<トップノート>
楚々とした柑橘の香が、フレッシュに広がる。――はっと心を奪われるような、お嬢様めいた品の良さ。浮かぶ甘い微笑みは柔らかなフルーティー感に化け、しかし纏う微かな憂いは酸味を細く鋭く弾けさせ、その奥、どこか痛みを湛えた瞳は弱い苦味へと化け、デリケートな、そよ風めいたシトラス感を作り出す。

誰をも必要としていないような、凛とした、完成されたフルーティーシトラス。それは彼女が自分の足で立ち、闘い続ける強さを持つが故のよさよそしさであり、しかし一人の限界を知り尽くした人間特有の、穏やかに他者へと開かれた心の窓より放つ光でもあり――――。
彼女に問いかけると、遠慮がちに視線を上げて、目が先に何かを語り―――、ひとたび口を開けば、まろい声、言葉、口調が、華やかなネロリに化ける。

<ミドルノート>
ネロリ(ビターオレンジの花から採れる製油)の香りの醸し出す、清らかさとロマンチックさの秘密。誰しもが求めて止まない、母性めいた無償の愛と、他者を優しく受け入れる懐の深さ。

――――彼女の柔順さは、教えを請うがゆえの真摯さであり、差し伸べられた手に対する深い感謝と尊敬の念に由来するものであり。色に例えるならば、純白。男の手によって何色にも染められてしまいそうな危うさと、全ての可視光線を一様に反射することに感ぜられる雪の白さめいた、底知れぬ強さを併せ持った「白」――。その「白」が、甘い芳香となり立ち上る。

核にあるのは、澄み切った花の気配。ネロリの香の華やかさ、―――周囲に向けて開花をアピールする類のものでなく、もっと内向的な、纏う明るいシトラスの襞を幾重も手で掻き分けた先に、ほんわりと微発光しているような、極めて淑やかな華やかさ。その一番美しい甘さを両の手で掬い取り、オレンジ・ブロッサムとマダガスカル・ジャスミンを添えて、淡い虹の艶を幻出させる。

トップから続く軽やかなシトラスのフルーティー感に抱かれ、そっと零れるよう、清らかな花の甘さのあふれ出す。男の下心さえもが恥じらう、あまりにもピュアな微笑み。

<ラストノート>
まっさらな真綿を想わせる、澄んだムスクがあふれだす。白く光沢があり、丈夫で軽く、保温力に富んだ、優しい甘さ。向かい合うのでなく、共に1つの問題に向き合い、イメージを伝え、結び、分かち合う、精神の豊かさ。それが彼女の纏うオーラで、匂いで、「香り」の手触り。石鹸よりもナチュラルで、けれども自然界には存在しえない、心ある人のみが知りうる“清潔さ”を醸す、あたたかなラストノート。

極静かに、極柔らかに。心を通わせる存在の確かさを探るよう、ムスクの淡いパウダリー感が空気をやわく蕩かし、知に輝く瞳の奥の優しさが、シダーウッドにエネルギーの一形態としての質量を吹き込み――――、声音だけが甘い、清潔なひと時が紡がれる。

一文で香りを表すと  フルーティーな印象の、強いシトラス感をまとったネロリの香りが、優しいムスクの波に解けていきます。

どんな美人のイメージ?

誰かに必要とされることを望む男性と、誰かの助けを必要とする女性が出会う。

始めはおずおずと。
しかし次第に互いに自己の存在を受け入れてくれる相手の瞳の優しさに、築かれてゆく信頼と増す親密さに、緩やかに心を開いてゆき―――、ある時ふと、心の底から湧いた温かな微笑を交わす瞬間が訪れる。

時の止まったような一瞬の永遠の中、脳でなにかがスパークし、高揚と緊張、幸福感の渦に飲まれ、世界の色が変わる。
視線の先には胸を締め付ける瞳があり、指の先には電気が走り、互いの表情に息衝く見知らぬ互いに目を凝らす。

そして、音を立てる心臓に煽られ、求め・求められることを願い、深い繋がりの中に個の喪失すらをも望む、あまりにも原始的で、あまりにもささやかな陶酔感を積み重ね―――。

――男と女の情愛の一つの形をそう表現するとしたら、この香水の醸す「気配」は、そんな過程にある女性の「か弱さ」や「柔順さ」のよう。

それは弱さでなく強さであり、純粋に人が人に惹かれる心の清潔さを、関係における能動的な受動性の中に見出すような、そんな心地。
想うだけで心が洗われるような、恋の中の女性。

香りの表情と性質

まさに「デリケート」という言葉の似合う、ネロリ的シトラスとムスクの香水。
シンプルなのに印象深い、根底に流れるクロエらしい落ち着いた雰囲気と、発散されるクロエらしからぬ可愛らしい若々しさが合わさった、絶妙なお嬢様感があふれる香り。

「ネロリ」を期待するとあまりにシトラスな香りなのだけれど、「ホワイトフローラルの一番綺麗な部分」と「シトラスのあの胸がツンと(≠キュンと)するような、切なさに似たフレッシュ感」が合わさったときの、肌がチリチリするようなエモーショナルな品の良さが感じられるトップ&ミドル。

それがクロエ独特の石鹸的な清潔なムスクの中に解けていくのを、肌の上に、嗅覚に、心に、感受性をフルオープンにして感じてみてください。

純粋な恋心に包まれた、あの清潔なトキメキと幸せな心地に似ています。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

カルティエ ラ パンテール(闊達無碍の女豪傑)


* Cartier La Panthere *
香調:シプレ・フローラル <レディース>

闊達無碍!義侠心あふれる女豪傑が宿る香水。
異国の熱風に混じる、甘い果実と花々の香り。

2014年発表 * 調香師 Mathilde Laurent

<トップノート>
熟れた、それでいてカラリと無重力の浮遊感を纏った果実の香りが、肌からゆらゆらと立ち昇る。鼻腔を擽るのはドライフルーツの渦。種々の果実の複雑な風味が水分の蒸発と共に撚られ、キリリと絞られた単一の篭もる甘さを核に、鈍い酸味と微かな渋みが繭をつくる、独特の匂い。その流れの隙間にルバーブがチカリと明滅する酸味を、ストロベリーが転げまわる様な弾んだ甘酸っぱさを、アプリコットとアップルが綿をちぎった様な笑んだ柔さを挟み込む。

<ミドルノート>
渦の中心から徐々に湧き上がるように、ガーデニアを中心とするホワイトフローラルの香が高く広がる。透き通るような、すっきりと整った華やかさに、清流に磨かれ艶を帯びたグリーン感が寄り添い、パアッと光を放つ。 ひどくクリーンで、近寄りがたいほどに冴えた花の香が意識を攫うと同時、その香の少し奥から零れる南国気質の蜜の甘さに魅了される、不思議な感覚。それは時間を追うごと、混じり出すラストノートの土属性の香に触れ、はっきりと蠱惑的な印象に変化してゆく。

<ラストノート>
極細の絹糸で編み上げた様な、ふんわり且つクリーミーなケトン・ムスクのショールが全身を包み込み、オークモスが大地から力強く風を吹き込む。密度の低いモダンなパウダリー感は開放的で、苦味を抑えたほのかにスパイシーなアーシー感は都会的。纏う人其々の体臭をアートに変えて、少しの色艶を滲ませてゆく、優しいシプレ調の香りが肌に留まります。

一文で香りを表すと  エキゾチックな浮遊性の果実の香りが、熱を帯びた甘いガーデニアへと熟れ、ゆっくり滑らかに解れながら、ムスキーな大地の香りに落ち着きます。

どんな美人のイメージ?

彼女の目は黒曜石のように燦然と輝き、スッと結ばれた唇は鮮やかな紅色。
全身から生気がみなぎり、力強い笑顔と健康的な肌の潤って光る様が、見る者の心を暖め魅了する―――――、

そんな、生き生きとして情熱的、
芯が強くて自立した、闊達無碍な美人をイメージする香り。

ほわっとしたドライフルーツと濃厚なガーデニアの融合は、まるで熱風を纏った肌のような独特な感覚を脳に錯覚させ、それに包まれていると、どこか感情の煽られるような、強く美しい存在に魅入られるかのような、熱い気持ちを覚えることのできる香水。

正義感が強く、弱い者・困っている者を見ると放っておけない。
常に公平であろうとし、清廉潔白、質朴剛健。豪放な振る舞いの中に他者へ心の居場所を与え、信念を貫き、忠義を尽くす。

いつか憧れた、そんな「大きな背中」に通じる何かが潜んだ香水。

香りの表情と性質

クラシカルな安定感とモダンな軽やかさを併せ持った、フルーティーなシプレ系・ホワイトフローラル香水。
精緻な香りのハーモニーと、「情熱」「色気」の手綱をしっかりと握った、絶妙な静けさが特徴です。

トップのドライフルーツの醸す中東的な異国情緒が一瞬でテンションを高め、それが澄んだセダクティブな花の香に覆われてゆく様が恐ろしく情熱的。そのくせラストに向かうにつれ、熱も装飾も削ぎ落とし始め、遂にはヌーディーなシプレ調ムスクになって体臭と寄り添う様が、憎らしいほどスマートで丈夫。

香りの好みとはまた別に、香水の香りの変化は「気が合うor気が合わない感覚」があると私は感じるのですが、
その点でいくと、この香水の持つミドルからラストへの「情熱を肌の下に埋め込んでいく感じ」はとても克己心を彷彿とさせるもので、ピタッと波長の合う人は本当に嵌まれる系。

また、ラストの地に足のついた、それでいてあっさりとしたムスキーシプレは、人によっては少し心許無く感じたり、どこかスパイシーな硬さが気になったり、ミドルからの移り変わりも相まって「もう一枚服を着たい」様な物足りなさ、落ち着かなさを感じるかもしれません。

しかし逆に、この「削ぎ落とす感覚」のもつ豪傑肌的な感覚に快さを覚え、また、ラストのシプレ特有の苦味やスパイシー感を快く感じる人は、精神および感性の成熟や、我慢強い、芯が強い、といったマインドとのリンクから、この香水の持つキャラクターに共感しやすいかと思います。

ピタッとはまれる人にはこの上なく良き相棒香水に。
はまれずとも前向きな気分になりたい時、悩みを吹き飛ばしたい時に纏うと、エナジードリンクならぬエナジーパフュームのような、元気をくれる存在に。

女豪傑が背中を叩いてくれるような、力強い一本です。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ヴェルサーチ クリスタル ノワール(とろける笑顔の悪魔な迷子)


* Versace Crystal Noir *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

ガーデニアが熱を孕んだ、スパイシーでオリエンタルな香り。
とろけるような微笑みを自在に操る、確信犯的無邪気さを人間的な色気で覆った女性。

2004年発表 * 調香師 Antoine Lie

<トップノート> ジンジャーのフレッシュで明るいスパイシー感がきらきらとあふれ出し、カルダモンが樟脳にレモンの風味を微かに混ぜたような、スッとした爽やかさとアロマティックな甘さの合わさったスパイシー感を絡める。 そしてその輝く香りの波間に、鋭く、深く潜り込むようにして、ブラックペッパーが熱の籠もった、カッカと爆ぜるような辛味の芯を通してゆく。

<ミドルノート>
とろけたココナッツのミルキーな甘さがトップのスパイシー感に滲み、湧き出し、飲み込み始める。 どこか苦味の混じった、低くしめやかな宵の匂い。その中から浮き上がるように、ガーデニア(梔子)が艶やかな花の香を漂わせる。濃厚で旨味のある、朽ちた甘い華やかさ。軽やかだけれども存在感のある其れに、オレンジブロッサムとピオニーが曖昧に寄り添い、石鹸めいた、クリーンな印象を巻きつけてゆく。

<ラストノート>
驚くほど滑らかで、爽快さすら醸す深いサンダルウッド(白檀)の香が、ゆったりおおらかに広がる。落ち着いていて、けれども不思議と重みは感じない、優しいウッディー感の波。 そこに、アンバーがオリエンタルな甘い熱を、ムスクが繊細なパウダリー感を絡める。 程よい厚みと、ミステリアスな籠もった甘さ、どこかダーティーな気配を奥底に秘めつつも、肌の上にはまろい清潔感を描き出す、絶妙なバランスの不思議な香が、微笑むように長く静かに漂う。

一文で香りを表すと  フレッシュなスパイシー感が、ミルキーなココナッツ&ガーデニアに蕩け、ゆったりと、オリエンタルなウッディー感に染まってゆきます。

どんな美人のイメージ?

温かな優しさと、丁寧で敬意に満ちた柔和な物腰、穏やかな瞳の輝きに、気品あふれる立ち居振る舞い。
さりげない微笑みや視線の使い方はもちろん、選ぶ言葉、口調、声までも、相手に心地良く響くよう工夫し、常に周囲に調和と安心をもたらそうと心を配る。

他への感情移入に長ける一方、そうして他の心に寄り添うことで相手の求めるものを的確に判断し、ときに気まぐれに与えたり、ときにそ知らぬふりをして、個々人の気分や情緒の触れ幅を把握し、分析してゆく。

――――愛を語るには狡猾で、愛を乞うには無防備で、愛を与えるには無邪気で。

人格を見据え、感情を耳に、快を幸福に延べる術を知り、純化による普遍性の中に住まう魔物を操る。
そして幼子のような甘えを恥じ、大人のような小賢しさを恥じ――、ふいに融けてただ幸福の顔の迷子になる。

それがゆえ、ひとたび彼女の空気にのまれた者は、ふいに浮かぶ彼女のとろけるような微笑みが気になって仕方がなくなる―――。

無意識にか確信犯かは知れずとも、そんな、他人の心を自分に引き込むのが上手い女性を彷彿とさせる香水。

人を喜ばせることが好きな、天性の悪魔。

香りの表情と性質

ムスクの繊細なパウダリー感が、どこか落ち着き払った頑丈なウッディー感を包み込み、そこにアンバーが熱とオリエンタルテイストを絡めた、ラストノートがあまりにも色っぽくミステリアスな香り。

このベースの支配が香り全体に独特の雰囲気を与えており、思わず引き込まれてしまうような、胸の奥がざわつくような、毒矢のような罪深い魅力を醸し出しています。

ガーデニアのシルキーなフローラル感も最高だけれど、単なる綺麗な花の香とは一線を画した、その奥に蠢く、あふれ出しそうなスパイシー感。
この「内側に熱や衝動を秘めた気配」が本当にたまらなく心地よくエロティック。

また、媚びるような粘度の高い性的な色気でなく、もっと快活で力強い人間的な色気があり、それがその気配と融合する様が、ぞくぞくするほど素敵。
全身に生気がみなぎり、瞳には自信からくる穏やかな優しさが湛えられた、「この人の傍に居たい」と思わせるような類の魅力に通ずるものを感じます。

一般的に「オリエンタルで色っぽい香り」と言うと重くクラシカルなものを想像しがちですが、この香水はとてもモダンでソフト。

ともすれば陽気な振る舞いで心を隠すココナッツと、ともすれば近寄り難いほどの落ち着きを醸すサンダルウッドが、互いの違いを理解し合い、吸収し合い奏でる奇妙な「とろける感」。

それが恐らくこの香水の持つ不思議な魅力の核で、切なさで、愛くるしさ。

また、この香水のユニークな点は、そこにフレッシュなスパイシー感がブレンドされることで、トロッとした柔らかさと同時に、カッチリとした芯や気品が感じられるところ。

その相反する要素が美しく融合している様が、洗練された自分の意志を持つ大人の女性でありつつも、ふと浮かぶ笑顔がとろけるように甘やかな、何とも癖になる魅力を備えた人物像を彷彿とさせます。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★★☆
[TPO] 春・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ヴァンクリーフ&アーペル フェアリー(菫色の少女)


* Van Cleef & Arpels Feerie *
香調:フローラル・フルーティー <レディース>

物静かで恥かしがり屋な、永遠の少女。
スミレ色の儚げな空気をまとった、淡いベリーの香水です。

2008年発表 * 調香師 Antoine Maisondieu

<トップノート>
ヴァイオレット(菫)の吐息が零れる。静かな、ほんの少し水面を揺らすほどの、軽やかな芳香。粉砂糖みたいな甘いパウダリー感が肌を渡り、ブラックカラントとレッドベリーの、光るキャンディーがきらきらと流れてゆく。
ピリッと感を強調したような、そのどこか懐かしい甘酸っぱさが広がる中を、ほのかにグリーン調の瑞々しさをまとったイタリアン・マンダリンがすうっと泳ぎ、フレッシュな、明るいジューシー感が香りを満たしてゆく。

<ミドルノート>
ぽかぽかした陽光にキャンディーが溶けて、中から花びらが顔を出す。ピンク色したブルガリアン・ローズに、エジプシャン・ジャスミンが草の葉めいた艶やかな青みを微かに混ぜた、エアリーな薔薇の香り。 ほんわりとした質感でトップのベリーを覆って、そのキャンディー感を柔らかな花弁が磨いて、洗練された、フェミニンなフローラルノートが漂う。

<ラストノート>
愛らしい声でささやくミドルノートに、沈黙が降りてゆく。アーシーで仄かに苦味の混ざったアイリス(ニオイアヤメ)の雲が、もくもくと香りに垂れ込める。 透けそうなくらいフワフワしているのに、中でパチパチ静電気がはじけているような鋭さをも同時に感じさせる、ストイックなアイリスの澱粉香。
その雲の中に、ベチバーとサンダルウッドの影が映る。程よくドライな土っぽい木の香が伸び、うっすらムスクとベンゾインの葉が茂った、控えめな甘さのパウダリー感。 残照の空のような明度の、清らかな大地の香が肌の上に広がる。

一文で香りを表すと  甘いベリーキャンディーの中から薔薇の花びらが現れ、ふわふわ感を増しながら、アーシーなパウダリー感に溶けてゆきます。

どんな美人のイメージ?

―――彼女の瞳は雄弁だ。
深い森の奥にひっそりと広がる湖のような、静謐な潤いを湛えたその目はいつも何かを訴えていて、瞬き一つで喜びの光が差し、瞬き一つで悲しみの雨が宿る。

彼女にかかれば、沈黙は永遠よりも長い。
薄い瞼は海を抱き、つややかな睫は輝きを幾重にも散らし、甘い色した虹彩は太陽を夢見る。

じっと真っ直ぐ世界を見つめて、ふと恥ずかしげに目を伏せて――――。

この香りのもつバイオレットのパウダリー感はそんな物静かさに似ていて、重なるキャンディー的なカシスの甘酸っぱさは、そんな内に秘めた想いを瞳で語る、少女めいたシャイな純粋さを思わせます。

香りの表情と性質

「blue violet」の花言葉、「愛」と「忠実」をそのまま香りにしたような、静謐で清らかなベリー&バイオレットの香水。
バイオレットとアイリスの醸す独特な雰囲気を大切にしつつ、外国製キャンディーのような乙女チックな甘酸っぱさを前面に押しだした、ちょっと変わった香りです。

ベリー系というと可愛いすぎたり子供っぽくなってしまったりしがちですが、この香水のもつパウダリーな静けさは、大人の女性がつけても充分に満足できる洗練された表情を作り上げており、しかもそれでいてちゃんと「少女」っぽい、何ともキュンとする可愛さをも兼ね備えています。

始めのフルーツはかなり甘めですが、その後はだんだん落ち着いてゆき、全体を通して効いているパウダリー感はどこか苦く、ほどよくアーシー。
蛍が発光しているような、しっとりとした静かな明るさが美しく、清らか、ふわふわ、ソフトで拡散性も低めなので、いつでも安心して香りを纏うことができます。

少女の瞳の純粋さを大人らしさを保ったまま宿してくれる、妖精の粉が入っていそうな、不思議な魅力を感じる香水です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

エルメス ルージュ エルメス(登山家)


* Hermès Rouge Hermes *
香調:シプレ・フローラル <レディース>

運命の導きを信じる、パッションに満ちた登山家タイプ。
スパイシーでパウダリー、挑発的なセクシー・ローズ・ウッディー香水です。

1984年発表 * 調香師 Akiko Kamei

<トップノート>
ローズとイランイランがザイルで結ばれ、濃密で熱っぽい、花と蜜の生々しい香りがあふれ出す。クラシカルで重く、むせ返るような毒気のある苦みと青みの混じった、温室の植物的な爛れた匂い。 そこにアイリス(ニオイアヤメ)が暗く埃っぽい、ダーティーなパウダリー感をゾロリと絡める。

<ミドルノート>
サンダルウッド(白檀)やシダーの奏でる、勇健なウッディー感が聳え立つ。その尾根をトップノートのローズとイランイランが登攀し、大胆な、エロティシズムに満ちたミドルノートが始まる。

まろやかで深みのある白檀の甘さの中から、切り倒されたばかりの樹木が放つツンとした爽快なスパイシー感が弾け出す、豊かな木の香と、粘つく花の香の霞の狂乱。 時間が経つにつれ花の気配は静まり、底からふつふつと煮えた飴のような甘さが滲み出す。粘度の高い、ふくよかなミルラ(没薬)と擦れたアンバーの奏でる、温かな樹脂の調べ。

カッカと燃えるような熱っぽい甘さが、ゆっくりと膨らんでゆく。

<ラストノート>
スパイスミックスが怒ったような、興奮したような辛みを散らして、ミドルの香が更にオリエンタルな情景へとトラバースされてゆく。 霧深い岩壁を進むような鈍いパウダリー感と、異国の熱気めいたスパイシー感が肌を包み込み、ラブタナムとバーボン・バニラの立てる地響きが鼻腔を甘く誘惑する、叫びにも似た長いラストノート。

夜の底で燃えているような、狂おしい匂い。

その中に飲み込まれてゆく、樹脂の濁った甘さに縫いとめられたマスキュリンなウッディー感は、軟くなめらかに香り立ち、たまらなく扇情的な、焼けつくような情念を形づくる。

一文で香りを表すと 妖艶なローズ&イランイランがサンダルウッドの崖をよじ登ると、樹脂系の甘くスパイシーなマグマが噴火します。

どんな美人のイメージ?

豊満で、血の気が多く、挑発的でエロティック。
危険に魅せられ、アルピニズムの虜になり、いつかその犠牲になるのも自らの運命だと言い切ってしまうような、情熱の塊のような女性。

この香水のもつ恐ろしいほどの女っぽさは、そんな享楽的で、衝動的で、陶酔的なもの。

ゴージャスな薔薇&イランイランはこれでもかと言うほど熟した匂いを放ち、それを支える木の香は自信と根性の表れのようにどっしりとしていて、バチバチと音を立てるスパイシー感は、現代ではメンズ香水に分類されそうなほど激しい。

登山家に例えたのは、危険や困難に挑むことを好み、「運命」といった類の思想に基づき自己を貫く、あるいはその存在の意義を見出す精神性に魅力を感じフォーカスしたためであり、この香りのもつ激しさ、過剰さや熱っぽさは、そういった性質を持つ人間と接したときに抱く、ある種の感動、感慨に通じるものを呼び起こしてくれるからです。

香りの表情と性質

アルデハイドと樹脂の効いた、超絶クラシカルで永遠に色あせることのない、傑出した作品。

1900年代前半を思わせる豪奢な系統の香りですが、過去の流行といった軽率なものでなく、ある種の文化的な時代とその女性像を象徴するものであり、また、どの時代においても決してありふれたものには成り得ない個性の強さを持っているため、現代的感覚の中でも、充分に評価や居場所を得ることのできる香水だと感じます。

とても力強く、パウダリーゆえの存在感があり、洗練された美しさがありますが、その「洗練」を支えるものはひとえに「成熟」であるという、非常にハードルの高い香り。
大人だからといって無条件に似合うものではない、女性的にも人間的にも成熟し、かつ常人ならぬパッションを燃やす人にのみ似合う香り。

「最近流行の香水は、どれも根本的に趣味じゃない!」というお姉様方はもちろん、「成熟したくない、少女のままでいたい大人」な方にも是非知ってほしい、パワフルで美しい女性像を感じさせてくれる香水でもあります。

何気なくプッシュして大量につけてしまうと本当に「く、、クラシック!」ですが、ほんの少量を下半身につけると、どこか個性的で、けれども突飛さは無い、よい具合の特別感を醸しだしてくれます。

情熱が足りないときや、刺激的な女性になりたいとき、運命を信じて突っ走るような強さが欲しいときの、カンフル剤にも最適。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★★☆
[TPO] 秋・冬 / ナイトタイム

ゲラン イディール(篤志家)


* Guerlain Idylle *
香調:フローラル <レディース>

清く正しく美しい、薔薇色の頬をしたスズラン系フローラル香水。
平和で愛に満ちた世界を夢見る、仲間想いのリーダータイプ。

2009年発表 * 調香師 Thierry Wasser

<トップ&ミドルノート>
リリー・オブ・ザ・ヴァレイ(スズラン)の花弁の上を、朝露が珠となり転がる。 真っさらの澄んだ華やかさがパアッと広がり、そのすぐ後を微かな酸味とグリーン感がさざ波を立てて追いかけ、きらきらした、清々しい香りの詩が流れ出す。

まるで仙界の調べのように輝きうねるその奥、ハープのような音色で庭園の幻影を編み上げてゆくのは、ジャスミン、ライラック(紫丁香花)、フリージア(浅黄水仙)、ピオニー(芍薬)。
つややかで、なめらか。花びらをたっぷりの水に漬けて、その上澄みだけを柄杓で汲んできたような、くせのない優雅なフローラル感が、渦巻き、踊り、風に遊ぶ。

触れれば消え失せそうなその幻に、はんなり重なり血を通わせる、ローズ(Bulgarian rose & Plessis Robinson rose)の姿がある。 蜂蜜に似た蕩けた甘さを行き渡らせる、どこか控えめで、けれども存在感のあるモダンな薔薇の香。程よいパウダリー感はサラリとしていて、ともすれば微睡みたがるフローラルノートを根底から淡く揺すり、それぞれの素材の持ち味を目覚めさせ、開放的な響きを生み出す。

穏やかでフェミニンな印象のフローラルブーケが、はじめは少しシャープに、時間が経つにつれ滑らかさや暖かみをはらんで香り立ち、ゆるゆると輪郭を曖昧にするごと、底に沈んでいたムスクが浮かび上がり始める。

<ラストノート>
どこか懐かしいような、記憶の中の大好きなブランケットにくるまったときのような、優しい匂いが肌を撫でる。ホワイトムスクのまろやかな甘さにパチョリが淡い影を落とした、気品あふれる香りのシルク。 ほのかなウッディー感は健やかで、そこはかとないアーシー感は朗らか。トップ&ミドルのフローラルをゆっくりとシプレ調に染めてゆく、ハミングのようなラストノート。

一文で香りを表すと  スズランやジャスミンの咲く早朝の庭園に日が差し込み、朝露がきらきらとロージーな輝きを放ち、ほのかに大地の香の混じったムスクの霞が暖かに広がってゆきます。

どんな美人のイメージ?

彼女は世界を心から信頼し、正しいことをすれば自ずと結果は付いてくるのだと信じている。

誰かが手を差し伸べなくてはならないとき、それは自分の手だと彼女は感じ、どんな状況にも飛び込んでゆき力を尽くし、たとえそれがどれだけ悲惨な現実に満ちていても、その手が決して無力でないことを知っている―――――。

この香水の放つ「フローラル」は、そんな芯の強さと気高さを感じさせるもの。

「咲いた花」の美しさで他を魅了しようとする類のものでなく、ただ「花が咲くこと」の美しさを一身に表したような、あまりにもピュアな表情の「フローラル」。まるで蕾の開いたばかりの、純な清々しさで空気が洗われる心地さえ錯覚するような、そんな「開花の瞬間の感動」を閉じ込めたような香り。

たとえばそれは、慈善事業に身を捧げる女性や、皆が力を合わせれば世界が良くなるのだとスピーチする活動家の女性のような、まっさらな正義感と高潔さに似たもの。

Idylleはフランス語で『純愛』という意味だそうですが、この香りの醸し出す「愛」は、自分の周囲の人々への愛にとどまらず、人類全体、この世の全てに向けて大きな愛を抱いているような、そんなあまりにもピュアな、理想主義的な清らかさに満ちています。

香りを纏う人の心を、「花が咲く瞬間の、喜びや幸福にあふれた心地」でぎゅっと抱きしめ希望をくれる詩情豊かな香りの女神が、香水の中に住んでいます。

香りの表情と性質

ため息が出るほど美しい、完璧すぎるフローラル香水。
オーソドックスな香調ながらも、クラシカル系のものよりずっとシプレやパウダリー感が抑えられており、アルデハイド的な重さもなく、軽やか。

フェミニンですがセクシーな印象は全く無く、オフィスでもフォーマルでもデートにも適した万能香水。
それほどに協調的な、誰にも不快感の与えようの無い癖の無い柔らかな香りですが、石鹸系には程遠いかなりリアルなフローラルで、他の似た香調のものとは一線を画した独特の雰囲気を醸し出しています。

あまり複雑な香りだと万人受けは難しくなるし、かといって単調な薄っぺらい香りも今ひとつ。
そんな単純原則の中でこの香水はちょうどそのギリギリのライン、「誰でも心地よく嗅げる“分かりやすい”香りの範囲内で、最大限の複雑さや深みを持たせた香り」であり、この趣味の良さがある意味最大の特徴でもあり、ゲラン香水らしさの光る美点といっても過言ではないかもしれません。それくらい絶妙。

可愛らしい印象のフローラルだけれども、それは無邪気に咲いているような子供っぽさはなく、むしろ人一倍しっかり成長して大輪の花を咲かせたような大人感がある。

また、フローラルにありがちな「蝶よ花よ」な可愛らしさや、「花の香りで誘惑する」といった美の方向性とは異なる、なんだか素直に「ああ、こういう花の美しさを女性的な美しさになぞらえるのならば、それはとても素敵な物の見方や感じ方だろうな」と思えるような独特なフェミニン感がある。

世の中にあふれかえっている「フローラルの香り」と、それを纏うことに窮屈さを感じる女性に、「ゲランの香水には、こんな素敵な“フローラル”の表現があるんだよ」とこっそり教えてみたくなるような、とても気高く麗しいフローラル香水です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

トムフォード カフェ ローズ(世界を動かすファイター)


* Tom Ford Cafe Rose *
香調:シプレ・フローラル <ユニセックス>

「ローズ&サフラン」が進化した、勇猛果断な香りの芸術。
世界を信じ、深く愛し、僅かでも自分の手で動かしたいと望む、燃えるファイター。

2012年発表 *

<トップノート>
サフランのスモーキーな甘苦さを従え、メイローズが微かにスパイシー感を含んだ、繊細な薔薇の香を広げる。深い闇の中で松明の橙色の炎に照らされ、ぬっとその姿が浮かび上がったような、シャープな華やかさに淡い陰影のついた、凛とした佇まい。そこに、ブラックペッパーがキリリと締まった、勇壮な熱の気配を滲ませる。

<ミドルノート>
次第に上がる香りの温度に煽られ、赫々たる薔薇がスパイスの階段を駆け上がる。 ブルガリアンローズの放つ、艶やかで、華やかさの中にラズベリーにも似たフルーティー感を含んだ、妖美な甘さ。そこにトルコローズが、ほのかに紅茶めいた爽やかな風味を絡め、フレッシュで生き生きとした表情を溢れさせる。

寡黙で穏やかなれども、力強さと芯のある、薔薇の心臓の匂い。その花の炎を絶やさぬよう、暗い大地をコーヒーが穿つ。音を立てず、気配を殺し、その存在を乾いた苦味にやつし、ただ薔薇の香の根となる。

<ラストノート>
インセンス(お香)とパチョリの靄がゆらゆらと湧き上がる。 バルサム(樹脂)のくぐもった温かさの中に、鈍いハーバルなグリーン感と辛味の混じった、仄暗い、静寂の染みついた匂い。 ゆっくり、ごく低く地を這うようにして、コーヒーの根を吸い上げ、薔薇を食み、繭の中に閉じ込めてゆく。

此処に甘やかな気配は消え失せ、香りはストイックな空気を呼吸し始める。

清浄で、ひっそりとしていて、しかしその繭糸の覆い隠す香がまだ微かに発光してもいるような、夜明け前の鼓動の匂い。 そして徐々に深まるアンバーの熱を帯びたサンダルウッド(白檀)に伴なわれ、肌の上には清らかな、健やかなパウダリー感が淡く流れ続ける。

一文で香りを表すと  サフラン&ローズが、独特の芸術的な雰囲気を纏い艶やかさを誇り、マスキュリンな気配を高めながらバルサミックな香りに落ち着きます。

どんな美人のイメージ?

ヒトは愛を、美に編む。

どんな細部も疎かにしない。
直感に絶対の信頼を置き、変数に無限の可能性を抱き、領域を越え対応する変化の法則のロマンに、明確さに、真を見出し、星を生むように座標を打つ。

値は数に留まらない。 音の高低、長短、言葉の意味すら、質量を持つ。
そのどれもが確かで、しかし同時にどれもが不確かな相対性を内包し、それが故の一瞬の強い輝きを放つ。

「長さ」は尺度でしかない。それを介し、新たな座標と既存の座標との関係を昭らかにする、自由を得るためのスケールだ。

ヒトは具象を抽象に溶かし、知に遊び、何をも恐れず、世界は無限に広がっていると確信している―――――。

この香水の持つ独特の美は、己を陶冶し、困難に挑み、世界を変えたい、世界を自分の手で動かしたいのだと、全力で生きる人々の放つ輝きを想わせるもの。

狂おしいほどの情熱と、強い意思、鋭い感受性と、未来を描く力。

それらを備え、磨き上げ、常に前進し続ける、熱く美しい生き方をしている人々を彷彿とさせます。

香りの表情と性質

「カフェ・ローズ」という名前ながら「サフラン・ローズ」がメインで、柔らかく控えめに香るのに、香り自体はとてもしっかりしており、ミドル以降どんどん増すマスキュリン具合が勇猛心を煽ってくれる、「肌に香りを纏う」ことの楽しさを味わえる香水。

また、この香りの立役者は確実に「コーヒー」なのに、驚くほど姿を見せず、しかし全体を深く支配している。
まるで嗅ぐ者の手を取り香りの世界に案内したがっているかのような、あるいは某赤と白の縞柄のシャツの男(=ウォーリー)を探す絵本の香水版「コーヒーを探せ」のような、はたまた「謎解き香水」として新たなジャンルを切り開けそうな、とにかく妙な作品。

「コーヒー」の見つけ方&感じる方法の1つを挙げてみたいと思う。

ポイントは、「全体」を嗅ぐこと。
香りの要素を細かく嗅ぎ分けてコーヒーを探すのでなく、香り全体の印象を素直に受け止めてみる。

イメージとしては、ローズの生花とは異なる、たとえば油絵に描かれたローズのような、芸術的な表情をコーヒーが与えている、と捉えようとする感じ。

想像してみて欲しい。
「それ」は自然界にはない、「人の感性を通して見た薔薇」。

人が夜に気高く咲く大輪の深紅の薔薇を見たときの、ハッと息を飲むような、心をぎゅっと鷲掴みにされるような、あの感覚。
身体が痺れ、時は止まり、胸の鋭い痛みと、強く美しいものに魅入られる陶酔感―――――。

そういった人間の感情を、実際の薔薇の姿とともに、香りの中に表現し、閉じ込め、永遠の命を与える。

芸術とは何かを嗅覚で直感的に感じてみたいという人がいたら、たとえば中東の上質なローズウォータと、この香りをかぎ比べてみると面白いと思う。

どちらも本当に美しい香りだけれども、前者は完全なる自然の創造物としての薔薇の美しさ。
一方、後者には人間の感性による「心」が薔薇の姿に投影されており、それが嗅ぐ者の心を打ち、震わせ、更には共感という能力を用いて表現者の魂に触れることによって、鑑賞者は一人では発見することのなかった「世界の新たな美」を心の内に抱くことができる。

私が芸術を愛する理由はたくさんありますが、「誰かの感覚」を通して、それまでの自分の中にはなかった「新しい感覚」を得たり、それによって僅かでも世界の見え方・捉え方が変わった瞬間、私は心の底から生まれてきたことに喜びを感じ、生きていることに幸せを感じます。

絵画や音楽を始めとする美術や文芸ほど、「香りの芸術」はまだ多くの人にとって身近なものではないかもしれません。
中には、理解の難しいもの、特殊な才能を要するものだと思う方もいるかもしれません。

しかし、「感性」は育てることのできる能力です。

この香水のような、派手な演出によるものではない、緻密で繊細で、それでいて鑑賞者にはその心を気取らせない「粋」な芸術魂を持った香りに出逢ったら、注意深く観察し、ゆったりと心を開いて、大切な人のことを理解し受け入れるような心地で、じっくりと向き合ってみてください。

何かほんの少しでも「ハッとする」ことがあれば、それが成長です。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/personification-of-perfumes/feed 1 2496
ふわふわ感が心地よい、ローズ&ムスクの香りの香水7選 http://kosuijoho.com/musk-rose-perfumes http://kosuijoho.com/musk-rose-perfumes#comments Sat, 16 Jun 2018 13:15:41 +0000 http://kosuijoho.com/?p=2433 ふわふわムスクとローズが奏でる、暖かで優しい世界。

霞、羽衣、綿菓子、天使の羽。
ピュアだったり、セクシーだったり、愛くるしかったり。

様々な「ふわふわの種類」を持った、まとえば笑顔になれる香水たちです。

キム カーダシアン フルール ファタール


* Kim Kardashian Fleur Fatale *
香調:フローラル・ウッディー・ムスク <レディース>

フェミニンな石鹸系。
香りで羽衣を作るような、ふわふわ感がたまらない香水です。

2014年発表 *

<トップ> 天女の真っ白な指先が、バイオレット(ニオイスミレ)の糸を紡ぐ。大地の香味を空に引き出し、薄く割いて、石灰を砕いたような澱粉質と共に撚りをかければ生まれいずる、半透明の繊維。 その表面には光が遊ぶ。ベルガモットの淡いシトラス風味が珠となり、ブラックカラント(クロスグリ)の深紅色の酸味と苦味が成す波の上を、跳ね、転がり、フレッシュな甘さを漂わせます。

<ミドル> 糸を織機にかけると、バイオレットにアイリス(ニオイアヤメ)の風味が重なる。深く静かな澱粉の香が横たわり、そっと天女が息を吹き込めば、経糸にはティーローズの精が、緯糸にはピオニーの精が宿る。 白茶と紅茶をブレンドした様な清々しい香を綜絖に、花の蜜めいた生き生きとした甘酸っぱさを杼がくぐらせ、幾重にも重なる糸の上に、ほわりと薔薇が浮かび上がる。 清らかで、柔らかくて、控えめ。ほの白く発光する優美な香りが、華やかに広がります。

<ラスト> 薄く、軽やかに織り上げられた香りの布を、しなやかなホワイトムスクが縫い目なく衣に仕立ててゆく。砂糖と安らぎでできた温かな霞が生地を持ち上げ、糸の隅々にまで染みて膨らみながら、サンダルウッド(白檀)の滑らかな木の香りと、アンバーの甘いオリエンタル感を飲み込む。 ささやかな艶を帯び、風を捉え、纏う人の肌に寄り添い包み込む。 程よいパウダリー感が心地よい、ふわふわのムスキーノートです。


*まろやかなシトラス感が、バランスの良い明るいローズへと高まり、パウダリー感を増しながら、清らかなムスクに静まります。





風の無い午後。穏やかな日差しの中で微睡むような、幸せな心地のする香り。
真っ白に清潔で、命の輝きに満ちていて。肌の上に香りが遊ぶような、軽やかで擽ったい付け心地です。

甘さは意外なほど控えめ。人肌に暖かで、ムスクも透けそう。
石鹸のような曖昧なフレッシュ・フローラルを地に、爽やかなローズがスッと立ち上がる、洗練された、モダンな表情が素敵です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★★☆☆
[ふわふわの種類] 繊細で清らかな羽衣系
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム

クリード フルール ドゥ ブルガリ


* Creed Fleurs de Bulgarie *
香調:フローラル <レディース>

艶麗でロマンチック。
アニマリックなムスクが薔薇を解き放つ、幻想的な香りです。

1845年発表 * 調香師 Henry Creed Third Generation

<トップ> 午後の庭園に、ベルガモットの日が差す。時が止まった様な風の無い穏やかな空気に、スッと酸味が分け入り、そのすぐ後を曖昧なフルーティー感が包み込む。 光あれば影ありて。その影の色はごく薄く、シトラスの角を苦味が削ぎ丸めた様になだらか。そっと香りの明るい面に寄り添って、優しいコントラストを作り出します。

<ミドル> 日差しに暖められた大輪のブルガリアンローズが、大気を深紅に染める。 艶やかに伸びる薔薇の香特有の華やかさに、庭園の息遣いを閉じ込めたフレッシュ感、花片一枚一枚の表情を写し取ったかの様な繊細な揺らぎに、ほんの微かな蜜の甘さが編みこまれた、凛とした佇まい。 香りの輪郭は明瞭でいて、全体は石鹸めいた暈しで均された、気品に満ちた薔薇の芳香が表現されています。

<ラスト> 肌に宿った薔薇の精を、ムスクの砂子が昇華させてゆく。 ふわりと包み込む不透明な白の中に、石英の様に硬質な甘味と塩気が潜み、それがアンバーグリスの動物的な匂い・温もりと共に、ゆらゆらと溢れ出す。 薔薇を夢に誘い、鮮やかな色と香りに靄をかけ、スルスルと糸を解くように透かして。 時間の経つほどムスクは澄み、アンバーグリスは肌に潜り、長く続くラストノートは非常に感覚的な、「温度のような甘さ」と「人肌めいた艶かしいまだるさ」を呈してゆきます。


*シャープなベルガモットの香りが、ブルガリアンローズの典雅な華やかさに高まり、ゆっくりと温度を上げながら、艶麗なムスクに飲み込まれてゆきます。





英国ヴィクトリア女王に捧げられたという、気品あふれるクラシカルな香り。
クリーンで温かくて石鹸みたいに優しくて、そのくせミドルノート中盤からラストノート、残り香に至るまでがとんでもなく艶かしい、香水の魔力を感じさせられる逸品です。

まるで生きているような、血の通ったダイナミックな香りの波が、肌の上で弾け、うねるのが堪らなく甘美。
一分の乱れもなく綺麗に整えられた薔薇の底から湧き上がる、頭の芯がくらくらする妖しいムスクは神懸かり的。

香り自体はかなり強力なので、うっかり胸元につけようものなら鼻を殴られるような衝撃が。

そのため是非、(この香水に限らずアニマリック系は特に)、腰より低い位置の素肌につけて、ゆらゆらと体温・体臭と混ざって立ち上る気配のような香りを、嗅ぐともなしに嗅ぐような、香りに包まれている感覚の中に香りのディテールを探って楽しむような、そんなワイドな嗅覚を意識してみると、この香水の持つ魅力を余すことなく堪能できるかと思います。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★★☆
[ふわふわの種類] 肌を這うような、捉えどころのない感じ
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ナルシソ ロドリゲス フォーハー パルファム


* Narciso Rodriguez for Her Eau de Parfum *
香調:フローラル・ウッディ・ムスク <レディース>

瑞々しく清らか。
天使の羽根が生える香り。

2006年発表 * 調香師 Christine Nagel, Francis Kurkdjian

<トップ> きらきらした、雲の種のすぐ傍。モダンで柔らかなローズ(薔薇)の香がぐるぐる渦を巻き始め、その中心、一際明るい薄紅色に落ちたピーチ(桃)の雫が、隅々にまで深い潤いを巡らせ、雲に真新しい命を宿らせます。

<ミドル> ふわふわの雲が艶を帯び、熱をはらみ、ムスクの純白の翼が広がる。初列風切羽は清潔なパウダリー感を推力に、次列風切羽はアンバーのもたらす滑らかな樹脂の甘さ・温かさを浮力に変え、強く羽ばたき飛び立ちきます。

<ラスト> 空は高く、日は長く。地から立ち上る緑の気配は大気に洗われ、翼と遊ぶ風にはパチョリの香が混じる。青みは潜み、僅かに霞がかったハーバルなスパイシー感が羽毛をくすぐり。翼状筋が拍動させる心臓は、甘くとろけるサンダルウッド(ビャクダン)に似て。クリーミーな質感を全体に行き渡らせ、清らかで、優しい印象を残します。


*明るく瑞々しいローズが、滑らかな質感の甘いムスクに飲み込まれ、オリエンタルな厚みを増しながら、曖昧なパチョリ&白檀に落ち着きます。


ペールブルーの空に広げた、ほんのり桃色がかった大きな白い羽根。
心がくすぐったくて、世界はどこまでも広がっていて、目に映るのは生と希望、喜び。

手に足に電気が走って、背中が、心臓が、肺が、地球の鼓動と一体化して―――――。





そんな不思議な浮遊感と、幸福感。

嗅覚より早く心に響く、とても美しい香り。
清らかでない気分のときにつけると後ろめたさを感じるほど、尊くて、優しくて綺麗です。


ローズ石鹸系のこなれたローズ&ムスクを基調に、潤いと立体感、エンジェリックな清麗さを注いだまろい表情で、温かくクリーミー。
ピーチもパチョリも潤いやスパイシーさを感じさせるだけで、主張はしません。

ソフトな鼻当たりですが、朝つけて夜シャワーを浴びるまでしっかり原型を留めていてくれるあたり、(=体臭と混ざり切って正体不明がちにならず、この香水らしい香りのままで残っているあたり)、香りから受ける印象よりもずっと、香料自体は太く強力。

それぞれの香りが完璧に調和しており、一つ一つのニュアンスは曖昧。その分この香水の持つ純粋な「美」がストレートに飛び込んでくる、「鼻でなく感性で楽しむ香り」です。

シンプルで親しみやすく、嗅ぎ疲れもしにくいので、いつでも気持ちよく使える一本としても、じっくり付き合う一本としても優秀。
ナルシソロドリゲスフォーハーの持つ世界観に身をゆだね、纏ったときの「ふわっと羽根が生えるみたいな心地」を感じてみてください。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆☆
[ふわふわの種類] とっても滑らかでクリーミー
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

エージェント プロヴォケーター


* Agent Provocateur Agent Provocateur *
香調:フローラル・ウッディ・ムスク <レディース>

『The 魔性の女』 ど真ん中。
サフランやシプレの効いた、艶やかでパワフルな香りです。

2000年発表 * 調香師 Christian Provenzano

<トップ> インディアン・サフランの土属性のスパイシー感がザワザワと湧きだし、ロシアン・コリアンダーが擦れたようなかさついた酸味を、フレンチ・マグノリア(木蓮)が神経をくすぐるようなまろく控えめな甘さを絡めます。

<ミドル> 夜露に濡れた大輪のモロッコ・ローズを瞬間凍結して粉砕したような、重厚で格調高い薔薇の香が勢いよく飛び散り、その破片をコモロ・イランイランとエジプシャン・ジャスミンが、ぎらついた青みと共に四方に反射させる。 ピカピカ、暴れる光の粒をコモロ・ホワイト・ガーデニアがまったりと、熟した花片のふくよかさで吸収します。

<ラスト> しっとりとした印象すら与える、粒子を極限まで細かくしたパウダリーなムスクがなみなみとあふれ出し、ハイチ・ベチバーが深い霧が暗く襲い掛かるような、泥だらけのウッディー感でそれらを穢す。ほんの少しの背徳が化けた甘美なアンバーが、いつまでも、とろり肌の上に。


*サフランのスパイシー感に往復ビンタされ、エロティックな薔薇に胸元引き寄せられ、アーシーなムスクに張り倒されます。





ものすごいパッションがボトルの中に。

好き嫌いの分かれやすい主張の激しい香りですが、心が燃え立つ夜には「もうこの他にはない!」というぐらいぴったりパッションを分かち合ってくれる、マグマ水蒸気噴火系香水。

シプレ的な要素とクラシカルなローズ香をとことんセクシー目線で追求した、「パワフルに誘惑してくるローズ」さんです。


とても重くはっきりとした香りなので、上半身につけるとかなりの確率で酔います。
下半身にほんの少し、ロールオンタイプのアトマイザーなどで点付けすると、なんとも鮮やかに香り立ち素敵。

ウッディー系(木々や土の香り)が全体を取り巻き支えていますが、全体の重さを決めているのはあくまで薔薇。

『ダーティーでエロティックなローズ!』
細かなニュアンスを突き抜ける、そんな強力なコンセプトにうっかり惚れてしまう一本。

ナルシソが陽ならこちらは陰。
洋風ならゴシックなドレスを、和風なら紅色の絹の襦袢をまとった、妖しい美女を髣髴とさせます。

[持続性] ★★★★★★ [拡散性] ★★★★☆
[ふわふわの種類] きめ細かなしっとり妖しい系
[TPO] 春・夏・秋・冬 / ナイトタイム

ニナリッチ レクスタス ローズ レジェール オーデパルファム


* Nina Ricci L’Extase Caresse de Roses *
香調:フローラル <レディース>

明るくてふわふわ。
真っ白なチュールを履いた、笑顔で踊るローズさん香水です。

2016年発表 * 調香師 Francis Kurkdjian

<トップ> シュッとスプレーから飛び出し肌の上で始まるのは、小さなバレエの舞台。 目を閉じ嗅覚に意識を向けると、小波のように香りが踊りだす。 始めは微かに。アルコールが蒸発すると共に、より豊かに。 ふんわりと広がる洋ナシの曖昧で控えめなフルーティー感が、ベルガモットの淡いシトラス的な明るさと手をつなぎ、軽やかにアントルシャしながら過ぎって行きます。

<ミドル> ライトを浴びて輝く鮮やかなブルガリアン・ローズ&ターキッシュ・ローズさんが、バシッとアラベスクを決める。凛と爪先を地に突き刺し、ツンと顎を上げ手を空へと伸べた、花びらの踊り。青みは無く、爽やか。典雅な薔薇の甘い香りが満ちる。 そのすぐ傍、野心あふれるピオニーさんが妙に威圧的な甘酸っぱいフローラル感を広げ。その影に隠れるようにして、小さなラズベリーとスズランちゃんが、フルーティーな軽さが勢いをつけた、華やかなステップを踏む。 舞台の上に在るのは、美しい調和。 ともすれば絵画めくローズを、微かな酸っぱさが、シュンと弾ける様なフレッシュ感が、活き活きと鮮やかに彩ります。

<ラスト> ひらひら、たくさんのムスクが群舞する。ほんの爪先で地を叩き、宙に浮くが如くの、軽い、儚いムスクの香。 完全にシンクロして、一分の乱れもなくピルエットするごと、ピュアでミルキーな甘い香りがフウワリ漂う。 柔らかな照明が作るかすかな陰影は、ヴァイオレット。ほどよいコクとすっきりとしたパウダリー感で、ムスクを磨き、宥め、舞台の余韻を残します。


*淡く曖昧なフルーティー感が、明るくはっきりとした薔薇&ピオニーの香りへ高まり、ゆったりと、滑らかなムスクに溶けていきます。





明るくて優しくて、癖もなく、ソフト。
ムスクも濃すぎず薔薇も派手すぎず、バレエの舞台を見ているような、心地よい高揚感と優雅さに浸れます。

薔薇をメインに構成しつつもピオニーがしっかり効いているのですが、安い香水の「ピオニー」にありがちなわざとらしい甘酸っぱさでなく、さわやか感を軽い酸味で演出したような、すっきりとしたフレッシュ感が印象的。
メインのローズを含め香料がかなり人工的なため、(妙な言い方ですが)、ちょうどうまくその人工香料のくどい部分を緩和しているような、安定感のある、好印象な華やかさを感じられます。

子供っぽくなく、かといってマダムっぽくもなく。
気軽に、気取らず楽しめる、きれいにまとまった香りです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★★★☆
[ふわふわの種類] ほんわり柔らか
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム・ナイトタイム

グレ ルミエール ローズ


* Gres Lumiere Rose *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

ソフトで繊細。
リコリスの効いた、甘くメルヘンな香りです。

2013年発表

<トップ> ほんわり、サラサラ。曖昧に。オレンジブロッサムの、清潔感あふれる円やかなホワイトフローラル感が、そよそよ風に運ばれてきます。

<ミドル> 薔薇だけど植物や花じゃなくて、薔薇なんだけど何処かお菓子めいた。「ローズ」のフェミニンな華やかさが穏やかに立ち上り、ピンクペッパー(ポワブルロゼ/香辛料の一種で、モダンローズのような香り)が、明るさと軽やかさを添えます。

<ラスト> リコリスの、グルマン感あふれるハッピーな「ビター×(スウィートの5乗)」な香りが湧き出し、綿菓子を高速回転させたような、甘味が芯になって刺さっているような蕩けたムスクが、モクモクとボリュームを出します。


*淡いホワイトフローラルの香りが、しっとりと色づくように繊細なローズへと移ろい、パウダリーな質感を強めながら、リコリスのノスタルジックな甘みに溶けていきます。




石鹸系・ベビーパウダー系に通じる、繊細で曖昧な香り。
むしろそれら以上に、ソフトで軽やか。

全体を包む霞がかったようなパウダリー・ニュアンスも、リコリスの苦みを抑えてお菓子ちっくな甘みだけを膨らませたようなラストも、まるでパステルカラーの毛糸で編まれたみたいに、優しくてメルヘン。

薔薇感は抑え目。かといってローズ特有の華やかさ抜きでは成立しえない、ぎりぎりのラインを上手く漂いながら、リコリスとムスクの甘さで独特の雰囲気を出した、ユニークな作品です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★★☆☆
[ふわふわの種類] 快晴の午後に屋外で作る綿菓子
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ザ ボディショップ ホワイトムスク スモーキーローズ


* The Body Shop White Musk Smoky Rose *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

驚くほど煙たい!
薔薇とカシスグミとカップケーキを串に刺して燻したような、創作料理系香水です。

2013年発表 *

<トップ> ブラックカラント(カシス)の鈍く硬いベリー感に、ベルガモットがキャンディー的なゆるい酸味を絡め、ピンクペッパー(ポワブルロゼ)がほわっとロージーな甘やかさを重ねます。

<ミドル> タバコフラワーのドライで強いスモーキー感が立ち込める霧の中に、オレンジフラワーのすっきりとした甘さを纏ったローズの花びらが、ひらひら舞い踊ります。

<ラスト> ムスクのナマコのような弾力のパウダリー感がモコモコ膨らみ、フランキンセンス(オリバナム・乳香)がスパイシーなキレと温かな甘みを混ぜる。香り全体を通して、低く掠れたイモーテルの、ちょっと焦げすぎたキャラメルのような香りが、しゅわしゅわ滲み続けます。


*グミキャンディーのような濃くはっきりとしたカシスの香りが、ジワジワ焚き火で焙られながら薔薇の煙に包まれ消えて、気づけば甘いムスクが転がっています





ボトルのクールさからは想像がつかない、「なにこれ可愛い!」な香り。
芸術的な期待をしてはいけないけれど、文字通りの「スモーキーローズ」が立ち現れるおもしろい香水です。


全体に妙にイモーテルが効いていて、常にどこかグルマンちっく。
タバコフラワーやオリバナムはかなり「スモーキー」や「甘スパイシー感」にデフォルメされており、(良い意味で)素材本来の魅力とは別物に。

また、スモーキーのニュアンスは燻製並み。
漂うような妖しいスモーク感でなく、モウモウと燻してるレベル。

そして、メインの薔薇はポップでモダン。
植物らしさは一切なく、平面的、ありがちな合成香料のそれですが、嫌味はありません。

トップ・ミドル・ラストを通じてかなり甘めで、キョロキョロ可愛いのにテンションは低め。
どうしたらこんなにスモーキーに仕上がるのだろう、と気になるほど煙たいのに、香水自体は軽く、数時間もたずに消えてしまいます。

個性的なファッションと合わせたり、気分転換に。

[持続性] ★★☆☆☆ [拡散性] ★★☆☆☆
[ふわふわの種類] 燻してる系の濃い煙
[TPO] 春・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/musk-rose-perfumes/feed 2 2433
牛乳(バニラミルク)の香り&乳臭い匂いになれる香水15選 http://kosuijoho.com/milk-perfumes http://kosuijoho.com/milk-perfumes#respond Sun, 24 Sep 2017 14:56:48 +0000 http://kosuijoho.com/?p=2157 人間になりたいマシュマロの見る、乳白色の夢。

直接「ミルクの匂い」をテーマにしたグルマン香水と、
男性がいうところの「女の肌の乳臭いような匂い」を思わせる、ミルキーなオリエンタル・バニラの香水を厳選しました。

ノスタルジックな牛乳の香りに癒されるも良し、
体臭にミルクっぽさをプラスして、本命の彼をドキドキさせるも良し。

香水ならではの、奥深い「匂いの世界」を感じてみてください。

イヴサンローラン シネマ


『イヴサンローラン シネマ』
* Yves Saint Laurent Cinema *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

甘いシトラスが意味深長。
完成度の高い、洗練された「ほんわりバニラ」です。

2004年発表 * 調香師 Jacques Cavallier

<トップ> コルシカ産クレメンタイン(マンダリンオレンジの一種)の甘みの強いシトラス感がジューシーに広がり、アーモンドツリー・ブロッサムが仄かにナッツ風味の混じった曖昧な甘さを、シクラメンが清潔感あふれる明るい華やかさを絡めます。

<ミドル> サンバック・ジャスミンのきらきらしたグリーン調のフローラル感がふんわりと広がり、アマリリスが桃や薔薇を混ぜたようなフルーティー調の華やかさを、ピオニーがフレッシュな甘酸っぱさを重ねます。

<ラスト> バーボン・バニラのピュアで濃厚な香りがクリーミーにあふれ出し、アンバーが温かみのある豪奢な甘みを、ベンゾイン(安息香)が繊細でバルサミックなパウダリー感を、ホワイトムスクがふわふわした柔らかなスウィート感を絡めます。


*ジューシーなシトラス&曖昧フローラルが、清潔感あふれる甘いジャスミン&アマリリスへと高まり、温かなパウダリー感を纏いながら、濃密なバニラ&アンバーへ蕩けていきます。





重めで暖かい、濃厚なオリエンタル・バニラなのに、なぜかとても明るく清潔な印象を残す、洗練された香り。
アンバーのじわっと染み出すような熱の籠もった甘さが尊くて、心が包み込まれるような、深い充足感に揺蕩えます。

ミドル以降のパウダリー感は、体臭にふんわりと香りを寄り添わせてくれて、それがちょうど、肌がほのかに乳臭いような円やかなミルキーバニラの印象に。
また、どことないスパイシーさの紛れ込んだクラシカルな淵源を感じさせつつも、「何とはなしに」なんて表現の似合う、気取らない、気さくで優しい甘さが、とてもモダン。

あんまりにもさり気ないから捉えどころがなくて、いつの時代にも「洗練」という言葉で俗世の流れから守られるような、永遠にタイムレスな香りです。

甘く温かですがとても『ほんわり』しているので、湿度の高い日本の夏でも重くなりすぎません。
カジュアルにもすんなり溶け込み、フォーマルでも充分な気品と存在感を示してくれる、とても使い勝手の良い一本です。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ディーゼル ラヴァー ドゥース タトゥー


『ディーゼル ラヴァー ドゥース タトゥー 』
* Diesel Loverdose Tattoo (EDP) *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

ふわふわでノスタルジック。
ミルク粥に溶け込んだ、穏やかで暖かいバニラです。

2013年発表 * 調香師 Anne Flipo, Pascal Gaurin

<トップ> マンダリン・オレンジの甘くジューシーな柑橘感があふれ出し、ベルガモットがアロマティックな明るさを、カシスがフルーティーな淡いグリーン感を添えます。

<ミドル> サンバック・ジャスミンの静かでセンシュアルなフローラル感に、オレンジ・ブロッサムが甘さとフレッシュ感を、ローズが仄かなパウダリー感を重ねます。

<ラスト> バニラの澄んだ甘さがいっぱいに広がり、ミルク(牛乳)がクリーミーで濃厚なコクを、トンカビーンズが杏仁風味の繊細な芳ばしさを絡める。そこに、ライス(バスマティ米やライスプディングをイメージしたファンタジーノート)がナッツや草のニュアンスの混じった、ふわふわ甘いミルク粥の香りで全体を包み込みます。


*柑橘系の淡いフルーティー感が、センシュアルなジャスミン系フローラルへと揺蕩い、ふんわりと、クリーミーで甘いミルク粥の香りに飲み込まれます。





ミルク粥に杏仁豆腐を一匙混ぜたような、感動的に優しいクリーミー・バニラ。

常に微かに漂う草のような風味が全体をノスタルジックな情感に押し上げた、とてつもなく愛くるしい香りです。

甘さは結構強いのですが、ふわっとした柔らかな質感がその芯を散らしており、曖昧。
例えば水飴を火にかけた時の甘さを「鼻の奥に張り付くような甘さ」と表現するならば、この香水の甘さは「目の下がこそばゆくなるような甘さ」です。

ボトルやネーミングのダークで硬質な雰囲気とは真逆の、乳白色に玉子色を一滴垂らしたような、ほわんほわん&ポカポカ系。

リラックスタイムやご褒美タイムなどに最適で、涙腺ゆるい方はハンカチ必須。
お布団の中で微睡みながら包まれたくなる、優しく微笑みかけてくれるようなミルク粥香水です。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

クリスチャン ディオール アディクト


『クリスチャン ディオール アディクト』
* Christian Dior Dior Addict *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

妖艶で扇情的。
高揚感を煽る、夜向け濃厚バニラです。

2002年発表 * 調香師 Thierry Wasser

<トップ> マンダリン・リーフの、微かに青みの混じったフルーティーなシトラス感が、スッキリと広がります。

<ミドル> ナイトクイーン(月下美人)のバニラが花になったような甘美でセンシュアルなフローラル感が柔らかくあふれ出し、シルクツリー・フラワー(合歓の木の花)がグリーン調の透明な甘さを絡める。そして更に、オレンジブロッサムが清潔感とフレッシュ感を、ブルガリアンローズが気品漂う淡いパウダリー感を重ねます。

<ラスト> バーボン・バニラの胸をつくような愛くるしい香りが濃厚にあふれ出し、トンカビーンズが仄かに苦くて芳ばしい、杏仁にも似た繊細な甘さを、サンダルウッド(白檀)が静かで謎めいた、ミルキーなウッディー感を絡めます。


*青みがかったフルーティー・シトラスの香りが、センシュアルな甘いホワイトフローラルへと高まり、ゆっくりと、濃厚なバニラ&白檀の渦に飲み込まれます。




肌理の細かな真っ白な肌が、光を反射して艶々と輝く。

触れればしっとりと手の平に吸い付き、皮膚のすぐ下の薄い脂肪が筋にそってつくる滑らかな陰影が、まるで次に触れて欲しい場所を訴えるかのように、甘く色を変える。

目的地のない地図を読むかのよう、体中に散らばる色を辿り、視覚から触覚から零れて伝染する、情緒的な官能に溺れたその先の何か―――。

ドーパミンの過剰な充溢と、自分だけのミューズを手に入れる高揚感を香りにしたら、きっとこんなバニラ。

質感はパウダリーで、どことなくスモーキー。
バニラの明度は抑え目で、全体の印象はダークで温かい。

また、オリエンタル香水らしいクラシックな趣を持ちつつも、その仕上がりはモダン。

「クラシックでモダン」という、その相反する性質を併せ持っているように感じられるのは、おそらくベースであるバニラや白檀はどこまでも深く作り込んであるのに対し、ミドルの花々はクラシカルな複雑さから脱した、曖昧で柔らかな表情に整えられているため。

例えば、このミドルがもう少し薔薇っぽかったりスパイシーであったり、全体にアルデヒド的な温かみやアニマリックな重みが混じっていればクラシック一直線なのですが、それらをグッと抑えて、何のフローラルともバニラともグリーンともつかない、柔らかな甘さにミドル部分を揺蕩わせているところが、この香水の肝。

とてもセクシーなのですが、異性に対してアピールする系統の色艶ではなく、もっと本質的な、充足感や自信からくる人間的な魅力やセクシーさを引き出してくれるような、「付けている本人が一番気持ちよくなれるバニラ香水」です。

肌馴染みの良いクリーミー月白バニラなので、適量を素肌につけると、程よくミルクっぽい雰囲気を醸し出せます。

より「乳臭い体臭」に近づけるには、ロールオンタイプのアトマイザーを用いて、ほんの少量、ウエストや太ももの内側等の服に隠れる体温の高い場所に、「点」を意識して香りをのせていくとベストです。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・秋・冬 / ナイトタイム

ショパール カシミア


『ショパール カシミア』
* Chopard Casmir *
香調:オリエンタル・バニラ <レディース>

バルサミックで個性的。
ゴージャスなグルマン系フルーティー・バニラ香水です。

1992年発表 * 調香師 Michel Almairac

<トップ> ピーチ(桃)のジューシーな香りがあふれ出し、アプリコットがふんわりとしたエアリー感で奥行きを、マンゴーがトロピカルな甘みとコクで深みを出す。その桃系ミックスに、ラズベリーとカシスがピリッとした甘酸っぱいベリーニュアンスを、ベルガモットとマンダリンがスッキリとした淡い柑橘ニュアンスを重ねます。

<ミドル> シナモンの温かなビタースウィート感がゆったりと広がり、カーネーションがほのかに甘く快活なスパイシー感を絡める。そして其れ等を支えるように、ジャスミンとイランイランが青みがかった官能的な華やかさを、ゼラニウムがレモン風味の淡いローズ感を漂わせます。

<ラスト> バニラの抜けるような白く甘い香りが全体を明るく照らし、ベンゾイン(安息香)とオポポナックス(スウィートミルラ)が温かなバルサム(樹脂)の深みを、トンカビーンが桃の花や杏仁を混ぜたような繊細な芳ばしさを絡める。そこに更に、アンバーが高貴でオリエンタルな甘みを、ムスクが柔らかなパウダリー感を、パチョリがハーバルなスパイシー感を重ねます。


*瑞々しいピーチ系フルーティーが、華やかでほろ苦いスウィート・シナモンへと高まり、ゆっくりと不透明なクリーミー感をまといながら、甘いバニラ&バルサムへと溶けてゆきます。





完成度の高い、大人のグルマン香水。

ゴージャスなミルキー系オリエンタルバニラに、スパイシー感やビタースウィート感、フェミニンな桃ニュアンスが個性を添えた、満足感の高い複雑な香りです。

トップからミドル、ラストへの香りや質感の変化が美しく、オープニングはジャム的な瑞々しさが、中盤以降はクリーミーでスモーキーなパウダリー感が、各ノートの表情をより奥深いものへと導いています。

甘めで重め、格調高い仕上がりなので、華やかなシーンや特別な日にもバッチリ。
クラシカル系の香水がお好きな方に、特におすすめです。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

コティ バニラ ムスク


『コティ バニラ ムスク』
* Coty Vanilla Musk *
香調:オリエンタル・バニラ <レディース>

シンプルでヌーディー。
ウッディー感の効いた、「肌色バニラ」香水です。

1994年発表

<シングルノート>
バーボン・バニラのピュアで濃厚な香りが生まれたての仔馬のように歩き出し、そのすぐ後ろをブランケットを持って追いかけるように、ムスクがふかふかした綿あめみたいな純白スウィートで包み込みます。

ふと気づくと母馬がそっと仔馬バニラの頭を舐めており、慈しみを湛えた黒々とした瞳の、その横長の瞳孔がもたらす温和な表情に似たサンダルウッドとシダーが、低く、まろい静かな木の温もりを、チュベローズ(月下香)が肌の匂いに似たクリーミーな花の香を、トンカビーンズが僅かに焦げたようなノスタルジックな芳ばしさをくゆらせます。


*愛くるしいバニラ&慈愛のサンダルウッド。





「バニラの匂い」を限りなく「肌の匂い」へと近づけた、ピュアでセンシュアルな香り。

シンプルで清潔。ソフトでミルキー。
癖のない、ほど良い甘さのバニラ&ムスクに、しっとりと効いたウッディーが独特の「肌色感」を添えた、温かでホッとする香りです。

「オリエンタルバニラ」のお手本のような、装飾を削ぎ落した「素っ裸のバニラさん」なので、『ディオールのアディクト』や『イヴサンローランのシネマ』のような「何らかの表情や艶っぽさ」を浮かべていない、ヌーディーで自分色に染まってくれそうな「肌色バニラ香水」をお探しの方に、最適。

素っ裸なのに、ギリシア彫刻並みに完璧に美しい、白く輝くバニラさんです。


[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ハナエモリ ハナエ モリ


『ハナエモリ ハナエ モリ』
* Hanae Mori Hanae Mori *
香調:オリエンタル <レディース>

少女と大人の境界線上。
蠱惑的なベリーと混ざる、ミルクセーキのような白檀&バニラです。

1996年発表 * 調香師 Bernard Ellena

<トップ> ワイルドストロベリー(苺)のジューシーな甘い香りがスラリと立ち上がり、ブラックベリーが蜂蜜ニュアンスの豊かな風味を、ブルーベリーとブラックカラント(カシス/クロスグリ)が、ピリッとしたフルーティーな甘酸っぱさを絡めます。

<ミドル> イランイランのシャラリとした官能的で青みがかった蜜の香があふれ出し、ジャスミンが静かで淡い草の葉ニュアンスを、ローズとピオニーがふんわりとした華やかなパウダリー感を重ねます。

<ラスト> バニラの微発光するような澄んだ甘さと溶け合って、サンダルウッド(白檀)がミルキーでオリエンタルな木の香りを広げる。そこに、アーモンドツリー(アーモンドの木の香りをイメージしたファンタジーノート)がナッツの芳ばしい風味を、ブラジリアン・ローズウッドが薔薇に似た爽やかなフローラル調を含んだウッディー感を、ヴァージニアシダーがスパイシー感の混ざった落ち着いた針葉樹の香りを重ね、深みのあるウッディー・オリエンタルを描き出します。


*シャープなベリー系ミックスの香りが、ほのかにパウダリーなイランイランへと華やぎ、ゆったりと、アーモンド風味のバニラ&白檀へ落ち着きます。





甘いミルクセーキに、ベリーとナッツを散らして。
霧があたりを包み込む、深い深い、森の中。

暗闇の中にポッと浮き上がるような、乳白色に赤を一滴垂らした香り。

純粋で、けれどもひどく蠱惑的で。
半ば確信犯的にベリーの甘酸っぱさと溶け合うミルキーなオリエンタル感は、女性なら誰でも持っている、甘いバニラみたいな何か。

記憶の中の優しいミルクを思わせるそれを、ある人は「赤ちゃんの匂い」だと言い、ある人は「乳臭い女の子の匂い」だと言い、ある人は「ママの匂い」だと言う。

それは至る所に見つけることができて、例えば「可愛い」なんて言葉で共有できる曖昧なハッピーに潜んでいるかと思えば、家族や友人を思いやる優しさのど真ん中に居たり、あるいは自分の道を邁進する煌めく瞳に宿っていたりもする。

そして、誰かを愛すると、そのバニラをあげたくなったり、奪いたくなったり、分け合ったりしたくなる―――。

この香水のもつ「乳白色」は、まさにそんな「肌の匂い」。

温かくて優しい、弱さと強さが混ざった、記憶の中の愛情の匂い。
誰かを想った安らかな時間を、時空のヴェール越しに、もう触れられないことにほんの少し胸を痛めながら想う、甘酸っぱい心地。

中盤以降を濃く覆うサンダルウッドは、心を緩やかに過去へと導いてゆく、瞑想の主。
ジュードポウが「幼い頃の幸福な食卓」へ誘ってくれるのだとすれば、ハナエモリは「切ない恋の幸福だった一瞬」へと誘ってくれる、感情と理性の混ざる香り。

心の中の自分だけの宝物を、胸を軋ませながら、匂いの感覚に引き出される肌のざわつきの上に見い出す。
グルマン×オリエンタルの組み合わせは、心の柔らかい部分を擽って、深い精神性へと答えを求めるような、切なさを温かく包み込んでくれる「安定」を感じられます。

しっかりとしたグルマン調で、クリーミーで滑らか。
ふわふわで、ほんわり温かくて、アーモンドの風味が芳ばしい。

トップのベリーはシャープですが、酸味はあまり感じられず、甘甘甘甘甘酸っぱい、というくらいスウィート。
ラストはとても深く美しい、ウッディー&バニラが楽しめます。

肌に乗せると、ミルキーな甘さが前面に出て、オリエンタルなスパイシー感が程良く混ざり、とても上品な牛乳風味の肌の匂いに。
幅広い年代の方に似合う、丁寧に作り上げられた、豊かで穏やかな香りです。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ディメーター コンデンスミルク


『ディメーター コンデンス ミルク』
* Demeter Condensed Milk *
香調:グルマン <ユニセックス>

そのまんま外国製コンデンスミルク!!
砂糖たっぷりの、コッテリ牛乳グルマンの香りです。

<シングルノート>
ミルクの濃厚で温かな香りが滑らかにあふれ出し、シュガーが無垢な甘さを絡めます。


*牛乳×砂糖+グルマンペースト





ピュアなミルク&クリームのすぐ下に、それらを煮詰めたような甘さが漂う、重心低めのバニリック・ミルク。
日本のコンデンスミルクでなく、外国の、乳製品にほんの少しココナッツミルクを混ぜたお菓子的な匂い。

どことなくフルーティーで、軽やかで、ほんわり温かい、ピュアな香りです。

[持続性] ★☆☆☆☆ [拡散性] ★☆☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ケンゾー アムール


『ケンゾー アムール』
* Kenzo Amour *
香調:オリエンタル・バニラ <レディース>

アジア×純朴=心の故郷。
新しいのに懐かしい、ほんわり系ライスプディングです。

2007年発表 * 調香師 Daphne Bugey, Olivier Cresp

<トップ> フランジパニ(プルメリア)のフルーティーな甘酸っぱさと青みを含んだ南国の花の香がユラリと立ち上がり、チェリー・ブロッサム(桜)が柔らかなパウダリー感を絡めます。

<ミドル> バニラの澄みきった甘さが高く広がり、ライス(バスマティ米やライスプディングをイメージしたノート)がナッツの芳ばしさの混じった肌色のミルク感を、ホワイト・ティー(白茶)が気品あふれる円やかな茶の風味を重ねます。

<ラスト> インセンス(お香)の異国情緒あふれる静謐な香りに、ムスクがセンシュアルで甘いパウダリー感を、タナカ・ウッドが深みのあるソフトな樹木のニュアンスを添えます。


*フルーティーなプルメリアの香りが、ふわっふわのバニラ&ライスへと膨らみ、パウダリー感を増しながら、エキゾチックなムスキーノートへ落ち着きます。





ミルクの匂いの肌を思わせる、淡く柔らかなライスプディングの香り。

モダンで、明るくて、清潔で。
全体を包むフワフワのパウダリー感が、肌の上のクリーミー・バニラに薄紅色のヴェールをかけており、その曖昧さが、とてもミステリアスでセンシュアルです。


ライスプディングといっても、グルマン(=お菓子のよう)的な美味しそうな雰囲気とは少し異なり、甘さも控えめ。

バニラの一番きれいで真っ白な部分をスプーンですくって、淡白な味のお米をコトコト煮た半透明の液体と混ぜ合わせて、それをエスプーマで泡状ムースにしたような、「風味だけを楽しむ、食べられる泡」的な、限りなくグルマン的なのに決して味覚的ではないような、そんなライスプディング感を楽しめます。

また、プルメリア等の花の香もけっこう効いており、他には何ともなしに淡いスパイシー感やグリーン感が其処彼処に。

気取らず使える「東洋趣味の肌色バニラ」なので、「可愛すぎるバニラやグルマン系はちょっと……」という方や、「ミルクっぽい肌の匂いには憧れるけど、照れくさいし、そういう柄やキャラじゃないしなあ……」という方にもオススメ。

素朴で優しい、ほんわりアジアンバニラの香りです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

アナスイ ナイト オブ ファンシー


『アナスイ ナイト オブ ファンシー』
* Anna Sui Night of Fancy *
香調:フローラル・フルーティー <レディース>

幻想的でセクシー。
ブルーベリー・ミルクセーキの、甘い香りです。

2008年発表

<トップ> ブルーベリーの瑞々しくセンシュアルな香りがあふれ出し、ワイルド・スロトベリーがピリリとした無邪気な甘酸っぱさを、グレープフルーツ・リーブスがすっきりとした軽いグリーン感を絡めます。

<ミドル> サンバック・ジャスミンの夜露に濡れたような淡く瑞々しいグリーン感が流れ出し、ステファノティス(マダガスカルジャスミン)が同系統の甘いフローラル感を重ねます。

<ラスト> ミルクセーキ・アコードの滑らかでコクのある、美味しそうな香りがモコモコ発生し、オリバナム(フランキンセンス・乳香)が「ウッディー」を砂糖とスパイスで煮詰めて天日干ししたような、曖昧な樹脂感でミルクの「モコモコ」に陰影をつけ、カシュメランが「風呂上がりのムスクさん」を思わせるしっとりとした甘い霧で、艶やかさを出します。


*クールなブルーベリーの香りが、白いレースの下着みたいなジャスミンへとほどけ、「瑞々しさ」が少しずつ汗ばみながら、親密なミルクセーキ&ウッディーへと辿り着きます。




グルマン系のお菓子っぽいミルク感と、乳臭い娘的なまろい肌の匂いとの中間あたり。
食欲と性欲との境を曖昧にして、夜の帳にとびきりのロマンスを描いたような、少女と大人が混ざる瞬間の香り。

ブルーベリーの媚びない甘酸っぱさがとても自然に表現されており、そのどこかツンとしたセクシーさが大人びた表情で微笑むのが、ミドルのジャスミン。

ジャスミンと言っても、インドールの気配よりもグリーン感がストレートに立ち現れる、気高さが色気を凌いだようなジャスミン。

そしてここまでを駆け足で抜けたら、トップから混ざり気味だったミルクセーキが全開になります。


この香水の「ミルク」はウッディーのニュアンスと常に抱き合わせになっていて、その落ち着きの分「肌の匂い」や「乳臭い雰囲気」はよく出ているのですが、「ミルクセーキ」の言葉から期待しがちなグルマン的なほのぼの感やハッピー感は、あまりありません。

どちらかといえば少し暗めで、ブルーベリーやジャスミンの「グリーン」は、「蒼白い肌」を思わせるテンション。それでいて、とてもとても甘いです。(まさに、アナスイ。)

この香水の持つ独特な不安定さを「エロティック」と言っても良いのか、それとも単なる「若さ」と感じるべきなのか。
誰かに詰め寄って確かめたくなる、「中間」の香りです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

エリザベスアーデン フィフスアベニュー スタイル


『エリザベス アーデン フィフス アベニュー スタイル』
* Elizabeth Arden 5th Avenue Style *
香調:フローラル・フルーティ・グルマン <レディース>

ホワイトチョコ&ピーチ!
微かな酸味が特徴の、グルマン調なめらかバニラです。

2009年発表 * 調香師 Yann Vasnier

<トップ> イタリアン・ベルガモットの上品な酸味と苦みがきらきら広がり、ラズベリーがウッディー感の混じった落ち着いた甘酸っぱさを絡める。そこに、ピンクペッパー(ポワブルロゼ)が軽やかな薔薇系の華やかさを、タジェットが土属性のくぐもったグリーン感を重ね、香りに奥行きを出します。

<ミドル> ホワイト・チョコレート・トフィーのなめらかな甘いミルク感があふれ出し、ピーチ(桃)とアップル・ブロッサム(林檎の花)が優しいフルーティーニュアンスを、プラム(西洋スモモ)がフェミニンな甘酸っぱさを、ピオニーが淡いフローラル感とフレッシュ感を重ねます。

<ラスト> バニラの澄んだ香りがゆったりと広がり、ホワイトムスクが曖昧でふわふわした甘さを、モス(苔類)が微かなアーシー感で落ち着きを添えます。


*ベルガモットのきらきらした酸味が、クリーミーなホワイトチョコ&ピーチへと溶け、ふんわりと、澄んだムスキー・バニラに着地します。





グルマン調(=お菓子のような)バニラ&ミルクを前面に出しつつ、フルーツの柔らかな風味や酸味で全体のバランスを取り、ドライなアーシー調のグリーン感で深みや落ち着きを演出した、心地よい香り。

そつが無く、親しみやすく、付けていると何だか気分が良くなる、エリザベスアーデンらしい香水です。


オフィスを始め、どのようなシーンでもつけやすい「ほんのり&さっぱり系グルマン」で、幅広い年代の方、ファッションにもばっちりマッチ。
ミルクや体臭というよりは、甘めのボディケア用品を使ったような、良い意味で人工的な印象に香ります。


包括的には、柔らかなピーチ系フローラルにどことないスパイシー感がキレを加えた、石鹸香料的な香りが基調に。

そこにグルマン調のミルキー・バニラを大胆に乗っけて、さらにベルガモットの酸味で明るさとキラキラ感を加えたものをイメージしていただければ、まさにその通りの香りです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

バス&ボディワークス ウォームバニラシュガー


『バス&ボディワークス ウォームバニラシュガー』
* Bath and Body Works Warm Vanilla Sugar *
香調:オリエンタル・バニラ <レディース>

砂糖漬けの激甘グルマン調。
アメリカンなココナッツ&バニラの香りです。


<トップ> フローラルノートの何の花ともつかないフレッシュで優しい香りに、バニラが穏やかな甘さを添えます。

<ミドル> バニラ&ライスのグルマン(お菓子のような)調子の甘い香りに、ココナッツが南国の芳ばしいミルキー感を絡めます。

<ラスト> バニラ&ムスクのソフトなパウダリー感に、サンダルウッド(白檀)がほのかなオリエンタル感で深みを出します。


*甘~いバニラが、フローラルニュアンスをまとったり、ココナッツ風味のお菓子になったり、ムスクとふわふわしたりします。





クラシカルでシンプルな、美味しいミルキー・ココナッツ・バニラの香り。
ほど良くパウダリーで、クリーミー。砂糖漬け的な強い甘さですが、付け心地は軽くてソフト。

アメリカンなボディケア製品の香りが好きな方や、ココナッツ入りのクリームケーキの香りが好きな方にオススメ。
ちょっとした気分転換にも使える、グルマン系ミルキーバニラです。

[持続性] ★☆☆☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ディーゼル プラス プラス フェミニン


『ディーゼル プラスプラス フェミニン』
* Diesel Plus Plus Feminine *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

クリーミーで甘酸っぱい。
個性的な「いかついミルク」の香りです。

1997年発表 * 調香師 Arturetto Landi

<トップ> ビターオレンジの苦みと酸味の効いた激しいシトラス感がパチンと弾け、パイナップルがチカチカ点滅するような鮮やかなトロピカル感を、フルーティノートが桃やリンゴのまろいジューシー感を絡めます。そこに、リリーオブザヴァレイが淡いグリーン感を、カシスがツンツンとしたベリーニュアンスを絡めます。

<ミドル> ミルク(牛乳)のぬくぬくとした美味しそうな香りが両手を広げ、突進していったココナッツと熱い抱擁を交わします。すると、マグノリア(木蓮)とオーキッド(蘭)、ジャスミンとリリー(百合)の4姉妹が、少女漫画の背景画のような、華美でパウダリーなフローラル感をパアァッと広げます。そして、それらの醸し出す甘やかさに嫉妬するかのように、チェリーがワガママな甘酸っぱさを、ストロベリー(苺)が無邪気なジャム風味を、アップル(林檎)が恥じらいのもったり感を重ねます。

<ラスト> もじもじと出てきたバニラを、純朴なムスクが抜群の懐の深さで包み込み、更にサンダルウッド(白檀)がクリーミーで甘い、お香めいた清らかさでもってラッピングします。仕上げに結ばれるリボンは、土っぽさと苦みが若干の苦悩を醸し出す、スパイシーなナツメグ。そして、その今にも爆発しそうなバニラ箱を保護するように、アンバーが温かみのある落ち着いたオリエンタル感を、オリスルートがソフトな澱粉臭を巻き付けます。


*酸味の効いたフルーツの香りが、ミルクに包まれた繊細な花とチェリーに覆われ、温かみを増しながら、スパイシーなバニラ&白檀に溶けていきます。


不思議すぎる!酸味やスパイスの効いた、いかつすぎるミルクの香り。





ある朝、いつもの様に目覚まし時計を止めて、素足のまま誰もいないリビングに行く。

毎日なんとなく眺めていたテレビをつける気もおきず、スマホも充電器に挿したまま。
窓から差し込むうすぼんやりとした青色の光に包まれて、今日やることを1つ、心に決める。

そしてキッチンへ行って冷蔵庫を開けると、買った覚えのない牛乳パックが、ポツンと真ん中の棚に置かれている。

期限は印字されておらず、パックは白無地。
1つの文字も記されていないのに、不思議とそれが「何か」なのを理解していて、そっと手に取ると、一気に飲み干す――――。

 

それは「甘えからの脱却」や、「懐かしいものからの卒業」に似た心地。

お気に入りのグラスに注いだいつものミルクが、ある朝飲むとなんだかトゲトゲしている、あの悲しくて切ないのに、どこか解放されたような、自分自身が強くなろうともがいているような感覚。


もう同じでいるのは沢山なのに、すっかり「自分の型」にはまり込んでしまった閉塞感を思わせるのは、やたらまったりとしたミルクやバニラ。その息苦しさに募るイライラは、スパイシーなナツメグ。それでも誰かに、何かに甘えずにはいられない、変化に怯える弱さとズルさは、甘酸っぱいフルーツ。そうして得る一時の安らぎは、曖昧なホワイトフローラル。そんな混沌とした中から突き上がってくる「変化への渇望」は、白檀を中心としたミステリアスなオリエンタルノート。

これら全てがボトルに詰め込まれてしまった、エモーショナルな香水です。

ミルキーなオリエンタルの匂いが、スプレーした直後のパチパチとしたフルーツの下から今か今かと出てくるのを待ち構えてるような、妙な緊張感が漂うトップノートが最悪(褒め言葉)。

ボトルデザインが物語るように「ミルク」をテーマにした香水ではありますが、グルマン系ではなく、オリエンタルバニラの趣きが強い、ココナッツの効いたフルーティー&フローラルな香りです。

胸のもやもやと内緒話をしたいときに。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ジルサンダー サン


『ジルサンダー サン』
* Jil Sander Sun *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

甘くて熱っぽい。
バニラが日向ぼっこしているような、牛乳の中に太陽を沈めたような、狂おしい香りです。

1989年発表 * 調香師 Pierre Bourdon

<トップ> オレンジブロッサムの清らかなフローラル感がポンッと飛び出し、レモンが初々しい酸味と輝きを、ベルガモットが仄かに苦い、フルーティーニュアンスの効いたシトラス感を絡めます。

<ミドル> ヘリオトロープのナッツ風味の曖昧で人懐っこい甘さがよちよち歩きし出し、オリスルートが土属性のパウダリーな安心感で包み込む。その甘い空気の中に、イランイランの青臭い花々を砂糖とバナナで煮込んだような、劣情を沈黙でくるんだ艶めいた気配が立ち上がり、ローズが無条件の愛情を、リリー・オブ・ザ・ヴァレイが純真無垢な愛着を持ち寄る。時折ふと、怒りと緊張が混ざった甘えが爆発するように、カーネーションのピリリとしたバニラ風味のスパイシー感が過ぎります。

<ラスト> ベンゾインの甘く温かな、バルサミックな指先に触れてバニラがポタポタ零す涙を、アンバーとスティラックス(蘇合香)の熱っぽい樹脂の香りが、静かに、ただ忍耐強く受け止める。そして、ムスクが霧めいた曖昧な視界で心の距離を削り、トンカビーンズが途方もない繊細さと弱さを露呈し、サンダルウッドが許しに似たミルキーなウッディー感で、時と記憶を混ぜる。ドロドロに溶けてなおスパイシーさの抜けきらない、パチョリが浮かび上がらせる煙った全体の表情は、どこか息苦しい、境すらもどかしく感じる、未熟さゆえの真摯なもの。


*シトラス色のフルーティー感が、そこはかとなくスパイシーなイランイラン&ヘリオトロープへと温度を上げ、熱の冷まし方を知らないみたいに、甘く濃厚なバルサム&バニラに迷い込みます。





初夏の午後の日向ぼっこのような、ポカポカと全身を包む柔らかい温もり。

この香水の魅力はそんな「温度感」にあり、バニラとイランイランが恋をするような、エモーショナルな香りの掛け合いにあります。


それは、陽が落ちればスッと冷えてしまう程の、本格的な夏が来ればその容赦のない気温に飲み込まれてしまう程の、不思議で曖昧な温度の中で。
―――それは、触れる指先が酷く熱くて、いつまでも2人だけの世界に閉じこもっていたくなる、心がグニャグニャに溶ける臨界点の上で。

バルサミックな渦に飲まれて一瞬も同じでいられないから、ただ互いの熱を奪い合って、混ぜる不確かな太陽の中に、永遠よりも長い一瞬を信じ合い―――、自虐的なほど露わな青い華やかさを広げる、救いたがりのイランイランの瞳に、少しづつウッディー調の深い自信が宿り煌くのを見るのが、泣き虫バニラの本当の心の支えで、甘い『ありがとう』が「愛してる」や薔薇の代わりになる、そんな切ないくらい繊細な慕情の香り。

オリエンタル・フローラルの深みの中でバニラとイランイランが溺れている、優しいのに、どこか息苦しい、甘くて熱い香りです。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

フィロソフィー フレッシュ クリーム


『フィロソフィー フレッシュ クリーム』
* Philosophy Fresh Cream *
香調:フローラル <ユニセックス>

まさにホイップクリーム!
濃密で美味しそうな香りです。

2013年発表

<シングル> ホイップクリームのピュアで滑らかな香りがあふれ出し、ミルクが美味しそうなコクを、スウィートノート(お菓子をイメージしたファンタジーノート)がソフトなグルマンテイストを絡める。そして、それらの甘さを支える様に、パウダリーノートとフローラルノートが、心地よい清潔感を低く香らせます。


*ミルキーで優しい、甘めのホイップクリーム。





生クリームにコンデンスミルクを混ぜ込んだような、濃密で美味しそうな香り。
ほど良く効いたパウダリー感が全体をソフトにまとめ上げた、ライトで使いやすい一本です。

甘めではありますが、「がっつりグルマン系の香水」といったヘビーな甘さとはまた異なる、甘めのボディークリームのような「シンプルな甘さ」が特徴。

具体的には前者は「様々な種類の甘さ(お菓子をイメージした、スウィーツノート)」が複雑に重なり合っているのに対し、後者は「砂糖のような単一の甘さ」だけで出来ているような、シンプルさゆえの嗅ぎやすさがあります。

これと同系統の香りで、「バニラもしっかり楽しみたい!」という方には、「極上すぎるバニラの香りのレディース&メンズ香水16選」のバニラエクストリームがおすすめです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

セルジュ ルタンス ジュドゥポー


『セルジュ ルタンス ジュドゥポー』
* Serge Lutens Jeux de Peau *
香調:オリエンタル・ウッディー <ユニセックス>

ミルクとトースト!
芳ばしさと白檀が記憶と精神を結ぶ、幸福な食卓の香りです。

2012年発表 * 調香師 Christopher Sheldrake

<トップ> ミルク(牛乳をイメージしたノート)のバターにも似たミルキーな乳製品の風味に包まれて、ウィート(小麦)が穀物のふっくらとした香りを、イモーテルがキャラメルに僅かなスパイスを溶かしたようなほろ苦い甘みを、ピラジン(香料の一種)がナッツをローストしたときの「あの芳ばしい感じ」を漂わせます。

<ミドル> トップのミルク&キャラメルトーストの香りに加えて、リコリスがスッと鼻に抜けるようなビタースウィート感を、ココナッツが南国風のミルキーで温かな甘さを重ねます。

<ラスト> サンダルウッド(白檀)の清らかでクリーミーなウッディー感(木の香り)があふれ出し、インセンスが静かなオリエンタル感を、アンバーが高貴で熱っぽい甘みを、アプリコットとオスマンサス(金木犀)が熟したフルーツに似た複雑な糖蜜感を絡めます。


*ミルク&キャラメルトーストの香りが、次第にほろ苦い甘みとクリーミーさを増しながら、黄金色したサンダルウッドに溶けてゆきます。





アーシーで、ほのかにスパイシーで、暖かい。

とてもリアルな食べ物の香りが、なぜか神々しいサンダルウッドへと辿り着く、極楽浄土を目指して旅立った坊主が哲学に目覚めていくかのような香り。

トップからミドルにかけての、驚くほど「芳ばしさ」が演出されたパン&ミルクは、甘さ控えめで、キャラメルっぽいニュアンスもお菓子的ではなく、あくまで焦げたようなドライなビター感が強調されています。

ミドルに差し掛かる辺りから、そこにリコリスの暗さを感じる甘みが全体を覆い出して、ラストはストイックなサンダルウッドに。

前半のミルク&ト-ストよりも、よほど甘くクリーミーな木の香りがずっしりと広がる、白檀やお香が好きな方には堪らなく愛くるしいけれども、甘いグルマン調を求める方には耐え難いほど真摯なオリエンタルウッディー調です。


「Jeux(=遊び)de(の)Peau(=肌、身体)」=「肌の遊び」という不思議なネーミングをもつこの香水は、ルタンスの幼少時代の「焼きたてのパンの香りの記憶」をモチーフにしたのだそう。

解釈の仕方は様々なれど、例えばそれは、原始的な肌の触れ合いに感じる心地よさや、安心感。子供の頃に「手をつなぐ」ことで得た温かな幸福感や、ただ純粋に触れてみたくて手を伸ばした先の、誰かの頬の柔らかさ。

そういった「肌の記憶」を限りなく微分して、触れた瞬間の充足感を「匂い」の中に求めるならば、本能をくすぐる食の記憶―――「生命を維持する術を覚えた頃の、懐かしいミルクと穀物」に収束するような、そんな「ノスタルジックで素朴な感覚」を見い出せる香りです。

グルマン調というには些かリアルすぎる、焼きたてのパンの芳ばしさと、温めたミルクの香り。

それらが時間を経るごとに、その感傷的ともとれる「美味しさ」を失い、深いサンダルウッドへと潜っていく様は、あたかも「記憶から精神世界」へと思索にふけってゆくような、静かな落ち着きや安らぎを自己の中に見い出す過程のようでもあります。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/milk-perfumes/feed 0 2157
シャネル メンズ香水6選!デキる男の香水選び術とは? http://kosuijoho.com/chanel-perfumes-for-men http://kosuijoho.com/chanel-perfumes-for-men#respond Sun, 24 Sep 2017 14:53:35 +0000 http://kosuijoho.com/?p=2215 ワンランク上を目指す、デキる男の共通点―――。
それは、ありのままの自分を受け入れ、愛し、更に高みへと導く「理想像」を持っていること。

そこで今回は、誰もが一度は憧れる「シャネル香水」にフォーカスし、それらが描く「男性像」にスポットライトを当てました。

セクシーなアーティスト系から、爽やか好青年、危険なダークヒーローまで、魅力は様々。
己を鼓舞する「男の香り」を見つけて、志と共に纏ってみてください。

シャネル アリュール オム


『シャネル アリュール オム』
* Chanel Allure Pour Homme *
香調:オリエンタル・ウッディ <メンズ>

セクシーなアーティスト系。
トップ・ミドル・ラストといったピラミッド型の調香でなく、「フレッシュ」「センシュアル」「スパイシー」「ウッディー」の4つに分類された香りのノートが、纏う人に応じて様々な順序や表情で立ち現れる、革新的な香水です。

1999年発表 * 調香師 Jacques Polge

<フレッシュ> マンダリン・オレンジの爽やかで甘いシトラス感があふれ出し、ベルガモットが柔らかなフルーティー・アロマティックなニュアンスを、コリアンダーがスッと鼻に抜けるオレンジ風味のスパイシー感を絡めます。

<センシュアル> ヴェネズエラ産トンカビーンの、バニラに桜の葉や杏仁を加えたような芳ばしい甘さが流れ出し、ラブダナム(シスタス)がレザー(革)とアンバーを混ぜたような、バルサミック(樹脂)調の温かな甘さを重ねます。

<ウッディー> アトラス山脈産シダーの、クリーミーな甘みの中に爽やかなスパイシー感の溶け込んだ情熱的な木の香りがゆったりと広がり、ベチバーが芯のある土っぽいウッディー感で、力強さとドライなニュアンスを加えます。

<スパイシー> マダガスカル産ブラックペッパーの、キリリと締まったホットなスパイシー感が爽快に広がります。


*清潔感あふれる、甘く温かな、シトラス&ウッディー&ムスキーバニラの香り。

セクシーでエレガント。

バニラやムスクを思わせるクリーミーな甘い香りを、マスキュリンな樹木やスパイスで繊細かつ複雑な香りへと高めた、大人の色気が漂う香水です。

柑橘も良く効いているのですが、酸味は控えめで、何ともつかない優しいフルーティー感がその主軸に。
全体にはそれぞれのノートと共に、ほのかなフローラル感が常に漂っており、つけている間中、心地よい清潔感に包まれることができます。

明るい印象のフレッシュな香りなので、初めて本格的な香水をまとうという方や、オリエンタル系や甘めの香りに初挑戦するという方にもおすすめ。

オフィスはもちろん、デートやカジュアルな休日でも大活躍の、「周りと差がつく、センスあふれる大人の香り」です。

どんなイメージ?

アーティスティックで才覚溢れる、セクシーな大人のイメージ。

ALLUREはフランス語で「魅惑」の意で、付ける人や気温等によって香り方が変化する調香は、「個性こそ魅力である」という哲学に基づいたもの。

モダンとクラシックの良さを巧みに取り入れ、解釈し、新たな独自のスタイルを創り上げたこの香水の魅力は、まさにそんな「魅惑的な革新」自体に深く刻み込まれており、その精神は、香りをまとう者全ての「進化を求める心」にそっと寄り添い、勇気を与えてくれるパワーをも内包しています。

ハングリー精神を洗練された甘いバルサミックで包み込み、シトラスでフレッシュな勢いをつけた、「唯一無二の特別な男」を印象付ける、「自分だけの香り方」をするこの香水は、インスピレーションを欲し、常に変化の中にありたいと願う、アーティスティックな男性像にぴったり。

『自分の魅力』や『自分だけの何か』を確立したい時期にもオススメの、個性的な香水アート作品です。


[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

シャネル エゴイスト プラチナム


『シャネル エゴイスト プラチナム 』
* Chanel Egoiste Platinum *
香調:ウッディ・フローラル・ムスク <メンズ>

シャープでスパイシー。
ラベンダーを中心とした、清潔感あふれる香りです。

1993年発表 * 調香師 Jacques Polge

<トップ> ラベンダーのクリーンでアロマティックな香りがあふれ出し、ローズマリーがスッと鼻に抜けるような鋭利なハーバル感を絡める。そこに、パラグアイ産プチグレイン(ビターオレンジの葉から採れる精油)がグリーンでウッディーな柑橘のニュアンスを、コリアンダーがオレンジ風味のスパイシー感を大胆に巻き付け勢いを出し、プラムが淡いフルーティー感で全体に柔らかさを出します。

<ミドル> コーカサス産クラリセージの、レザーとラベンダーを混ぜてほんのり甘さを足したようなドライな香りが広がり、レユニオン産バーボン・ゼラニウムが薔薇にレモンの風味を加えたような、華やかなハーバル感を立ち上げる。そこに、ガルバナムが硬質で苦みのあるグリーン感を、ジャスミンが青みのあるフローラル感を、シナモンが温かみのあるビター・スウィート感を絡めます。

<ラスト> ベチバーのスモーキーで力強いウッディー感がゆったりと流れだし、オークモスが森の地面のような苔むした苦みを、シダー(針葉樹ミックス)がほのかな甘みとスパイシー感を絡める。そこに、サンダルウッド(白檀)がクリーミーで落ち着いたオリエンタル感を、アンバーとラブダナム(シスタス)が熱っぽくてバルサミックな深みを、ムスクが淡いパウダリー感を重ねます。


*爽やかなラベンダー&ローズマリーの香りが、華やかでドライなゼラニウム&クラリセージへと高まり、ゆっくりと、セクシーで甘いウッディー調へ落ち着きます。

爽やかでクラシカルな、万人受けするハーブ&ウッディー香水。
ラベンダーとゼラニウムがかなり効いており、清潔感にあふれつつも、華やかなセクシーさを感じられます。

トップからミドルにかけては、シャープでスパイシー、ドライな質感ですが、ラストノートに向かうにつれ、クリーミーで柔らかい印象へと変化します。
全体的にそこはかとない温かみがあり、爽やかさと優しさ、色気のバランスが絶妙です。


若々しく溌剌とし、同時に深みや落ち着き、上品さをも兼ね備えたパーフェクトな香りなので、オフィスはもちろん、デートやフォーマルな場にもぴったり。

男らしさと清潔感にあふれ、女性ウケ抜群はもちろん、上司や部下、同僚、取引先の人など、関係を問わず好感を得られやすい、パーフェクトに優秀な香水です。

どんなイメージ?

清廉潔白で実直。
爽やかな好青年をイメージさせる、洒落た香りです。

好青年といっても決して人畜無害系ではなく、統率力のある、自然と周囲に人が集まるタイプ。


「エゴイスト(自己中心的)」を突き詰めれば、核にあるのは、まず他者と自己との境を明確に認識しているということ。

そういった視点で「エゴイスト」の振る舞いを定義するならば、単なる「ジコチュウ」といったものとは遥かに性質の異なる、「自分を中心に据えた、他者や世界との関わり方」が浮かび上がってきます。

磁石のように他者を引きつけ、ときに斥ける。
「ぶれない軸」を心に抱き、周囲を巻き込んで台風の目になる―――。

台風の中心は、雲一つない、風すら吹かぬ穏やかな晴れ間が広がっていますが、その実は、周囲から激しく押し寄せる熱帯低気圧の風の中で、必然的に釣り合う遠心力と気圧傾度力によって生じた、緊張をはらんだ空間。

太陽の熱を食べた水の粒が空気を膨張させ、上昇気流を起こし、グルグルと螺旋状に渦を描きながら、天へと昇っていく――それが、台風の正体です。


ラベンダーの静けさは、台風の目の青空。
押し寄せる風は、冷ややかなローズマリー。

周囲を取り巻くエネルギーは華やかなゼラニウムで、その緊張感はクラリセージ。
上昇してゆく力強さは、ドライなウッディーノート。

―――周りを巻き込んで成長してゆきたい人や、「風」を感じたい人、台風の目のように物事の中心であろうとする人に似合う、パワフルな香りです。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ブルー ドゥ シャネル


『シャネル ブルー ドゥ シャネル(EDP)』
* Chanel Bleu de Chanel Eau de Parfum *
香調:ウッディ・アロマティック <メンズ>

微熱シトラス&不透明ウッディー。
「光と影」を巧みに操った、男前の王道をゆく香りです。

2014年発表 * 調香師 Jacques Polge

<トップ> グレープフルーツの澄み切った苦味と酸味があふれ出し、レモンがキリリと締まった硬質なシトラス感で輝きを添える。そこに、ミントが涼やかなグリーン感を、ピンクペッパー(ポワブルロゼ)が薔薇の香りの上澄みを掬ったような、軽やかな華やかさを重ねます。

<ミドル> ベチバーとシダーの力強いウッディー感がスモーキーに広がり、ジンジャー(生姜)がシャープで熱っぽいスパイシー感を、ナツメグが甘くほろ苦いオリエンタル感を絡める。そして、それらの暗く温かな香りの絨毯から浮かび上がるように、ジャスミンが青みのあるセクシーな華やかさを立ち上げます。

<ラスト> アンバーの不透明でコク深い、高貴な甘い香りがとろけ出し、インセンス(お香)が静かでミステリアスな樹脂ニュアンスを巻き付ける。そこに、サンダルウッド(白檀)がクリーミーな、ラブダナム(シスタス)がレザー調の重みのあるウッディー感でダーク&セクシーな雰囲気を深め、パチョリがハーバル・グリーンなスパイシー感で知的なアクセントをつけます。


*シトラスの硬質な輝きが、熱っぽくスモーキーなスパイス&フローラルへと高まり、不透明な甘さに包まれながら、暗いウッディー感に飲み込まれていきます。


思慮深く、温かい。
豊かな人間性を感じさせる、ロマンに満ちた香りです。

明度や質感に関するセンスが抜群で、その魔術的な魅力は、さながらレンブラントの絵画のよう。

トップの煌めくシトラスや、薄暗がりから浮かび上がる、救いの手に似たジャスミンの「光」。
そしてミドル以降の不透明なウッディーは、たくさんの色を塗り重ねて「闇」を表現した、油彩画の温かな混沌を思わせます。


香り自体を簡潔に表すと、「グレープフルーツ&ウッディー」。

それがお香やアンバーといった、香水らしい複雑さと共に香るため、「シトラス系だけど軽くない香水」をお探しの方や、「カッコイイ洒落た香水が欲しいけど、奇抜な匂いは求めていない」という方に最適。

オフィスに馴染むカッチリとした構成ながらも、その垢抜けた表情はカジュアルなシーンでもはまり、「そこはかとなく上品」な印象を常に醸し出してくれます。


また、「ブル― ドゥ シャネル」には「トワレ(EDT)」バージョン(【柑橘】グレープフルーツの香りのメンズ&レディース香水10選にて紹介しています)と「パルファム(EDP)」バージョンがあり、この「パルファム(EDP)」版は、オリジナルのEDT版にアンバーを新たにブレンドしたアレンジ作品です。

どちらも良く似た香りなのですが、2つを比べると本作EDP版は、EDT版のシトラスやフローラルの明度を僅かに落として、ラストをグッとダークに決めた、より深みのある、成熟味を増した香りに仕上がっています。

トワレ版でも持続性や香りの強さは抜群なので、「シトラス重視」や「明るい方がいい」という場合はトワレを。「酸っぱいのは苦手」という方や、アンバーがお好きな方、「光と影のコントラストを楽しみたい」という方には、パルファム版をオススメします。

どんなイメージ?

男も女も憧れる、人間的にも優れた「王道の男前」。
頭も性格も完璧で、思慮深くありつつも、やる時はやる。

「この人には勝てないなあ。」と素直に負けを認めてしまうような、嫌味のない、酸いも甘いも噛み分けた確固とした「自分」を持っている人―――、そんなイメージを抱く香りです。


なかなかにハードルの高いイメージ像をあげてしまいましたが、この香りが持つ「深み」は、そんな「自分を見つめ、受け入れ、より良い存在になろうとする“ひたむきさ”」にあると思います。

自分と向き合いたい人や、毎日が緊張の連続の人に贈りたい香り。

また、体臭との馴染みの良さも抜群で、シトラスやスパイスが汗ばんだ肌の匂いも爽やかな印象に演出してくれるため、「肌につけて香らせる」という香水ならではの付け心地や機能性を求める方にも最高の逸品。

心の温かさや情熱、更には内面の葛藤までをも美しく彩る、一人の人間を芸術へ昇華させようと試みるような、まとう人を真摯に想って調香された、懐の深い、哲学的な香水でもあります。

付けていると安心できる、とても落ち着いた香りなので、「頑張る自分をサポートして欲しい」という時にもおすすめ。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

シャネル プール ムッシュウ


『シャネル プール ムッシュウ』
* Chanel Pour Monsieur (EDT) *
香調:シプレ <メンズ>

シプレ系の名香。
洗練された、紳士のためのウッディ&シトラスです。

1955年発表 * 調香師 Henri Robert

<トップ> シチリア産レモンの爽やかな香りがアロマティックに広がり、チュニジア産ネロリ(ビターオレンジの花から採れる製油)がシトラス風味の清らかなフローラル感を、パラグアイ産プチグレイン(オレンジ・ビターの葉と枝からとれる精油)がサッパリとした明るいウッディー感とグリーン感を絡めます。

<ミドル> スリランカ産カルダモンの清涼感あふれる樹脂ニュアンスの甘さに、マダガスカル産ホワイトペッパーがキリリと締まった明るい辛味を、コリアンダーがオレンジ風味のスッと抜けるようなスパイシー感を重ねる。それらのバランスの良いソフト・スパイシーな香りに更に、バジルがフレッシュで快活なグリーン感を、ジンジャーがキラキラとした情熱的な温かさを添えます。

<ラスト> オークモスの微かに苦い、静かで苔むした香りがゆったりと広がり、レユニオン産ヴェチヴァーが土っぽい乾いたウッディー感を、ヴァージニア産セダー(針葉樹系ミックス)が甘さの中にスパイシー感の混じった、エネルギッシュな樹木の香りを重ねます。


*グリーンで華やかなシトラスの香りが、バランスの良い明るいスパイシー感へと高まり、柔らかなパウダリー感をまといながら、静かな森の香りへと落ち着きます。

清潔感と大人の余裕に満ちた、完成度の高いシプレ調の香水。
クラシカルな格調高さを保ちつつも、現代的な軽やかさも同時に兼ね備えた、タイムレスに洗練された逸品です。

トップはシトラス(柑橘)を軸に調えられていますが、爽やかな風味が主で酸味はあまりなく、ネロリの華やかさやプチグレインのグリーン感が印象的に広がります。

ミドル以降はどことないパウダリー感がスパイシーなニュアンスを程よく緩和しており、清潔感も抜群。

ラストのオークモス等は少し暗めに香りますが、ダーティーな暗さとは異なり、たとえば残照の曖昧な光に満たされた高い空のような、またはラジオのボリュームを絞るように明度を段々と下げてゆくような、淡く柔らかな「ダーク・ニュアンス」です。

1955年発表のシプレ香水というと、なかなか手を出しにくいオールドな雰囲気を想像しがちですが、その実シャネルらしいスタイリッシュさが際立っており、また、シトラスの軽やかさが大変モダンなため、ぜひ「シプレ系は初めて」という方や若い方にも挑戦していただきたい、「間違いのない、由緒正しきシプレ香水」でもあります。

どんなイメージ?

自分の軸をしっかりと持ち、大地に根を張り大きく枝葉を伸ばしつつも、その木陰で他者を休ませてあげるような、優しさと力強さを併せ持った紳士のイメージです。

スパイシーな面を持ちつつも、其れを剥き出しにはせず、穏やかに、余裕たっぷりに世界を歩いてゆく―――、そんな生き方や理想を託すのにぴったりな、明るく落ち着いた香りです。


世界を信頼し、自分に期待する。
自分を信じると同時に、他者をも信じる強さを持っている。

どんな困難にも揺るがない前向きなパワーと、自信に満ちあふれた知的な男性像を想い描かせる香水です。


20代後半以降の、「変化が欲しい」方や、「もっと大人の魅力を探求したい」方におすすめ。
オフィスはもちろん、改まった席でも品良くまとまり、デートで付ければ頼りがいや男の威厳をアピールできます。

オールシーズンに使える爽やかなシプレ香水なので、まずはウエストにワンプッシュ、さらっとスーツに合わせてみて下さい。
「意外にイケル大人の俺」を再発見できることと思います。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

エゴイスト


『シャネル エゴイスト』
* Chanel Egoiste *
香調:ウッディ・スパイシー <メンズ>

優雅で官能的。
シナモンが効いた、男気溢れる薔薇&白檀香水です。

1990年発表 * 調香師 Jacques Polge

<トップ> コーカサス産コリアンダーを始めとするハーブミックスノートの、爽快で雄々しいスパイシー感に包まれて、シチリア産マンダリンがほのかな酸味と甘みを輝かせます。

<ミドル> シナモンの温かなビター・スウィート感が弾ける中、オリエンタル・ローズが優雅でセクシーな華やかさを大胆に膨らませる。そして、それらの熱っぽく蕩けた赤い香りに、カーネーションがピリリとしたスパイシーな甘みを添えて、胸を刺すような鮮やかな瞬間を描き出します。

<ラスト> ニューカレドニア産サンダルウッド(白檀)の高貴で荘厳なウッディー感が滑らかに広がり、レユニオン産バニラが静謐で澄んだ甘さを絡める。そして、セーシェル産アンブレットシード(ムスクマロウ)が、ムスクよりも微かに硬質な淡いパウダリー感で、全体を艶やかに包み込みます。


*スパイシーな柑橘主軸のハーバル感が、高まるシナモン&ローズの熱情に咽せ、ゆっくりと緊張を解きながら、濃厚なサンダルウッドの香りへと流れ出してゆきます。


薔薇とシナモンと白檀が、それぞれの魅力を存分に振りまく、パワフルでド派手な香り。

動から静へ。
スモーキーからクリーミーへ。

熱がじわじわとスパイスを飲み込み、そのチリチリと胸が焼けるような攻撃性を甘く融解させる、夏の一番暑い日の夕暮れに似た、ミドルからラストへの香りの移り変わり。

とりわけ、白檀の全てを覆い尽くすような密度の高い圧倒的なウッディー感が、甘く、しめやかに絡みつくあたりが、最高に官能的。

古典的ながらも、調香の妙がシャネルらしい風格と贅沢さを醸し出す、満足度の高い一本です。

メンズ薔薇香水としても、白檀香水としても、優秀。
シナモンが良い具合に色気を添えており、スパイシー系香水の入門にも最適。

とても完成度の高い香水です。

どんなイメージ?

義理人情に厚い、男気溢れる「超絶セクシーイケメン」な印象。
ラテンの血が流れているかのような、情熱的で官能的な雄々しさにあふれています。

それぞれの素材が大胆に香るところや、熱っぽいところ、スパイシーなところは、それ自体が生き方や描く男性像と深く結びついており、共感できる方には、とことん「自分の香り」に感じられます。

また、クリエイティブな職業の方や、我が道を行きたいといった系統の気性に合う、自由で自信に満ちあふれた性質も持ち合わせています。


スパイスの表現は男性的ですが、基本は華やかで柔らかい香りなので、彼氏のワイシャツが彼女を優しく包むように、女性にもすんなりと似合います。

そのため、「カップルで香水をシェアしたい!」というときにも、オススメの一本です。

我が道をがむしゃらに歩みたいときや、自信が欲しい時に。
心をそっと包み込んで、芯からポカポカ温めてくれる、人情深い香りです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

シャネル アンテウス


『シャネル アンテウス』
* Chanel Antaeus *
香調:ウッディ・シプレ <メンズ>

スモーキーでアニマリック。
ダークヒーローを思わせる、繊細でミステリアスな香りです。

1981年発表 * 調香師 Jacques Polge

<トップ> シトラスノートの心地よい酸味と苦みが弾け、コーカサス産クラリセージがレザーを思わせるセクシーなハーバル感を、エストレル産ミルラ(没薬)がスパイシーで甘い、スモーキーな樹脂の香りを重ねます。

<ミドル> アルプス産ラベンダーの清潔感あふれる爽やかな香りに包まれて、ジャスミンが石鹸を思わせる、繊細なグリーン調のフローラル感を漂わせます。

<ラスト> エステレル産ラブダナム(シスタス)のレザーやアンバーを混ぜ溶かしたような、バルサミックで不透明な香りが力強く立ち上がり、フランス産ビーズワックスが深みのある穏やかなアニマル感を絡める。そこに更に、インドネシア産パチュリがスパイシーなグリーン調のハーブの香りを重ねます。


*スモーキーなクラリセージ&ミルラの香りが、柔らかなラベンダー&ジャスミンへと揺蕩い、ゆっくりと、アニマリックなラブダナム&パチョリへ溶けてゆきます。


95種類以上の成分を調合した、繊細なレザー&ウッディー調。

スプレーした瞬間は、たじろぐほど極度に男らしいシトラス&ハーブ系の香り。
そこにスモーキーでエロティックなレザー調の匂いが絡み出し、ふと気づくと、驚くほど優しいフローラルが広がる――、まるで仮面の下から甘い素顔が覗くような、魅惑的な香りの変化が特徴です。

ミドルの『ジャスミン』はフローラル系ですが女性的な雰囲気とはほど遠く、香りにあまり関心のない人が言うところの「フェロモンっぽい」や「高級石鹸っぽい」といった、綺麗で曖昧な印象に香ります。

ラストは再びトーンを下げて、雄々しさ全開。パチョリのスパイシーさが、アンバーを始めとするミステリアスなオリエンタル系の要素を絶妙にライトアップし、心地良い清潔感と、高貴な色気を醸し出しています。

アニマリックな雰囲気が強いのですが、安価な香水にありがちな単純でゴムっぽい合成レザーの香りとは全く異なる、セージやシスタス等の「ハーブ由来の繊細な、レザーを思わせる独特の香り」が効いています。

そのため、ダーティーというよりもエレガントな印象。
これまでにレザー系の香りを試して、あまり合わなかったという方にこそ知ってほしい、とても綺麗なレザー調香水です。

どんなイメージ?

この香りの描く男性像のキーワードは、「成熟、強さ、優しさ」。

20代は血気盛んで手の付けられなかった男性が、痛みを理解し始めるような、愛を与えたがり始めるような、まさに「大人の男」といった趣きの、落ち着いた香りです。

複雑で、ミステリアスで、セクシー。
全体的にダークですが、泥まみれの暗さではなく、新月の夜のような、優雅で退廃的な暗さ。

清潔感にあふれ、シャネルらしい上品さや気高さをも兼ね備えた、名香といって良い程に完成された香りなので、オフィスやデートはもちろん、フォーマルなシーンにもばっちりです。


名前の由来

Antaeus(アンタイオス)は、ギリシャ神話に登場する、好戦的な巨人。

大地の女神ガイアと海神ポセイドンの息子で、母なる大地に身体のどこかが触れている限り、地面から無限に「力」が供給されるため、不死身。ゆえに無敵。

特に武術に秀でているわけでないにも関わらず、道行く旅人に次々と決闘を申し込み―――、どんなに強い相手であろうと、その無尽蔵のパワーでもって、どれだけ殴られ地に叩きつけられようとも何度も起き上がり、復活し、ついには相手を粘り負かし命を奪うのだという、並々ならぬ根性とパワーに満ちた巨人です。

しかし、そんなアンタイオスにも弱点が。
それは彼の力の源である「大地」に触れることができなければ、体力は回復しないという、実にシンプルなもの。

そのため、ある日通りかかった旅人にいつもの様に戦いを挑むのですが、挑まれた者―――英雄ヘラクレスに、長時間の格闘の末その弱点を見抜かれてしまい、身体を空中に持ち上げられ、二度と地に接触することの叶わぬまま絞め殺されてしまった―――、という、ギリシア神話の中でも特に強くて危うい、ラスボス的な存在として描かれています。


ポイントは、「無尽蔵のパワー」や「粘り負かす」といった圧倒的な力を持つ一方で、そのあまりにも脆い、儚さすら感じさせる「弱点」を内包しているというところ。
女心をくすぐる、ダークヒーロー的な魅力が満載です。

人と被らない、特別な香水が欲しい方におすすめ。
強さと脆さが妖しくせめぎ合う、パワー崇拝的で、ゾクゾクするほど官能的な香りです。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★★
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/chanel-perfumes-for-men/feed 0 2215
イヴサンローラン ブラック オピウム 闇夜に煌くバニラの真珠 http://kosuijoho.com/yves-saint-laurent-black-opium http://kosuijoho.com/yves-saint-laurent-black-opium#comments Wed, 02 Aug 2017 13:12:20 +0000 http://kosuijoho.com/?p=2092 キラキラした清潔な洋梨の香りが、グルマンニュアンスのほろ苦いコーヒー&ジャスミンへと飲み込まれ、クリーミーさと明度を上げながら、甘く濃密なバニラへと蕩けてゆく、超絶個性派香水。

エモーショナルに甘くて、センシュアルに影っていて、切ないくらいにスタイリッシュ。

真っ暗な夜の底に、梨の水晶とバニラの真珠をばらまいたような、煌らかな香りです。



『イヴサンローラン ブラック オピウム』
* Yves Saint Laurent Black Opium *
香調:オリエンタル・バニラ <レディース>

2014年発表 * 調香師 Nathalie Lorson, Marie Salamagne, Olivier Cresp, Honorine Blanc

トップノート「暗闇の中に咲く、水晶みたいな梨の香り」

ペアー(西洋梨)の浅いグリーン感が透明感を際立たせた、芳醇な果実の匂い。その淡い光みたいな香りがぐるぐると渦を巻いて、ピンクペッパー(ポワブルロゼ)のロージー調の華やかさと、オレンジブロッサムのフレッシュ感を飲み込みます。

*きらきらした、洋梨&フローラルの香り。

上品で繊細。
香りは確かにフルーティーなのだけれど、香り方はどこか硬質で、香りの広がり方はシャラシャラ系。

ピンクペッパーとオレンジブロッサムは、それ自体は主張せず、洋梨の香りを上記のような質感に整えるためのギミック的な存在に徹しています。

すぐ下に覗きかけている暗く甘いバニラ&コーヒーを夜に見立てるならば、このトップは月や星々。
淡い金色の光があちこちに反射して、水晶の粒をばらまいたみたいにさざめく、ゴージャスな夜空の匂い。

スプレーしたてのキラキラ感から始まり、次第に濃厚なミドルに飲み込まれていく、力強くもどこか儚げな輝きが素敵です。

ミドルノート「センシュアルでグルマン。半影みたいなコーヒーの香り」

コーヒービーンズ(コーヒー豆)の芳ばしい苦みがスモーキーに漂い出し、その中心に、ジャスミンが青みがかったセンシュアルな花の香を咲かせる。そして、それらの仄暗い色と熱をあやすように、ビターアーモンドとリコリスがスッと鼻に抜けるお菓子的なほろ苦い甘みで、全体をフンワリ包み込みます。

*コーヒーショップのスタイリッシュな香り。

ベースのバニラに寄り添われながら、ミドルは香り始めます。

コーヒーは浅煎り系で、苦みは軽く、酸味は甘みに紛れる程度。
体質や気温によっては、ジャスミンがかなりはっきり香ります。

個々の素材はどれもお菓子のような曖昧さを纏っており、全体的に甘め。
柔らかな光を遮った指先の落とす、不鮮明に滲んだ影のようなコーヒーが、全体に独特の表情を浮かび上がらせています。

ラストノート「夜空に浮かぶバニラの真珠」

バニラの白く発光するような、清らかでクリーミーな甘さが濃厚にあふれ出し、パチョリがハーバルでスモーキーな、力強いスパイシー感を絡める。そして、シダーがまったりとした深みのあるウッディー感を、カシミアウッド(カシュメラン)が湿った曖昧なムスキー調の甘さを忍ばせ、バニラに真珠のような艶めいた干渉色を浮かび上がらせます。

*滑らかで艶のある、ウッディー・バニラの香り。

ミドルのバニラ混じりの仄暗いコーヒーが、明度を上げて輝きだすラストノート。

メインであるバニラの表情が、とても独創的で魅惑的。
ムスキー&ウッディーのしっとりとした深みやパチョリの鈍い響きと相まって、まるで結晶が重なり薄い層状をなす真珠のような、半透明の艶ややかさを湛えています。

また、バニラの傍のちょっと煙たいような感触に意識を向けると、パチョリが意外なほどしっかりと主張しているのに気付くのですが、それがちょうどミドルから続く都会的な表情を引き継ぎつつ、同時に緊張感は和らげてもいて、粋です。

こんな方におすすめ&香りを一文で表すと…

* バニラが大好き
* お洒落なカフェの香りに包まれたい
* 洗練されたグルマン系バニラ香水を探している
* ダークで煌びやかな世界に浸りたい
* フレーバーコーヒーの淹れたての香りに癒される

☆オリエンタル・バニラ調の、甘く煌めくバニラ&コーヒー香水。

キラキラした清潔な洋梨の香りが、グルマンニュアンスのほろ苦いコーヒー&ジャスミンへと飲み込まれ、クリーミーさと明度を上げながら、甘く濃密なバニラへと蕩けてゆきます。

コーヒー香水?どんなイメージの香り?

ポイント1.とにかく個性的。
フルーツやフローラルしか知らない人が嗅いだらびっくりするような、不思議で独特な香りです。

ポイント2.とても甘い。
あっさりした甘さじゃなくて、濃密で深い、香水でしか味わえないズシンと胸に響く甘さ。

⇒それらと共に、ガツンとコーヒーが立ち昇ります。

全体としては、フレーバーコーヒーのようなお菓子的なニュアンスをまとった、洗練されたフローラル・グルマン系で、第一印象は、まさに『バニラコーヒー』!
甘いのに媚びてない、都会的なスタイリッシュさが魅力です。

また、洋梨とバニラの存在感がばっちりあって、ジャスミンも芯が強い。(ゆえに、グルマン過ぎません。)

それらがコーヒーの作る暗闇の中にキラキラ輝く様が、妖しくて、そのくせどこまでも清潔で。
切なくなるほどセンシュアルです。

『Arp 273』明と暗、甘いと苦い。ブラックオピウムの描く世界

↑この写真は大・中・小3つの銀河が互いに重力で影響を及ぼし合い、薔薇のような美しい形状をなしている、衝突銀河『Arp 273』。

『ブラックオピウム』の香りの立ち方は、まさにコレ。
上部の渦巻き(大銀河「UGC 1810」)の中心部がちょうどミドルノートで、それがグルグル解けていき、ひゅっと抜けていった縦長のやつ(「UGC 1813」)がラストノートの色。

「UGC 1813」の銀河中心核の、星生成によってひと際明るく輝いているのがバニラの発生源。

このイメージをベースに、想像してみてください。

『水晶の洋梨に、真珠のバニラ。
霞がかった都会の夜を思わせるコーヒーとパチョリ。

それらが混ざり合って立ち現れる、独特の煌びやかな世界―――。』

ブラックオピウムの魅力を語るに外せないのは、そんな「明」と「暗」です。

また、正反対の性質のものが引き合い、斥け合い、調和する、いっそ哲学的なまでの懐の深さは随処に見られ、そのどれもが絶妙な表情を湛えて香ります。

たとえば、クリーミーな質感がグイグイと心を引き込むかと思えば、ふいにスモーキーな影が淡く立ち込め眩惑する。
エモーショナルな甘さは愛らしく微笑むのに、スタイリッシュな苦みは思慕を遮る。

せめぎ合っているようでいて、その実は表裏一体で、一歩引くと全てが噛み合っている完璧なバランス。
それはまるで互いが互いを引っ張り合う重力のような、『相互作用』がもたらす美しさにとても良く似ています。

オピウム=阿片

この「ブラックオピウム」は、1977年に発表された「オピウム」という香水のニュー・アレンジ作品。
とはいえ、一嗅ぎしたところでは、その2つの香水に関連性を見い出すのは困難。

なぜならば、オリジナルのオピウムを阿片そのものとすれば、このブラックオピウムは阿片がもたらす快楽にグッと焦点を絞ったような、甘やかな趣だから。

「オピウム」のスパイシーな痛みやインセンスの哲学的な謎かけが、阿片の作り出す闇、悪夢や苦しみならば、
「ブラックオピウム」のバニラは、阿片がオピオイド受容体に働きかけた瞬間の、βエンドルフィンがもたらす幸福感。

解けない魔法のかかった、夢の国の阿片。

なぜそれが「ブラック・オピウム(黒い阿片)」なのか不思議でたまらないけれど、例えば、「闇の中では光しか見えない」のだとか、「闇の底で見上げる世界」が「陽の光に晒された全体像」よりもある種の完全な美しさを持つのだというような、そういった「光以外の全てを飲み込む力」を「黒」に見い出すのならば、確かにとても、ブラック。

天が明るいと星は見えないけれど、暗くなれば、その輝きを見つけることが出来る。
都会の薄闇では霞んでしまうけれど、大自然の漆黒の闇夜の中では、驚くほど強い光が届く。

宇宙で恒星が発する光はずっと変わらないのに、地球の大気や星間物質による光の吸収によって、私たちの眼に映るその姿は、明瞭にも不明瞭にもなる。

「ブラックオピウム」のバニラを、そんな真っ暗闇でしか見ることのできない眩しい星だと捉えれば、名前やボトルの持つロマンや、その香りのクッキリとした明暗を、より深く楽しめるかもしれません。

甘美な……

オフィシャル動画

香水によって様々なオフィシャル動画がありますが、この動画は本当に「ブラックオピウム」の世界観にぴったり。
そして、見ていると無性に共感してしまいます。

ヒリヒリするような、乾いた、エモーショナルな孤独。
不安で、強気で、すごく何かを求めているのだけれど、行く当ても感情を吐き出す術も持たない、危い存在。

こんな必死な目をして夜の街を彷徨ったことって、誰にでもあるのではないでしょうか。

胸が痛くて、熱くて、どうしていいか分からない、あの焦燥感。
息苦しさが画面からリアルに伝わってくるだけに、美しく描かれた夜の街と少女が本当に素敵で、胸に燻る寂しさが熱を得て、チリチリと燃え出し力をくれるような、温かな心地に包まれます。

この「ブラックオピウム」の印象、最大の特徴は、そんな「エモーショナル」さにあると思います。
コーヒーが心をかき乱して、バニラが胸を締め付けて、ジャスミンは走らずにいられない芯の強さで。

動画に共感できる人ならばきっと、嗅いだ瞬間に「あ!」ってなります。

エレベーター編、雑踏編など色んなバージョンがあるのですが、一番ロングバージョンを見ると、「隣に寝ていたはずの男」を探して部屋を出るらしき様子が描かれています。そのため、個人的には雑踏編やディレクターズ・カット版が一番、抽象的でロマンチックだと思います。

特定の誰かじゃなくて、衝動に突き動かされて、自分や自分を満たす何かを探しているような。

私が「ブラックオピウム」に感じるのは、まさにそんな「エモーショナルで甘美な孤独、自由と強さ」です。

光と影を楽しむ、ブラックオピウムのまとい方

香りの拡散性が高く、持続力も高め。
バニラの甘さが印象的な個性派香水のため、ウエストや太もも、膝裏や足首など、下半身を中心に付けるのがおすすめ。

服装や季節、体温等との相性によって、バニラやコーヒーが強く出たり、ジャスミンが強く出たり……、といった変化が感じられやすい香りのため、ぜひ「心地よい」と感じられる量や、綺麗に香る場所等、色々探してみてください。

「甘さが重いなあ」と感じるときは、膝裏や足首など、鼻から遠い場所につけると、ほんわり穏やかになります。

また、デイタイム・ナイトタイムともに使え、デートやカジュアル、リラックスタイムや自分へのご褒美タイムにもばっちり。

世代を問わず満足できる「大人グルマン系バニラ」で、センシュアル、かつスタイリッシュな印象なので、ぜひ「自分スタイルのブラックオピウムの楽しみ方」を模索してみてください。

パンツスタイルやフェミニンな服装を始め、付けてみると「あれ?意外に似合うかも」という嬉しいサプライズに、きっと出会えます。

※この「ブラックオピウム」のアレンジ版に、「ブラックオピウム ニュイブランシェ」(ニュイブランシェ=白夜)という香水があります。
「ブラックオピウム」をライトにしたような香りで、バニラの明度もアップしています。

夏でも付けやすい優しい仕上がりなので、「重たい香りは苦手だけどバニラコーヒーは気になる……」という方は、ぜひ「ブラックオピウム ニュイブランシェ」をチェックしてみてください。
(紹介記事はこちらです→2016年 おすすめ新作メンズ&レディース香水10選

季節外れ香水のススメ

本来ならば秋冬向けの、甘く濃厚な香り。
しかし、それを真夏の夜に一吹きすると、ほんの少しの非現実的な香りの感触を味わえる。

夏のぎらつく太陽が沈んで、地表に残った生ぬるく湿った大気。
そのゼリーとクリームの合いの子みたいな、しっとりとした軟質のカンバスに、香りの粒子が優しく吸い付いていく、独特の心地がつくる世界。

それはまるで、いつもの香水の別の顔。

たとえばこのブラックオピウムは、空気の冷たい季節の香り立ちからは想像できないほどの、情緒的な鳴き声をあげる。

まずスプレーした瞬間に感じるのは、愛くるしさに毒気が巻き付いた、熟れた甘さ。
冬に見せる洗練された表情とは異なる、縋るような、体当たりの甘さ。

それから、それぞれの素材が、次々と嗅ぎ慣れぬ香り方をする。
ある特徴は雄弁になり、ある特徴は寡黙になる。

バニラの底の木琴の音みたいな澱がこだまして、手を透かしたくなるような明るさをつくる。
その上にコーヒーは、鈍いグラデーションのかかった影を、幾重にも落とす。

パチョリのスパイシーさは息を潜め、シャラシャラとした青みが強調される。

常ならば澄ました洋梨は、林檎のような澱粉のまだるい気配をまとって、清潔であろうとするホワイトフローラルに艶を出す。

なみなみに注いだ蜜が、グラスから零れるのをじっと見つめている感覚。
夏の短い夜に蝉や蛍の儚い命を重ねるような切なさと、うだるような熱い季節の、今が永遠に続くかのような怠惰な心地を混ぜ合わせた、思春期真っ只中のブラックオピウム。

――そんな別の顔が、熱帯夜にだけ楽しめます。

TPOに合わせた使い方とは大きく外れますが、お部屋でのくつろぎタイムや寝香水など、自分だけの香りの世界にダイブするときに、ぜひ季節外れの香水とも戯れてみてください。

新たな香りの魅力に気づけたり、気温や湿度によってどれほど香り方が変わるかに驚けたり等、楽しみ方は色々です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/yves-saint-laurent-black-opium/feed 10 2092
2017年限定【エスカーダ フィエスタ カリオカ】と情熱的な夏を探そう http://kosuijoho.com/escada-fiesta-carioca http://kosuijoho.com/escada-fiesta-carioca#comments Mon, 10 Apr 2017 10:02:45 +0000 http://kosuijoho.com/?p=2028 大人気のエスカーダ夏限定香水が、今年も発売されました!

これまで様々な「コンテンポラリー・サマー」を描き続けてきたエスカーダ。
本作2017年度版は、その25周年を記念した、お祝いムードあふれるトロピカルな一本です。

眩いほどにキラキラ。
若さと情熱に満ちた「エスカーダ フィエスタ カリオカ」の香りで、「今」を楽しみましょう^^



『エスカーダ フィエスタ カリオカ』
* Escada Fiesta Carioca *
香調:フローラル・フルーティー <レディース>

2017年限定フレグランス

トップノート「キラキラでシュワシュワ!」

パッションフルーツの濃厚で甘酸っぱいトロピカル感がキラキラと広がり、ラズベリーがほんのりウッディーニュアンスの混じったキュートなベリー感を、レモンがシュワシュワと弾けるような明るい酸味を重ねます。

*ジューシーで甘酸っぱい、お洒落なカクテルのような香り

ちょっとびっくりするぐらい、弾けまくっています。

肌からパアアァッ!と浮き上がってくるような、はたまた皮膚の表面を覆う皮脂膜のバリアに香り分子が勢いよくぶつかって、バァーンッ!跳ね返されてくるような、凄まじいテンションの高さ。

エスカーダ限定シリーズファンにはもう、たまらない、スプレーした瞬間の、

「コレコレ!まさにコレ!ああもうエスカーダってば本当に何かハイになる物質入ってるやろ!!」

と叫んで跳ねて『dazzlin』のワンピース着てどっか行きたくなるような、あのわくわく感がたっぷり詰まった香りです。

ミドルノート「等身大のセクシー系カジュアル」

パッションフラワーのしなやかで甘い、フルーティーな花の香が踊り出し、ジャスミンが青みがかったセンシュアルな華やかさを、オレンジブロッサムがクリーンなフレッシュ感を添えます。

*フルーティー&グリーンなお花の香り

トップのトロピカル感を保ったまま、フワワワーッ!と陽気に花開いていくミドルパート。
ジャスミン系のグリーン感が程よく効いていて、甘すぎず、爽やかに仕上がっています。

エネルギーに溢れつつもはしゃぎ過ぎていない、「カジュアルに使っちゃって!(エスカーダ基準)」という声が聞こえてきそうな、心地よい、人懐っこい香り。

露出が多くセクシーな服装なのに、キュートで無邪気な笑顔がどこか健全な雰囲気を醸し出す、「まさに今この瞬間を楽しむ」ティーンエイジャー的な若さと勢いに満ちています。

ラストノート「ジェットコースターを降りたばかりなのに、もう一回乗りたくなる感じ」

ベンゾインの温かみのある優しい甘さに、ムスクが清潔感を、シダーが落ち着きをプラスします。

*曖昧な甘い香り

ミドルのフローラルが落ち着いてきて、ちょっと甘さがペタっとしてきたなあと感じたら、ラストノート。
とても軽く、ふんわりソフト。

香料のせいか調香のせいか、微妙に飛びきっていないフルーツや花の残り香が甘さの中心にくるまっており、つい物足りなくなってもう一度つけ直したくなる、後を引く香り。

「なぜかリピートボタンを何度も押してしまう曲」のような。遠くに聞こえる夏祭りの囃子のような。ほんのり切ないフェードアウトです。

こんな方におすすめ&香りを一文で表すと…

* パッションフルーツが大好き
* 「今年の夏」の香りが欲しい
* トロピカルで弾けた香水を求めている
* テンションを上げたい
* エスカーダ限定シリーズ特有の「甘酸っぱい」香りの中毒者

☆フローラル・フルーティー調の、エネルギッシュでトロピカルなフレグランス。

きらきら弾けるパッションフルーツが、センシュアルなグリーン感をまとったしなやかなパッションフラワーへと華やぎ、音楽のボリュームを下げていくように、ほのかな甘みに溶けていきます。

香りの考察

毎年期待を裏切らない、優秀な「エスカーダ サマー リミテッド エディション」香水。

本作「2017年版」はその限定シリーズ25周年を記念し、「Fiesta(=お祭り)Carioca(=ブラジルのリオデジャネイロ生まれの人や住人)」をモチーフに創作された、パッションあふれる一本です。

癖になる甘酸っぱさや、問答無用でテンションが上がる独特のワクワク感やハッピー感、女の子らしいキュートなフルーティー感は例年通り。

そこに今年は、アニバーサリームードを盛り上げる、弾けるようなキラキラ感が全体を眩しく包み込んでおり、これまでになくエネルギッシュかつスパークリングな香りに仕上がっています。

エスカーダお得意の「魅惑的なベリー」の表情と、夏を感じさせる元気いっぱいの「トロピカル」。
限定シリーズの肝ともいえる、この2つの要素を上手くブレンドした、ファン心を掴む抜群のセンス。

そして、その魅力を余すところなく伝えるポップなカジュアル感が、まさに絶妙。

シリーズの中でも比較的、甘さ控えめ。ギャルギャルしさも穏やかなので、毎年楽しみにしている方は勿論、エスカーダは初めてという方にも、とっつきやすく、おすすめです。

暑い夏を楽しむ、エスカーダ香水のまとい方


比較的ライトな部類のオードトワレ(EDT)ですが、酸味の効いた拡散性が強めの香りなため、ウエストや太もも等に軽くスプレーするのがおすすめ。

香水は日光に当たると香りが変質してしまったり、体質によってはかぶれてしまうことも稀にあるため、手首や、スカートであれば膝裏など、露出する場所を避けて、服に隠れる場所に付けてください。

カジュアルなシーンにぴったりで、シャイな10代の方にも大人の方にもつけやすい、ほど良いキュートさ。

ガーリーなワンピースにも、フェミニンなブラウスにも、綺麗目なデニムにも似合う愛嬌のある香りなので、ぜひ「とっておきの夏コーデ」のお供に、キラキラまとってみてください。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/escada-fiesta-carioca/feed 2 2028
【シトラス】元気が出るオレンジの香りの香水19選!男性&女性用 http://kosuijoho.com/orange-perfumes http://kosuijoho.com/orange-perfumes#comments Fri, 31 Mar 2017 10:25:40 +0000 http://kosuijoho.com/?p=1925 男女ともに愛用者の多い、爽やかなシトラス系香水。
その中でも特に人気の高い、オレンジが中心の香りを集めました。

メンズ香水5本、レディース香水6本、ユニセックス香水8本の、計19選。
どれもほど良い苦みと酸味に、親しみやすい、明るい表情が魅力です。

柑橘のハッピーな香りで、晴れやかな気分になりましょう^^

4711 アクアコロニア ブラッドオレンジ&バジル


『4711 アクアコロニア ブラッドオレンジ&バジル』
* Maurer & Wirtz 4711 Acqua Colonia Blood Orange & Basil *
香調:シトラス・アロマティック <ユニセックス>

ナチュラルでリアルで美味しそう。
「オレンジを投げつけられたい!」という欲望をみたしてくれる香りです。

<シングル> ブラッドオレンジのジューシーでリアルな香りがあふれ出し、バジルが爽やかでスパイシーなグリーン感を絡めます。

2010年発表


*オレンジの皮を剥いた瞬間や、果汁を絞った瞬間の、あの美味しそうな香り。


気分転換したいときや、元気が欲しいときにおすすめ!
天然香料を使用した、シンプルでリフレッシュ効果の高い一本です。

瑞々しく、甘さ控えめ。酸味もマイルド。
しっかりと効いたバジルのハーバル感が、独特の清々しさと、味覚に限りなく近い「美味しそう!」なイメージをわかせてくれます。

アロマオイルのようなリアルさと共に、コロンとしての使い心地にもこだわった、とても気持ちの良い香りです。

[持続性] ★★☆☆☆ [拡散性] ★☆☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

アトリエ コロン オレンジ サングイン


『アトリエコロン オレンジサングイン』
* Atelier Cologne Orange Sanguine *
香調:シトラス <ユニセックス>

クリーミーでフレッシュ。
オレンジの魅力を丁寧に描写した、超絶リアルな香りです。

2010年発表 * 調香師 Ralf Schwieger

<トップ> イタリア産ブラッドオレンジをギュッと絞ったような、ジューシーな香りがあふれ出し、スペイン産ビターオレンジ・ピール(皮)がアロマティックな苦みと酸味を、イタリア産マンダリンが濃密でフルーティーな甘さを絡めます。

<ミドル> 南アフリカ産ゼラニウムの、モダンローズにレモンの風味を足したような明るいフローラル感がキラキラと広がり、エジプト産ジャスミンがセンシュアルなグリーン感を、マダガスカル産黒こしょうがキリリと締まったホットなスパイシー感を重ねます。

<ラスト> インドネシア産サンダルウッド(白檀)のクリーミーでオリエンタルな甘さに、テキサス産シダーが仄かにスパイシーな情熱的なウッディー感(木の香り)を、ブラジル産トンカビーンズがバニラに杏仁を加えたような、繊細な甘さと芳ばしさを絡めます。


*リアルなオレンジの香りが、スパイシーで艶っぽいゼラニウムへと華やぎ、ゆったりと、ミルキーで甘い木の香りに溶けていきます。


甘みも酸味も苦みも絶妙。そして何より、色っぽい……!
本物以上に芳しい、オレンジ生産者が夢見るレベルの「完璧すぎるオレンジ」の香りです。

香水とは思えないほどの本当に美味しそうな「新鮮オレンジ」が、シャーベットや果肉ピューレのような甘やかな表情を浮かべながらゼラニウム&ジャスミンのフローラル感と睦み合い、そのまま蜜月を過ごすような……、なんともロマンチックな香りの深まり方が魅力です。

そんな「オレンジくんの千夜一夜物語」のような情感もさることながら、技術的・品質的な面でも素晴らしく、トップのフレッシュなシトラス感が長く、長く、不思議なほど長く続きます。

また、上記のような色気はありつつも、それと同時にスパイシー感や明るさ、硬派な雰囲気の清潔感も前面に出て来るので、ユニセックス香水の中でもマスキュリン(男性的)な香りが好きな方におすすめ。

リアルなオレンジの香りを求める人が感動できる、存在感とオーラに満ちた作品です。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム

クリニーク ハッピー フォーメン


『クリニーク ハッピー フォーメン』
* Clinique Happy for men *
香調:シトラス・アロマティック <メンズ>

爽やかで清潔。
嫌われようがない、完璧に「風呂上がり」の香りです。

1999年発表

<トップ> マンダリンオレンジの爽やかな酸味と甘みがあふれ出し、ライムとユズ(柚子)がシャープな爽快感を、フルーツノートがまろやかなジューシー感を絡めます。

<ミドル> グリーンノートの草原を思わせる明るい香りが、すっきりと広がります。

<ラスト> シダーとグァヤックウッドの、スモーキーで落ち着いた木の香りが淡く漂い、サイプレス(西洋ヒノキ)が爽やかなスパイシー感を、アンバーが温かみのあるソフトな甘さを重ねます。


*爽やかなオレンジの香りが、心地よいグリーンノートへと高まり、ゆったりと、ほのかな木の香りに落ち着きます。


日本で大人気の「爽やか系メンズ香水」の代表格ともいえる一本!
他の柑橘系の香水と比べて、なぜこの香水が熱烈な支持を受けているのか、そのポイントを5つ挙げます。

1.高温多湿でもすっきり香るマイルドな調香
2.お風呂上りを思わせるウォータリーな質感
3.ミドルのグリーン系が、秀逸に清々しい
4.残り香が重くない&甘すぎない
5.雄々しすぎないのに、男の色気がある

「柑橘系の入浴剤を入れたお風呂から出てきた人」のような、全く嫌味のない爽やかな香りなので、男女ともに好感度抜群です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム

ランコム オランジェリー


『ランコム オー ドゥ オランジェリー』
* Lancome O de L`Orangerie *
香調:シトラス・フローラル <レディース>

健やかでロマンチック。
オレンジブロッサムが美人オーラを添えた、清潔感あふれる香りです。

2011年発表

<トップ> オレンジの瑞々しく明るい香りがあふれ出し、ベルガモットが上品でアロマティックな苦みと酸味を、オレンジブロッサムが華やかなフレッシュ感を絡めます。

<ミドル> オレンジブロッサムのクリーンで甘い香りがゆったりと広がり、ホワイト・ジャスミンが草の葉に似た爽やかなグリーン感を重ねます。

<ラスト> シダーの静かで落ち着いたウッディー感(木の香り)に、ベンゾイン(安息香)がほのかに甘い、繊細な樹脂感を重ねます。


*アロマティックで瑞々しいオレンジの香りが、清らかで澄んだオレンジブロッサムへと華やぎ、粛々と、深い木の香りに落ち着きます。


真っ白なシャツとそよ風が似合う、爽やかで健康的な香り。

トップのオレンジからミドルにかけての、まるで空間が広がっていくかのよう、フワッと花ひらくオレンジブロッサムが、心が洗われそうなほど清らか。また、その余韻をそっと束ねていくストイックなラストのウッディー感が、どこか禅の境地へとたどり着いたかのような「憑き物が落ちた感」を錯覚するほど、静かで穏やか。秀逸な幕引きです。

クラシカルなシトラス&フローラルの調香に現代的な透明感を与えた、さり気なく、ふんわりと体臭に馴染む香りなので、どんなシーン・どんな年代の方にもおすすめ。

サラリと清潔感や健やかさを演出できる、万人受けする香りです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏 / デイタイム

エルメス ランジュ ヴェルト コンセントレ


『エルメス オードランジュ ヴェルト コンセントレ』
* Hermes Concentre d`Orange Verte *
香調:シトラス・アロマティック <ユニセックス>

エネルギッシュで写実的。
オレンジ&ハーブの、青みがかった爽快な香りです。

2004年発表 * 調香師 Jean Guichard

<トップ> オレンジ&マンダリンのシャープでリアルな香りがあふれ出し、レモンが鮮やかでクッキリとした酸味を絡めます。

<ミドル> ミント&バジルのペッパーで涼やかなグリーン感が優しく広がり、オレンジブロッサムが清潔感あふれるフレッシュな華やかさを添えます。

<ラスト> シダーのダークで豊かなウッディー感に、パチョリがスパイシーでハーバルなグリーン感を、アンバーが高貴で甘い樹脂感を絡めます。


*写実的な柑橘の香りが、涼やかなハーブ系のグリーン感をまとって深まり、スパイシーさを増しながら、静かな木の香りに落ち着きます。

オレンジを皮ごとガリッと齧った瞬間の、パアッと弾ける酸味やリモネン。次いで、舌に広がる苦みと渋み、ほのかな甘み。嚥下して鼻に抜ける、キリリとした青みと、まろやかなエステル類やビサボレンの香気――。

そんな「シトラス」の要素をバラバラにして、調香師が感性を研ぎ澄ませて、一から名の通り「オレンジ(Orange)と緑(Verte)の水(Eau)」を忠実に組み上げたような、写実的で迷いのない香りです。(Concentreは凝縮の意味で、この「Concentre d`Orange Verte」はオリジナルの「Eau D`Orange Verte」からフローラルな要素をいくらか抜いた、シトラス感の強いアレンジバージョンです)

オレンジやハーブの爽やかな部分だけでなく、渋みやえぐみも余すところなく表現しており、例えるならば、ステドッラーのシャープな色合いで描かれた、超絶リアルな鉛筆画のよう。

それは写真のようにただ再現したという「リアルさ」ではなく、実際にオレンジを齧ったときに感じる、突き刺さるような「あの風味、あの感覚」――嗅覚の鋭いものだけが知るその鮮烈な印象を、全ての嗅ぐ者に味わわせようとするかのような、緻密に作り上げられた「シトラス」の香りです。

ハーバルやウッディーも同様。「草原や森林の風景」を通り越して、「素材そのものに接した瞬間」に焦点をあてたリアルさで、とても爽快。

シトラス系の香水にあまり興味のない人にこそ試してほしい、調香師の感性を通した「鮮やかすぎる世界」を体験できる、ストレートでダイナミックな作品です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

シャネル アリュール オム スポーツ


『シャネル アリュール オム スポーツ 』
* Chanel Allure Homme Sport *
香調:ウッディ・スパイシー <メンズ>

セクシーで躍動的。
「フレッシュ・センシュアル・スパイシー・ウッディー」の4つに分類された香りのノートが、纏う人に応じて、それぞれの流れや表情で現れます。

2004年発表 * 調香師 Jacques Polge

<フレッシュ> オレンジとマンダリンの弾けるような明るい果汁感に、ネロリ(ビターオレンジの精油から採れる精油)がフレッシュで清らかな、シトラスニュアンスの華やかさを重ねる。そこに、アクアティックノートが塩気を含んだ爽やかなウォータリー感を、アルデハイドが光で包み込むような温かな脂感を絡めます。

<センシュアル> トンカビーンの甘美でほのかに苦い、バニラと杏仁を混ぜたような繊細な芳ばしさがあふれ出し、ホワイトムスクがセクシーで淡いパウダリー感を、アンバーが温かみのある高貴な樹脂感を重ねます。

<スパイシー> ブラックペッパー(黒胡椒)のキリリと締まった、ホットなスパイシー感が弾けます。

<ウッディー> シダーのまったりとした甘さの中に爽やかなスパイシー感を含んだ、エネルギッシュな木の香りが柔らかく広がり、ベチバーがスモーキーなウッディートーンを重ねて深みを出す。そこに、エレミが柑橘系のニュアンスを持つスパイシーな樹脂の香りを絡め、全体に独特のコクと明るさをプラスします。


*「アリュール プール オム」のフレッシュとセンシュアルパートに焦点をあてた、爽快な「スポーツ・バージョン」です。


ビュンビュンと風を切って走る、高揚感。
全身の筋肉が張り詰めて、アドレナリンが体じゅうを駆け巡る、ハイで無敵な感覚――。

そんな「スポーツ時の気持ちいい感覚」を一吹きで呼び覚ます、シャープでエアリーな“冷”、感性に直接訴えかける情欲的な“熱”を併せ持った、極度に研ぎ澄まされた香りです。


肌の上で弾けるウォータリーなオレンジ、ゆったり体臭と溶け合う繊細なトンカビーンが印象的に香り、スパイスやウッディー感はかなり抑え目。

ムスクの淡いパウダリー感が艶っぽい雰囲気を醸し出していますが、これがまた甘すぎず、濃すぎず。シャネル香水の「俺様」なイメージとは一線を画す、身を投げ出すような無防備ささえ感じる、「ピュアで健康的なセクシーさ」を打ち出しています。

メンズ香水ですが、マッチョさや重さとは無縁のすっきりとした香りなので、中性的な男性はもちろん、爽やかさを極めたい女性にもおすすめ。

「清潔感を出したいけれど、色気は抑えたくない」という我がままを叶えてくれる、男女問わず受けの良い、爽快な香りです。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ザ・ボディショップ サツマ


『ザ・ボディショップ サツマ』
* The Body Shop Satsuma *
香調:シトラス <ユニセックス>

マニアック!
温州みかんジュースの香りです。

2012年発表

<シングル> サツマ・オレンジ(温州みかん)の甘くてフルーティー、ちょっぴりノスタルジックな蜜柑の香りが、優しく広がります。


*素朴でリアル。まさに、ザ・ミカン!


初めて温州みかんジュースを飲んだ時の感動がよみがえる、甘めの香り。

一口にみかんジュースと言っても某ポンのような若干酸っぱいやつでなく、「農家の手絞り」系かつ「完熟」を謳っている、幅広の口の瓶の「みかんジュース」の、あのキャンディーのように甘くてフルーティーなやつです。

香りの持続性は有りませんが、「マッチ売りの少女」がマッチ一本擦って見る幻が如く、みかんに幸福な思い出があると、ちょっと感動します。

童心に返りたいときに。

[持続性] ★☆☆☆☆ [拡散性] ★☆☆☆
[TPO] 春・夏 / デイタイム

カルティエ エッセンス ドランジュ (オランジュ)


『カルティエ オーデ カルティエ エッセンス オランジュ』
* Cartier Eau de Cartier Essence d`Orange *
香調:シトラス・ウッディー <ユニセックス>

ピュアなのに刺激的?!
まさにジェンダーレスな、美意識の高い香りです。

2010年発表

<トップ> オレンジの鮮やかで瑞々しいシトラス感があふれ出し、ベルガモットがアロマティックな苦みと酸味を添えます。

<ミドル> バイオレット(ニオイスミレ)が大地の香りの、ほんのりパウダリーで無垢な「大人フローラル感」を奏でます。

<ラスト> まったりとした甘みの中にスッと抜けるようなスパイシー感を持つ、シダーの神秘的な木の香りがゆったりと広がり、パチョリがすっきりとした明るいハーバル感を絡めます。


*ビビッドなオレンジの香りが、淡くクリーミーなパウダリー感をまといながら、スパイシーな木の香りに溶けていきます。

ユニセックス(男女共用)といっても、どこかフェミニンだったりマスキュリンだったりする香水も多い中で、ハッとするほどクリアな「次世代型のジェンダーレスな魅力」を感じさせてくれる、稀有でピュアなシトラス&ウッディーの香り。

とにかく印象的なのが、果実の皮を剥いたときにふわっと立ち込めるような、エアリーで鮮やかなオレンジの香り。シンプルなのですが、これが実に甘すぎず、苦すぎず、ウォータリー過ぎず、とても上品。

そして、その無垢なシトラス感がほんわり柔らかくなる頃から顔を出す、スパイシー感の効いた澄んだシダーが、まるでユニコーンでも現れそうなほど、清らかでファンタジック。


どんなシーンにも溶け込むような洗練された表情を持ちつつも、香り全体に満ちる、ビビッドで澄み切ったトーンが纏う人を選ぶ、なかなかにハードルの高い香りです。

神聖な雰囲気を求める方や、自分らしさを極めたい方、ジェンダーレス男子やジェンダーレス女子にもおすすめ。

美意識の高い、「本当にユニセックス」な作品です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム

ボンドNo.9 リトル イタリー


『ボンド ナンバー ナイン リトル イタリー』
* Bond No 9 Little Italy *
香調:シトラス・アロマティック <ユニセックス>

徹底的にオレンジ!
ニューヨーク市マンハッタンの一画、「リトル・イタリー」の活気とざわめきを詰め込んだ、ジューシーでパワフルな香りです。

2004年発表 * 調香師 Francis Camail

<トップ> クレメンタイン(マンダリンとスウィートオレンジの交配種)とマンダリン・オレンジのジューシーで甘い果汁の香りがあふれ出し、グレープフルーツが澄んだ苦みと透明感を重ねます。

<ミドル> ネロリ(ビターオレンジの花から採れる精油)のシトラスニュアンスでほのかな苦みを含んだ、清らかで明るいフローラル感が淡く溶け出します。

<ラスト> ムスクのピュアで優しい甘さが、ふんわり肌に残ります。


*ジューシーで美味しいオレンジの香りが、ほのかな華やかさをまとって輝き、ゆっくりと、静かなムスクに落ち着きます。


水捌けの良い土壌でスクスク育ったオレンジを、そのままギュッと手絞りしたような、とにかくジューシーな香りです。

トップからほぼラストまで、ずっと「オレンジオレンジ」していて、かなり甘め。

陽気なシトラス感に溌剌とした酸味が冴えわたった、『元気がないんだろ?ほら、こっち来いよ。サンジェローナ祭りで酔いつぶれようぜ!』なんて懐の深さとおおらかさ、バイタリティに富んだ、「象徴的な“イタリア”への憧れや思慕」を、ニューヨークの空気の中で描ききった作品です。

具体的には、かなり凝った親しみやすくエネルギッシュな「美味しそうなオレンジ」の表現の一方で、ミドルから混ざりだすフローラルの澄み切ったフレッシュ感が伝えるメッセージは「都会的な洗練」。ラストに残るピュアなムスクは、まるでオレンジの名残をいつまでも肌に留めようとするかのような「芯」がありつつも、どこか遠慮がちな表情。

鼻でなく口の中で味わうような、鮮烈なオレンジ香水です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

クリニーク ハッピー


『クリニーク ハッピー』
* Clinique Happy *
香調:フローラル・フルーティー <レディース>

思わずニコニコ笑顔に!
シトラスとフローラルが完璧に融合した、透明感あふれる香りです。

1997年発表 * 調香師 Jean-Claude Delville, Rodrigo Flores-Roux

<トップ> マンダリンオレンジとルビーレッド・グレープフルーツの瑞々しくクリアな柑橘の香りに、ベルガモットが品のある落ち着いた苦みと酸味を、ウェスト・インディアン・マンダリン・ツリー・ブロッサム(西インド諸島のマンダリンの木の花)がフルーティーで明るい華やかさを絡めます。

<ミドル> メラティ・ブロッサム(インドネシア語でジャスミン)のすっきりとしたグリーン調フローラルが爽やかに広がり、モーニング・デュー・オーキッド(朝露に濡れた蘭)が清潔感あふれるソフトな甘さとパウダリー感を、ボイセンベリー・フラワーがフルーティーな華やかさを重ねます。

<ラスト> スプリング・ミモザ・ブロッサム(春めいたミモザの花)の、バニラとアーモンドに砂糖をまぶしたような愛らしい風味の華やかさに、ハワイアン・ウェディング・フラワー(ホワイトリリーやチャイニーズ・ゴールデン・マグノリア等、ホワイトフローラル系のミックス)が清楚でフレッシュな明るい表情を加えます。


*上品で瑞々しい柑橘の香りが、ロマンチックなパウダリー感をまとった明るいジャスミンへと高まり、ふんわりと、清潔で曖昧なフローラル・ブーケに落ち着きます。


光の粒を集めてボトルに詰めたような、朗らかで明るい、まさに「ハッピー!」な香り。
シトラス&ホワイトフローラルのキラキラ感と清潔感を前面に押し出した、万人受けする綺麗なブレンドです。

しっかり華やかなのですが、「香りで花束を表現」というよりは「花びらを散りばめた部屋に漂う香り」といった雰囲気の、良い意味で「間接的」な華やかさ。

また、「柑橘の果汁そのまま」というよりは「柑橘類の皮を剥いたときに広がる、胸のすくような苦みや酸味」といったシトラス成分だけを取り出して、先ほどのフローラルノートにパラパラッと振りかけたような、刺激のすくない、優しいシトラス・ニュアンスも心地よいです。

どれもがくっきりと鮮やかなのに、どれもがスタイリッシュにポーズをきめてこちらを向いているような。シルクスクリーンで印刷されたポップ・アートに感じる、「影のない、色と形の乱舞」。その香りバージョンといった印象の、洗練された作品です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏 / デイタイム

ゲラン アビ ルージュ


『ゲラン アビ ルージュ』
* Guerlain Habit Rouge Eau de Toilette *
香調:オリエンタル・ウッディー <メンズ>

凛として中性的。
レザーやバニラが官能的な、メンズ・オリエンタルの名香です。

1965年発表 * 調香師 Jean-Paul Guerlain

<トップ> ビターオレンジの優雅で瑞々しい香りに、ライムがエアリーでシャープな酸味を、レモンとベルガモットがアロマティックな苦みと酸味、明るさを絡める。そこに、ローズウッドがフローラル・ニュアンスを含んだ爽やかなウッディー感(木の香り)を、バジルがスパイシーなグリーン感を重ねます。

<ミドル> パチョリのスパイシーでオリエンタルなハーバル感が力強く広がり、カーネーションがほんのりバニラ風味のスパイシーな華やかさを、シナモンがまろいほろ苦さを絡める。そこに、サンダルウッド(白檀)とシダーがミルキーで甘い、清らかなウッディー感を、ローズとジャスミンが優雅な華やかさを重ねます。

<ラスト> レザー(革)のスモーキーでドライなアニマル感がふんわりと立ち上がり、バニラがピュアで愛くるしい甘さを絡める。そして、ベンゾイン(安息香)とアンバー、ラブダナムが温かみのある樹脂系のコクと甘みを、オークモスが森の地面のような静かな苦みを添えて、深みとオリエンタルな表情を醸し出します。


*ウッディー調を軸に、シャープなオレンジ&ライムが、スパイシーなパチョリ&カーネーションへと高まり、オリエンタル感を深めながら、甘いバニラ&レザーへ落ち着きます。


これ以上なく洗練された、時代も性別も超越した名香。
オリエンタルな樹脂の甘みやスパイシー感をベースに、シトラスやレザーが程よくマスキュリンな表情をたたえた、男性にも女性にもおすすめの香りです。

ミドル以降からはパウダリー感も効いており、正統派クラシカルな香調。ラストノートのバニラやレザーの印象から「男性版シャリマー」とも呼ばれているのですが、その実、メンズっぽさを意識した苦めのシトラスや大胆なレザー、スパイスの効かせ方は、現代の感覚からしても、おそらくは発売当時の1965年においても、とても「モダン」。

「モダンアート」がいつまでたっても「スタンダード」にはなりえないように、過去も現在も未来でさえ、変わらず「モダン」と呼ばれるような人々に寄り添い、ひっそり受け継がれていく―――。

そんな、尖った感性が生み出す独特のセクシーさや、美意識の高さが見え隠れする、高度に捻くれた香りです。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

アクアディパルマ ブルーメディテラネオ アランシア カプリ


『アクア ディ パルマ ブルーメディテラネオ アランシア ディ カプリ』
* Acqua di Parma Blu Mediterraneo Arancia di Capri *
香調:シトラス・アロマティック <ユニセックス>

シャープで硬質。
磨き上げられたような煌きを放つ、清麗な香りです。

1999年発表

<トップ> オレンジとシシリアン・マンダリンのリアルで繊細な香りがあふれ出し、レモンがキラキラとした明るい酸味を、ベルガモットが優雅でアロマティックな苦みを絡めます。

<ミドル> プチグレイン(オレンジ・ビターの葉と枝からとれる精油)の柑橘風味のグリーン&ウッディー感が爽やかに広がり、カルダモンが涼やかでスパイシーな、ほのかに甘い樹脂ニュアンスを重ねます。

<ラスト> ムスクのふわふわとした清潔感あふれる淡いパウダリー感に、キャラメルがモダンで芳ばしい甘さを絡めます。


*超絶リアルなオレンジの香りが、立体感を増しながら、ひんやりとしたプチグレインへと高まり、ふわっと甘いムスクに溶けていきます。


硬質な輝きに満ちた、リアルで洗練された香り。

直接的な「果物のオレンジ」ではなく、インペリアルトパーズやマンダリンガーネットから匂ってきそうな、クリアすぎるほどの透明感と涼やかさ、キンと音を立てるような繊細な「酸味」の表現が、とても麗しいです。

冷凍オレンジに通じる、極度にスッキリ&フレッシュな印象で、ラストも軽やか。(洒落た甘さはありますが、グルマンっぽさはありません)

酸味が強いオレンジ香水をお探しの方、エッジの利いたシトラス系がお好きな方に最適です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏 / デイタイム

ゴースト エクリプス


『ゴースト エクリプス』
* Ghost Eclipse *
香調:フローラルフルーティー <レディース>

フルーティーで開放的。
「光」を感じる、爽やかなシトラス香水です。

2014年発表

<トップ> マンダリン・オレンジの甘く瑞々しい香りに、ベルガモットがアロマティックな苦みと酸味を、レモンがキラキラした爽やかさな酸味を絡めます。そこに、アップル(林檎)とピーチ(桃)がフレッシュでジューシーな果物感を、ブラックカラント(カシス)がベリー系のほのかな甘酸っぱさを、マリーゴールドが独特のコクを絡めます。

<ミドル> ロータス(蓮)のウォータリーで淡いフローラル感に、フリージア(浅黄水仙)がフルーティーなグリーン感を、ローズがフェミニンな華やかさを添えます。

<ラスト> アンバーのオリエンタルな甘みがほんわり広がり、ムスクが清潔感あふれるソフトなパウダリー感を重ねます。


*フルーティーでピカピカした柑橘の香りが、瑞々しさを保ったまま淡く華やぎ、ふんわりとクリーンな甘さに溶けていきます。


太陽と地球の間、5.1度の公転軌道の傾きを埋めるように月が入り込んで、ぴったり一直線に並ぶとき。
「当たり前の世界」に、小さくて大きい「影」が落ちる。

真っ赤に燃える太陽の、ほんの400分の1。
小さな小さな月が、遠く離れた巨大な太陽をすっぽり覆い隠して、エクリプス(蝕/日食)を起こす。

辺りは眩しいほど光が満ちているのに、見上げても、輝く太陽はどこにもない。
ただ、ぼうっと白く光る空の下、キラキラとこぼれる木漏れ日の不自然に欠けた光だけが、その光源の存在を地上に知らしめる。

陽の傾かない、日の指す方角すら曖昧な空がつくる、まるで時が止まったかのような世界。
本能的な不安と、子供のような非日常へのときめきが入り混じって、刹那的な解放感に包まれる――。


オレンジの香りの持つ「明るさ」を太陽だとすれば、ベルガモットは散乱光、レモンは反射光。
瑞々しいフルーティー感に包まれて、この3つのシトラスが幻想的な「光」を描き出している、爽やかな香りです。

全体的に、フェミニンな柔らかいトーンでまとめられているものの、甘さはかなり控えめ。

ミドルのフローラルも「華やかな雰囲気」を出す程度で、個々の花の香りが目立つようなことはなく、ほとんど「シトラスが飛んで、香りが丸くなってきたなあと思ったらラストノート」といった感じです。

ちなみに、次に日本で見られる金環日食は2030年6月、皆既日食は2035年9月です。

[持続性] ★★☆☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

ジョン ヴァルヴェイトス アルティザン ブラック


『ジョン ヴァルヴェイトス アルティザン ブラック』
* John Varvatos Artisan Black *
香調:アロマティック・シトラス・フローラル <メンズ>

華やかで繊細。
ジンジャーやレザーが効いた、セクシーな香りです。

2010年発表 * 調香師 Rodrigo Flores-Roux

<トップ> イタリアン・ブラッド・オレンジとタンジェリンの瑞々しく甘酸っぱい香りがあふれ出し、メイヤー・レモンが硬質な酸味を、ルバーブが爽やかなフルーティー感を絡める。そこに、ワイルド・タイムとタイ産ブラック・バジル、スペアミントが涼やかでスパイシーなハーバル感を、ボックスウッド・リーフとブラックカラント・バド・アブソリュート(ブラックカラントの蕾)とペルシヤン・ガルバナムが、ほのかにビターな、落ち着いたグリーン感を重ねます。

<ミドル> チュニジア産ネロリ(ビターオレンジの花から採れる精油)のシトラスニュアンスの爽やかな花の香に、モロッコ産オレンジフラワーが清潔感とフレッシュ感を、インド産サンバック・ジャスミン・アブソリュートがセンシュアルなグリーン感を絡める。そこに、ナイジェリア産ジンジャーとパープルジンジャー(生姜)がシャープで明るいスパイシー感を、カルダモン・アブソリュートが樟脳とレモン油を混ぜたようなアロマティックな清涼感を、コリアンダーシードが鼻に抜けるようなオレンジニュアンスのスパイシー感を重ねます。

<ラスト> レザー(革)のスモーキーなアニマル感があふれ出し、ケファリス、ベランブレ、ボアシリス、セレノリド(いずれもジボダン社のオリジナル香料)が奏でるウッディー&ムスキーな香りが、独特の落ち着いた色気を醸し出す。そして、シンガポール・パチョリがほのかなハーバル感を、メキシカン・クエラモ(アイアンウッド)とフローレンス・オリス・アブソリュートが大地の香りの淡いパウダリー感を添えます。


*爽やかなオレンジ&ハーブの香りが、スパイシーな生姜&ホワイトフローラルへと高まり、ふんわりと、甘いウッディー&レザーに落ち着きます。


中性的な繊細さと男性的な色気を併せ持った、ホットで複雑な香り。
全体を包む優しい甘さや、ほど良いパウダリー感、アニマリックなレザーの香りが、とてもセクシーです。

シトラスがメインですが、トップはハーブやフルーティー感、更にそこからなだれ込むようにフローラルな要素が効いてくるため、ストレートに「オレンジやレモンの香り」というよりは、苦みや酸味は抑え目な「マイルドな柑橘系の香りの香水」といった雰囲気。

スパイシーな香りが好きな方、難解な香りに挑みたい方に最適な、女性うけ抜群のシトラス香水です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム・ナイトタイム

モスキーノ ファニー


『モスキーノ ファニー』
* Moschino Moschino Funny! *
香調:フローラル・フルーティー <レディース>

甘くてフレッシュ。
緑茶が香る、気分を上げてくれる一本です。

2007年発表 * 調香師 Antoine Maisondieu

<トップ> ビターオレンジをギュッと絞ったような、アロマティックで酸っぱい香りが強烈に広がり、ピンクペッパー(ポワブルロゼ)が薔薇ニュアンスの明るい華やかさを、レッド・カラントがフルーティーな甘酸っぱ感を添えます。

<ミドル> グリーンティー(緑茶)のソフトであっさりとしたグリーン感を中心に、ジャスミンとピオニーがフレッシュで清らかな華やかさを、ヴァイオレット(ニオイアヤメ)が淡いパウダリー感を重ねます。

<ラスト> シダーウッドのエネルギッシュで爽やかなウッディー感に、ムスクとアンバーが温かみのある優しい甘さを絡めます。


*ロージーで甘酸っぱいビターオレンジがパーンと弾け、その奥から遠慮がちに緑茶が顔を出し、さらに遠慮がちに甘めウッディーが現れます。


ビターオレンジの酸味や勢いを効果的に爆発させた、美味しそうな香り。
時間がたつにつれ、グリーン感やウッディー感がほんのりと顔を出し、全体の印象を和らげ、落ち着けていくのですが、ほぼラストまで「オレンジ!オレンジ!楽しいオレンジ!」と歌わんばかりのシトラス感が居座り続けます。

落ち込んでいるときにシュッと一吹きすると、モスキーノのサイケデリックな服着たオレンジの妖精さんが現れて、「ほらほら、元気出しなさいよ!」とビンタをかました後、「もーう、しょうがないなぁ!」とハグしてくれる、まさに「Funny!」な香水です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏 / デイタイム

ペリーエリス ナイト


『ペリーエリス ナイト』
* Perry Ellis Night *
香調:シプレ <メンズ>

シャープで清らか。
凛としたシトラスと、ダークな木や苔の香りがマッチした、静かな香りです。

2010年発表

<トップ> ブラッド・オレンジのジューシーで甘酸っぱい、深みのある香りがあふれ出し、ポメロがすっきりとした明るい柑橘ニュアンスを、シトラス・リーブス(柑橘系の葉)がソフトで淡いグリーン感を絡めます。

<ミドル> ユズ(柚子)のシャープな酸味とビターな果汁感が爽やかに広がり、シダーウッドが甘さとスパイシーさを併せ持った落ち着いた木の香りを、ゼラニウムがほのかなフローラルトーンを重ねます。

<ラスト> アンバーウッドとモス(苔)が暗く静かな森の気配を漂わせ、ブラック・ムスクが柔らかな甘さとパウダリー感で全体に深みを与えます。


*落ち着いたブラッド・オレンジの香りが、苦みとスパイシーさをまとった柚子&シダーへと深まり、ゆっくりと夜が更ける様に、静かで甘い森の香りに溶けていきます。


粋なシトラスと品の良いシプレが奏でる、ユニークで男前な香り。

シプレといっても重すぎず、暗すぎず、現代的で都会的。
ブラッドオレンジと柚子の、他のシトラス系よりも甘酸っぱさや苦みのたったシャープな香りと相まって、とても深みや雰囲気があります。

オフィスやフォーマルにも合うシックな表情なのに、どんな気分やテンションの日でも、付けていてとても心地の良い、肩肘の張らない香りなので、「俺の相棒的な香水」を探す方におすすめ。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム・ナイトタイム

ディプティック オーデサンス


『ディプティック オーデサンス』
* Diptyque Eau des Sens *
香調:シトラス・アロマティック <ユニセックス>

ハーバルで華やか。
癒し効果抜群の、澄みきった香りです。

2016年発表 * 調香師 Olivier Pescheux

<トップ> オレンジブロッサムのフレッシュで清らかな花の香に包まれて、ビターオレンジ(ダイダイ)がキリリとした、明るい苦みと酸味を広げます。

<ミドル> ジュニパーベリー(お酒のジンの香りづけに使用される、ウッディー調のハーブ)のシャープで快活な香りが、トップからのシトラス&フローラルに躍動感を与えるように、スラッと立ち上がります。

<ラスト> アンジェリカの大地を感じさせる力強くスパイシーなハーブの香りに、パチュリがオリエンタルでスパイシーなグリーン感を重ねます。


*明るいオレンジブロッサム&ビターオレンジが、ジュニパーベリーのスッキリ感と不思議なハーモニーを奏で、まろみを帯びながら、スパイシーなアンジェリカに溶けていきます。


シトラス・フローラル・ハーブの3つの要素を一本で堪能できる、香りの変化が素敵な香水。

ユニセックスですが、トップのオレンジブロッサムが華やか&甘めに香るため、真夏は男性には重そう。また、ミドル以降はスッキリとしたハーバル調ですが、香り方はとてもマイルドな癒し系です。

香り自体の美しさもさることながら、ただ目を閉じて、肌にまとったときの心地よさや解放感、輝きを感じてみて欲しい、体感型のフレグランスです。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

シャネル ココマドモアゼル


『シャネル ココ マドモアゼル』
* Chanel Coco Mademoiselle *
香調:フレッシュ・オリエンタル <レディース>

優雅でセンシュアル。
パチョリやローズと香る、甘く爽やかな香りです。

2001年発表 * 調香師 Jacques Polge

<トップ> シチリア産オレンジとマンダリンの甘く瑞々しい香りがあふれ出し、カラブリア産ベルガモットが品のある優しい苦みと酸味を、オレンジブロッサムがクリーンなフレッシュ感を絡めます。

<ミドル> ターキッシュ・ローズ(トルコローズ)の紅茶ニュアンスの爽やかな香りがゆったりと広がり、ジャスミンがすっきりとした明るいグリーン感を、イランイランが濃密でセンシュアルな華やかさを、ミモザがバニラとナッツを混ぜたような芳ばしい甘みを絡めます。

<ラスト> インドネシア産パチョリのオリエンタル感あふれるスパイシーなハーブの香りがスカッと広がり、レユニオン産バニラが華やかで明るい甘さを、ホワイトムスクがピュアで官能的なパウダリー感を、トンカビーンが杏仁や桃の葉を混ぜたような繊細な芳ばしさを絡める。そこに、ハイチ産ベチバーがスモーキーで静かなウッディー感を、オポポナックス(スウィートミルラ)がエキゾチックで甘い樹脂の深みを重ねます。


*優雅でフレッシュなオレンジの香りが、センシュアルなローズ&ジャスミンへと華やぎ、明るさを保ったまま、異国情緒あふれる甘いバニラ&パチョリへと落ち着きます。


誰でも一度は憧れたことがある、綺麗なお姉さん。
優しい笑顔や、サラサラの髪、ふわっとした白い肌に、桃色の唇。

黒曜石のような瞳は絶えず輝くのに、ふとした瞬間によぎる寂し気な笑みが淡い影となって、どこか儚げな、守ってあげたくなるような雰囲気をつくる。

しっかり者で凛とした女性だけれど、強すぎない。
ぽかぽかとした陽だまりのように優しく癒してくれるのに、女神めいた健全なセクシーさを兼ね備えている。



――そんな理想のフェミニン像を描き出す、美しい香り。

トップ、ミドル、ラストの変化がはっきりしていて、それぞれオレンジ、ローズ、パチョリを強く感じられます。

さらに、どの瞬間にも素材の持ち味がとても活きており、複雑さや深みを感じさせつつも、浮き上がるような個々の素材の表情に、全体として透明感、明瞭さがもたらす心地よさを感じることができます。(香りが団子状態になっておらず、炒飯に例えるならば「完璧なパラパラご飯と具材を、卵がまろやかにまとめている」といった印象です)

甘いといえば甘いのですが、シトラスのもたらす苦みや酸味、パチョリのスパイシー感やグリーン感が派手に重なるため、蒸し暑い夏でも、気持ちよくまとえます。

フェミニンな華やかさや、強かな表情のハーバル感、癒しと爽やかさを印象づける柑橘感。
そんな異なる表情全てを支える、シャネルらしい官能的な甘さが常に利いた、一流ブランドならではの奥深い香りです。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

フローラ バイ グッチ ガーデン グロリアス マンダリン


『グッチ フローラ バイ グッチ ガーデン グロリアス マンダリン』
* Gucci Flora by Gucci Glorious Mandarin *
香調:フローラル・フルーティー <レディース>

陽気でフレッシュ。
ピニャコラーダと踊る、華やかなマンダリン香水です。

2012年発表

<トップ> マンダリン・オレンジのジューシーでまろやかなシトラス感がふんわりと広がり、ピオニーが石鹸めいたフレッシュな華やかさを絡めます。

<ミドル> ピニャコラーダ(ラム酒をベースに、パイナップルジュースとココナッツミルクを混ぜたカクテル)をイメージした、ミルキーな甘さをパートーナーに従えたトロピカルなフルーティー感がクルクルと踊り出し、ジャスミンがスポットライトを当てる様に、スッキリとした明るいグリーン感を重ねます。

<ラスト> ホワイト・ムスクの清潔感あふれるソフトなパウダリー感がゆったり広がり、アンバーが温かみのある豊かな甘さを、クリーミー・ウッディー・アコードが深みのある落ち着いた木のニュアンスを添えます。


*優しいマンダリン&ピオニーが、甘いパイナップル&ジャスミンへと高まり、ふんわりと、リッチなムスクにとろけます。


フルーティーな明るさとフローラルな美人っぽさが融合した、綺麗系の香り。

ミドル以降からは、グッチ香水らしいエレガントなパウダリー感が全体を支えており、高級感があります。

「オレンジ系の元気さが欲しいけれど、爽やかすぎるのは落ち着かない」という方や、「フローラルもフルーツも選べない!どっちも楽しめるものが欲しい」という方に最適。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

]]>
http://kosuijoho.com/orange-perfumes/feed 6 1925
キャシャレル リベルテ「苦い香りは嫌われ者?」童話風香水コラム http://kosuijoho.com/cacharel-liberte http://kosuijoho.com/cacharel-liberte#respond Fri, 31 Mar 2017 10:23:54 +0000 http://kosuijoho.com/?p=1928 甘苦くてスパイシーな、ビターオレンジを基調にした複雑な香り。

トップは新鮮な果物のオレンジ、ミドル以降はジャムのような、コッテリとした甘さに包まれたマーマレードへと変容し、その後はシトラス感を大いに引きずったまま、スパイシーなパチョリとハーモニーを奏でます。

万人におすすめできる香水ではありませんが、ストレスで参っている時や、自信が欲しい時に強力な味方になってくれる、パワフルな作品です。

以下、あんまりにも苦美しいので、メルヘンチックにレビュー。
「ビターオレンジくん」が居場所を探す、匂いを性格と音に反映した文章です。


『キャシャレル リベルテ』
* Cacharel Liberte *
香調:シプレ・フローラル <レディース>

2007年発表 * 調香師 Domitille Bertier, Olivier Polge

トップノート:ビターオレンジ、マンダリン、ベルガモット

「僕はなんて嫌なやつなんだろう。」
ある日、ビターオレンジくんが言いました。

「可愛い小鳥たちが飛んできては、僕と同じ木に生る大きくて橙色の兄弟たちをついばむのだけれど、次の瞬間、皆きまってペッペと吐き出し、身震いしながら飛び去っていってしまうんだ。僕は甘くおいしいどころか、喉の渇きひとつ潤せやしない、嫌われもののオレンジに違いない。」

ポタポタ、ボタボタとビターオレンジくんが涙をこぼしはじめると、あたりいっぱいに、苦くて渋い、イガイガした柑橘の香りが広がります。 ちょうど地上を通りかかったテントウムシくんは、「ぎゃあ!」と叫んで草の陰へと逃げ込み、ヒラヒラ舞っていた蝶々さんは、見たこともない早さで丘の上へと飛んでいってしまいました。

それを見ていよいよ悲しくなったビターオレンジくんは、わんわんと声を上げて泣き、涙を流す分だけ濃縮された体は、もはや同種のビターオレンジ一族も驚くほどの苦みを蓄えていきます。

見かねた隣の木のマンダリンオレンジちゃんが、甘くて瑞々しい、サテンのように滑らかな声をかけます。
「何いってるのよ。甘いだけの果実がどんなめに合うか、知っているでしょう?私の姉妹たちは、ほとんど鳥やリスに食べられてしまって……。おちおち熟してもいられないわ。」

ビターオレンジくんは、スン、と鼻をすすって、マンダリンオレンジちゃんの木を眺めます。ほんの2週間ほど前から色づき始めた甘い果実たちは、日増しに動物たちの興味をひきつけ、今ではすっかり青々とした葉ばかりが揺れています。
少し気の毒になって返す言葉を探すのですが、ちょうどマンダリン一家の木に登ってきたシマリスさんが美味しそうに果実を頬張るのを見ると、羨ましくなって、何もいえなくなってしまいました。

傾きかけた太陽の、柔らかな赤い光に包まれたシマリスさんとマンダリンちゃんは、まさに生命の輝きに満ち、その力強さと刹那的な欲の充足でもってビターオレンジくんを圧倒し、深い渇望をその胸の内にくすぶらせるのです。

「どうして君は甘くて、どうして僕は苦いのだろう。」
ぽつんと言うと、ビターオレンジくんはそよそよ枝を揺らして、マンダリンオレンジちゃんのほっぺにそっと、いつの間にか日課になっていた、鈍いキスをしました。こうして苦いエキスをつけておくと、マンダリンオレンジちゃんは鳥野郎どもにつつかれません。

そして、ひと際大きく体を揺らすと、プツッと枝から離れ、空に放物線を描いて飛び出していきました。

ミドルノート:オレンジウォーター、シュガー、フランジパニ、ホワイトフラワー

ころころ、ころころ転がり続けて、太陽と月が何度か入れ替わったころ、ビターオレンジくんは不思議な光景に出逢います。それは小さなアリの行列なのですが、皆、背中に何かキラキラ光るものを背負っているのです。
「なんて綺麗なんだろう!」
見たこともない透明な結晶に興奮して、ビターオレンジくんはその行列が始まる場所へと、ゴロロン、ゴロン、進路をとります。

木から離れて数日、雨風にさらされ多少まろくなったとはいえ、まだまだ苦い香りをまき散らす巨大な物体――そんなシトラスの怪物風情が前方からやって来て、デコボコした地面を飛び跳ねながらすぐ隣を転がっていくのに、危うく轢き潰されそうになったアリたちは、
「ぎゃあ!危ないなあ!」
「なんだなんだ?!」
と口々に叫び、綺麗な結晶――人間の言葉でお砂糖――を放り出して、散り散りに逃げ出して行きます。
そして、いったん崩れてしまった列は、ドミノ倒しのようにその「危険情報」を伝播していき、やがてアリっこ一匹いなくなった跡には、真っ直ぐに伸びた砂糖の道だけが残りました。

あっという間の出来事に、ビターオレンジくんは驚きと申し訳なさでいっぱいになりますが、現れたキラキラ光る道への好奇心には勝てません。静かなワクワク感と物悲しさに包まれて、ひとりぼっちで道の真ん中を転がっていきます。

コロコロ、ザラザラ、キラキラ……、橙色の体がしだいに透明な結晶に覆われ、太陽の光を反射して、ミラーボールのように輝きだしました。ほんのり甘い香りまで立ち昇りだし、ビターオレンジくんは段々良い気分になってきます。

「僕はなぜ自分が苦いことに理由なんか求めていたんだろう?この魔法の結晶で着飾れば解決じゃないか!」

すっかり浮かれてギラギラしながらそう言い放つと、開放的な気分で速度を上げて、光る道の最終地点、角砂糖の山を蹴散らしました。キラキラ飛び散る砂糖の粒を眺めるその瞳は、どこか傲慢で、どこかピュアです。

「そうだ、ずっと憧れていた、ホワイトフラワーの園へ行ってみよう。」
ふと思いついたのは、いつも頭上を飛んでいく蝶たちが、まるでこの世の楽園だと噂していた場所です。悩みを忘れたビターオレンジくんは、好奇心で胸をいっぱいに膨らませ、庭園へと続く小径を転がっていきます。

コロコロ、ゴロロロ、ゴロンゴロン。
どこまでも続くような長い道程も、希望を持てばこそ無心で挑め、やがてたどり着いた庭園の入り口から望む鮮やかな草木の色に、ビターオレンジくんは誇らしいような、切ないような気持ちをかきたてられます。

緩やかな坂道を下っていくと、辺りの空気に甘い蜜の香りが混ざり出しました。サラサラと揺れる芝の向こうには白や黄色の花々が揺れ、鈴を転がすような飴色の笑い声も聞こえてきます。

俄然勢いを増し、平らな芝生も突っ切って、堂々と庭園を転がっていくビターオレンジくんに、ガーデニアさんやオレンジブロッサムさん、ジャスミン姉さんが、次々と声をかけます。

「あら、珍しいお客さんだこと」
「なぜキラキラ光っているのかしら?」
「逞しいボディーねえ」

草をかきわけ花咲く木の下、ぐるぐると彼女たちの間を転がりながら、ビターオレンジくんは「やあやあ」と挨拶し、生まれて初めてみる美しい花々に見とれました。ボディービルダーのようにピカピカ輝く体をアピールすると、キャッキャと笑って甘い蜜の香りを振りまく彼女たちに、いよいよご機嫌です。そこへ――

「この苦い香りは何です?」

太陽とのおしゃべりを終えたフランジパニ姉さんが、はしゃぐホワイトフラワー達にピシャリと低い、ハスキーな声をかけました。
ぴたりと止んだ笑い声の中、すっかり甘い結晶につつまれて「苦い」を忘れていたビターオレンジくんは、ちょっとムッとしながら、ちょっと不安もまざりながら、声のした方へと転がり出ます。

低木とはいえビターオレンジくんの遥か頭上にもっさりと広がる枝葉の先、パキッと針金でも入ったような、なんとも迫力満点に5枚の手足を広げた花が、じっとビターオレンジくんを見下ろしています。根が小心者のビターオレンジくんの心臓はキュッと悲鳴を上げ、太陽の熱で溶けだした砂糖の結晶が、タラタラと橙色の額を伝います。

「お邪魔しています。僕は丘の向こうの果樹園から来た、ビターオレンジです。……あなた方の蜜の香や姿を噂に聞いており、ずっと、皆に愛されるその匂いに触れてみたいと、憧れていたのですが……。……僕の苦い匂いは、お嫌いですか?」

真っ白い花弁の中心に鮮やかな黄色を滲ませた、一見ツンとした空気を醸し出すフランジパニ姉さんは、風に揺られてユラユラ、ふむふむ、焼き過ぎたオレンジタルトじみたしょげた言葉を聞き終えると、どこか飄々とした、朗らかな調子で音を紡ぎます。

「苦い匂いは嫌いではないわ。それに、よく注意して嗅いでごらんなさい。どんな花も果実も、ただ甘いだけ、ただ苦いだけのものなんてないのよ。色んな香りの要素が合わさって、一つの個体の匂いが出来上がっているの。――その中から一つの特徴を取り出して好き嫌いで語ろうなんて、ちょっと短絡的すぎやしないかしら?」

「みんな苦いといって、僕から逃げていってしまうのです。」

「そうねえ。でも、“みんな”って、果たして本当に“みんな”なのかしら?――あのね、あなたがそんなにも苦いのは、あなたの種が生き延びるための賢い選択の結果なのよ。若いあなたにはまだ悪い面しか見えていないかもしれないけれど、いずれ、その価値や理由を見い出せるようになるわ。」

淀みなくもっともらしい言葉を畳みかけられると、なんだか言いくるめられているような気がして、本当かなあ、と、ビターオレンジくんはあれこれ考えます。そして、隣の木のマンダリンオレンジちゃんを苦いエキスで守ってあげていたことに思い当たり、自分の苦い香りを誇らしく感じていた瞬間があったことに、はじめて気づきました。

「僕の苦い体は、きっと良い虫よけになって、あなたたちを守ることができます。」
長年自己否定が染みついたビターオレンジくんは、どうにも安易に身を投げ出し、そこに一時の安らぎを見い出したがります。フランジパニ姉さんは、そんな心を傷つけやしないか心配しながら、ゆっくりと首を横に振ります。

「私たちは虫媒花といってね、蜂や蝶に蜜を与える代わりに花粉を運んでもらって、子孫を残しているの。だから、私たちにとって、虫は悪い存在ではないのよ。それに、あなたはその苦みで外敵と戦うだけでなく、もっと必要とされ、調和できる存在であるということを、知らなければいけないわ。」

ビターオレンジくんは、しばしポカンとフランジパニ姉さんを見つめ、それからちょっと寂しそうに、コロン、と一つ頷きました。

外からは窺い知れないそれぞれの生きる世界があることも、短絡的に居場所を求めた自分の浅はかさも、まだ見えぬ旅の終わりも、花たちの優しさも――、どれもが砂糖の結晶でできた鎧を突き抜けてチクチクと胸を刺すのだけれど、同時に、ただ痛むだけのはずの胸が発する温かな疼きに、体の芯がちょっとだけ甘くなるような、不思議な心地に包まれます。再び転がり始めると、棘は、勇気に変わります。

庭園の入り口で振り返ると、眩しい日差しの中、花々と蝶が戯れています。良く見ると、蝶は蜜の多い花を探して次から次へと懸命に飛び回り、花はできるだけ多くの蝶に花粉を付けようと、綺麗な花弁を妖しく揺らしています。

見た目の儚さを凌駕する、強かな生き方に裏付けられた、気高く甘い蜜の香りを――それまで単に「みんなが喜ぶ花の香り」としか知らずにいた匂いのディテールを記憶に刻み込むと、ビターオレンジくんは暗い小径を進みます。

ラスト:パチョリ、ベチバー、バニラ

ざわざわと葉擦れの音だけが響く、荒れた道を転がり続けて三日三晩。小川も丘もいくつも越え、雨にも風にも動じなくなった頃。
暗いばかりだった森の景色に、少しづつ日が差し込みはじめ、やがて心地よい風が吹く草原へとたどり着きました。湿った森の土の匂いをまとったビターオレンジくんは、じんわりと滲む苦みに鈍く低いウッディー感が絡み、すっかり落ち着いた表情を浮かべています。

これからどうしようか。
半ば途方に暮れて佇んでいると、どこからか変わった音が聞こえてきました。
それはこれまで耳にしたことのない、明瞭な輪郭と高さを持った響きの連なりで、音のする方へと近づくにつれ、その独特のリズムや、まるで言葉を話しているかのような抑揚が、耳にする者の注意をひきます。

ギコーギコー、ポロロン。
ギィーポロギィーギィー。

はじめは順調だったその掛け合いは、だんだんと激しくなってきて、ついには怒声が混じり始めます。

「なんなんだ、そのスタッカートは!雑音混じり過ぎ、あたり強すぎ、発音のタイミングがまるで喧嘩売ってきてるみたいだ!」
「そっちこそ、その地獄の鐘のような和音はなんなの!力づくで低音響かせて自己満足に浸ってないで、ちゃんと粒揃えなさいよ!」
「なんだと!せっかくお前のスッカスカのバイオリンの音を拾ってやろうと、こっちは気を使ってタッチしてるってのに、弓使いまくって返す度に雑音混ぜられたんじゃ、揃う粒もずっこけるわ!」
「なんとまあ傲慢だこと!人の音にケチ付ける前に、まず自分のコントロールの悪さを自覚しなさいよ!あんたが弾くとまるで全部ラフマニノフじゃない!耳に雪でも詰まっているの?!」

バイオリンを持ったまま殴りかかろうとした緑の草――パチョリさんを、ビターオレンジくんはとっさに止めに入ります。
「そんなので殴ったら壊れちゃいますよ!せっかく綺麗な音がしていたのに、何が不満なんです?!」

「音の問題じゃなくて、音楽の問題よ!不満だらけだわ!」
「こっちこそ、お前の伴奏なんかもう懲り懲りだ!」

フン、とそっぽを向いたピアニスト――バニラくんは、そこでやっとビターオレンジくんの存在に気づき、パチパチと瞬きし、気まずそうに視線をそらします。パチョリさんも同様に気づくと、振り上げたバイオリンを下して、ジロリ、と2人を睨みます。

「こいつがチェロ追い出したから悪いのよ。難癖付けて、すぐにそのゴツくて甘ったるい音を目立たせたがるのよ。」
「お前の耳に刺さるようなキーキー音に比べたら、この世の音はみんなバタークリームケーキだろうよ。」
「なんですって、このナルシスト野郎!」
「そっちこそなんだよ、お姫様はとっととユニコーンにでも乗って夢の国へ帰れよ!」

口の悪い二人の楽器奏者を前に、険悪な空気に耐性のないビターオレンジくんは、オロオロと口をはさみます。
「分からないなあ、僕は音楽なんてもの生まれて初めて耳にしましたが、あなた達の息はぴったりでしたよ?」

「それは俺が合わせてやってるからだ」
「ほらまた始まった。悪いのは私?あんたはアポロン?」
「セイレーンのように他人を海に沈めるお前よりかは、いくらかアポロンに近いだろうな。」
「いつ私が人を沈めたっていうのよ!弦いびりして追い出すのはあんたの方でしょ!」
「指揮者気取りでボンボン鳴らすやつばっかり連れてくるからだろ!」
「じゃあ今度はあんたが探してきなさいよ!」

バニラくんはフン、と鼻で笑って、おもむろに小型無線機を取り出すと、次々とチャンネルを合わせて「チェリスト必要なんだけど」とオファーします。
ですが……、次々と断られていきます。
「ほらね」と意地悪そうな笑みを浮かべるパチョリさんを一瞥すると、のっそりと立ち上がり、ピアノの下から大きなチェロケースを取り出しました。そして戸惑った表情を浮かべるビターオレンジくんをジロジロと眺めた後、

「……………よし、お前やってみろよ。」
「なにを?」
「チェロだよ。パチョリさんが親切に教えてくれるから、そーっと弾くんだぞ。」
「ほんっとに無責任ね。自分好みのチェリストが欲しいなら、自分で教えなさいよ。」

意外と素直なバニラくんは、ムスッとしつつもパカッとチェロケースを開けると、ビターオレンジくんを椅子に座らせ、その手にチェロと弓を持たせます。
「……………よし、弦楽器ってのは、この木に張ってある4本の羊の腸を、この馬の尻尾でこするんだ。」
「……?」
「ガット弦っていうんだよ。あいつら羊は草しか食わないから、少ない栄養を取り出すために、腸が長いんだ。文句言うんじゃねえよ。」
「……ちょう?蝶?腸?それ何ですか?」
「腸だよ、腸!腹の中に入っているやつ!」

「あんたたち、楽器弾く気あるの?」
パチョリさんがしょうがないなあと言わんばかりに横から手を伸ばし、ポンポンポンと右手の指で弦をはじきながら、左手で素早く調弦をします。
「左手は指を立ててギュッと抑えて、右手はふんわりと弓を弦に当てるのよ」
そう言ってビターオレンジくんの手ごと弓に手を添えて、滑らせるように軽く引くと、ボォーッ、と、大きな音が響きます。

木を通してダイレクトに皮膚に伝わる振動に、弓から伝わる、波打つような音の感触――。
初めて触れる楽器に感動して、ビターオレンジくんは、すぐにチェロの虜になりました。

来る日も来る日も練習に明け暮れ、ときにバニラくんに皮肉を言われ、ときに……否、しょっちゅうパチョリさんに罵倒されながらも、しだいに3人の呼吸は揃いはじめ、ビターオレンジくんは合奏の楽しさも覚え始めました。
はじめは喧嘩の絶えなかったバニラくんとパチョリさんも、協力してビターオレンジくんに弾き方を教えるうちに、互いを認め合い、尊重するようになりました。

鋭く切り込むような、シャープに研ぎ澄まされたバイオリンの音とそっとハーモニーを奏でる、酸いも甘いも噛み分けたような、鈍く暗いチェロの響き。それらを包み込む、神々しいほど厳粛な、鐘の音に似たピアノ――。

単独では得られない、表情の異なる複雑な音の重なりの中に、ビターオレンジくんは自分の苦い音の居場所を見い出すようになりました。
それは衝突しがちなバイオリンの高音フラットとピアノの二度音程のつくる、ほんのり歪な不協和音の波の中であったり。どこか走りがちなバイオリンのパッセージを受け止めようとする、甘く分厚いピアノの傍であったり。はたまたストイックさがたまに鼻につくピアノの正確な音階のうねりに寄り添う、爆発するような弦の響きのど真ん中であったり……。

そして時に、哀愁漂う漂うチェロの音に、ピアノが煌きを、バイオリンが優しさと切なさを絡めたり、またある時には、力強さと誇りに満ちたチェロの深い和音の響きに、甘えるように触れるピアノのトレモロと、気高さでぶつかるバイオリンを一緒くた、ハグするように受け止める瞬間―――、音色それぞれが干渉しあう様々な響きの中に、万物の価値を見い出すのでした。

「おい、130小節目の頭、裏拍ったってもうちょっとあたり弱くしろよ。俺の和音がまぬけに聞こえる。」
と、バニラくんが言うと、
「3弦鳴らすんだから、これで精一杯よ。チェロに響きを助けてもらったら?」
と、パチョリさんが話をふり、
「じゃあその最低音のオクターブ上をピアニシモで鳴らして、ビブラートで表情をつけるよ。」
と、ビターオレンジくんが請け負います。

苦い匂いも苦い音も、甘さや辛さと出逢ってぶつかってみると、その性質はそのままに新たなハーモニーが生まれること。
弱点や悪いところだと思っていることも、個性として生かさなければいけないこと、さらには、強みにしていかなければいけないこと。
そして何より、互いを補い、高め合うことの素晴らしさを学んだビターオレンジくんは、もう以前のように自分を否定することも、憐れむこともなくなりました。

好き嫌いでなく意義と居場所を見い出すようになった世界にあふれる、優しい希望の光の中で、ビターオレンジくんは、いつまでも幸せに暮らしました。

おしまい。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/cacharel-liberte/feed 0 1928
万人受けするローズ香水って?(フルーティ&グリーン系8選) http://kosuijoho.com/fruity-green-rose-fragrances http://kosuijoho.com/fruity-green-rose-fragrances#comments Tue, 07 Feb 2017 14:44:17 +0000 http://kosuijoho.com/?p=1862 「ローズ」とひとくちに言っても、その表情は様々。
どれを選べばよいのか分からない/迷ってしまった、という方に、この記事はおすすめ。

漠然と「バラの香り」を探す方のイメージに合いやすい、「親しみやすさ」を重視してセレクトした、優しいローズ香水をご紹介します。

クロエやポールスミス等、人気の香りをはじめとする、瑞々しいフルーツや爽やかなグリーンが効いた、柔らかい印象の作品を8つ。

ローズの魅力をそつなく生かした、万人受けしやすい香り達です。

クロエ ローズ ド クロエ(清楚系)


『クロエ ローズ ド クロエ』
* Chloe Roses De Chloe *
香調:フローラル <レディース>

エアリーな石鹸系。
愛され度ナンバーワンの、優しい香りです。

2013年発表 * 調香師 Michel Almairac

<トップ> ライチの繊細で淡いトロピカル感がゆったりと広がり、ベルガモットがフルーティーで上品なシトラス感を、タラゴンがスッと鼻に抜けるようなハーバルな甘みを絡めます。

<ミドル> ダマスク・ローズの蜂蜜ニュアンスの甘さの混じった、優雅でクラシカルな香りがあふれ出し、マグノリア(木蓮)がふわっと羽衣をかけるようなシフォンの華やかさを、シダーがマイルドな木々の香りで淑やかさを添えます。

<ラスト> ホワイトムスクのピュアで円やかな甘みがふんわりと漂い、アンバーが高貴で温もりのある、甘い樹脂の香りを絡めます。


*すっきりとした明るいライチの香りが、優雅でロマンチックなローズへと高まり、淡く溶けていくように、澄んだムスクへ落ち着きます。


まるで羽が生えているみたい!
マグノリアのフレッシュ感が効いた石鹸系ローズ・ブーケを中心に、明るくジューシーなライチ、クロエ特有のフェミニンなムスクが、フワッとリボンで結ばれたような、モテ度満点の、軽やかでバランスの良い香りです。

日本人好みの優しい香り立ちはもちろん、女らしさと抜け感、透明感が秀逸。
一緒に居たら癒してくれそうな、オトコが幸せにしてあげたくなる「愛されオーラ」を発する香りです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

ポールスミス ローズ(癒し系・緑茶ベース)


『ポールスミス ローズ』
* Paul Smith Rose Paul Smith *
香調:フローラル <レディース>

瑞々しく、柔らかい。
緑茶が香る、明るいグリーン調です。

2007年発表 * 調香師 Antoine Maisondieus

<トップ> ポール・スミス・ローズの瑞々しく立体的な薔薇の香りがあふれ出し、グリーンティー(緑茶)がマイルドですっきりとした青みを絡めます。

<ミドル> ターキッシュ・ローズの紅茶ニュアンスを含んだ爽やかなフローラル感が広がり、マグノリア(木蓮)が品のあるフレッシュな甘さを、バイオレット(ニオイスミレ)がソフトな大地の香りを添えます。

<ラスト> トンカビーンのバニラに杏仁を加えたような繊細な甘さが漂い、シダーが穏やかなウッディー感(木の香り)で深みを出します。


*グリーン調の明るいバラの香りが、ゆっくりと花開くように甘みとフローラル感を強め、フワリと淡いトンカビーンに落ち着きます。


イメージは、朝露に濡れた、薄明のローズガーデン。

『咲き誇るどの薔薇も、まるで水晶の粒を散らしたかのよう。花びら一枚一枚が、光を食べた無数の水の球できらめいて、辺りを包むまだ青みがかった世界に色を付けるよう、甘い、薄紅色の蜜の香を放つ―――。』

そんな、触れれば零れてしまう一瞬の輝きを、ひっそりと呼吸する周囲の植物の気配と共に閉じ込めた、透明感あふれる香り。

グリーン調といってもグリーンティー(緑茶)を基調としているため、青臭さはなく、どこかエアリーで芳ばしいような、心地よい青さ・爽やかさを楽しめます。

また、マグノリアを中心とする癖のないフローラルブーケも適度に効いており、ラストも軽め。
全体を通して、しっかりと「ローズ」を感じられるのに派手すぎない、柔らかいトーンに仕上がっています。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

フェラガモ シニョリーナ オードトワレ(微グルマン調)


『フェラガモ シニョリーナ オードトワレ』
* Salvatore Ferragamo Signorina Eau de Toilette *
香調:フローラル・フルーティー <レディース>

ほんのり愛らしい。
肌の匂いに溶け込む、優しいミルク&ローズです。

2012年発表 * 調香師 Sophie Labbe, Juliette Karagueuzoglou

<トップ> ライチの淡いトロピカル感がジューシーに広がり、グレープフルーツがすっきりとした、上品な苦みと酸味を絡めます。

<ミドル> ライス・スチーム・エアリアル・ノート(炊き上げたご飯の香り)に包まれて、フルーティーで甘いローズが、そっと顔をのぞかせます。

<ラスト> ミルク・ムースのクリーミーで淡いグルマン・スウィート(お菓子のような、甘く美味しい香り)が漂い、カシュメランがウッディーニュアンスの混じった、しっとりとしたモダン・ムスク感を絡めます。


*瑞々しいライチの香りが、まろやかなローズへと華やぎ、ふわっと溶けていくように、クリーミーなソフト・グルマンに落ち着きます。


「肌につけて、体臭となじませる」という香水独自の魅力が、最大限に活きている作品。
お風呂上りにローズ&バニラ系のボディ・クリームをつけて、2・3時間たった後の肌の残り香のような、驚くほどまろやかな香りです。

ミドルの「ライス」の香りは、日本米のようなモワッとした甘く芳ばしい香りではなく、バスマティライスのような、うどんとビーフン(orフォー)を3対7で混ぜて塩茹でしたような、淡白な澱粉の香り。

グリーンやレモニーなニュアンスが抜けて、フルーティー・フローラルの要素と甘みだけが残ったような、ソフトな「ローズ」の香りを絶妙に包み込んで、肌なじみの良い、ナチュラルでフェミニンな表情を作り上げています。

また、バニラというほどの主張はない、曖昧でミルキーなグルマン感が早くから香りだすので、「フルーティーなローズ」を軸にしつつも、「スウィートで美味しい雰囲気」が全体の印象をホンワリ和らげており、とても可愛いです。(甘さ自体は、控えめであっさり&癖のないトーンです)

「香水よりボディ・クリーム派」という方の、忙しい朝やホッとしたい時にもピッタリな、即効・速乾で「肌をお手入れした後の幸福な余韻」をよみがえらせてくれる、リフレッシュ・アイテムとしても優秀な一本です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏 / デイタイム

エスペシャリー エスカーダ エリクシール(セクシー系)


『エスカーダ エスペシャリー エスカーダ エリクシール』
* Escada Especially Escada Elixir *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

大胆でグラマラス。
洋梨とプラムが香る、セクシーな香りです。

2012年発表 * 調香師 Jean-Michel Duriez

<トップ> ペアー(西洋ナシ)の洗練された、ほんのりグリーンな林檎ニュアンスの香りに、グレープフルーツがクリアな苦みと酸味を、アンブレット・シード(ムスクマロウ)がシャラッとした明るいムスキー感を絡めます。

<ミドル> ターキッシュ・ローズ・アブソリュートの紅茶ニュアンスの爽やかで芳ばしい薔薇の香りがあふれ出し、フレッシュ・プラム(西洋スモモ)を中心とするフルーティーノートが瑞々しくソフトな甘酸っぱさを、イランイランがエキゾチックで官能的なフローラル感を絡めます。

<ラスト> ホワイト・ムスクとカシミア・ウッド(カシュメラン/合成香料)のしっとりとした深みのある甘い香りが漂い、パチョリがスパイシーなハーバル感で艶を出す。そこに、アンバーがセンシュアルな温もりを、マダガスカル産バニラがまったりとした澄んだ甘さを添えます。


*シトラスニュアンスの明るい西洋梨が、爽やかで甘酸っぱいローズ&プラムへと高まり、ゆっくりと、セクシーなムスキーノートに落ち着きます。


「今が旬よ!」と叫び出しそうなくらい、豊満で、エネルギッシュ。
艶感たっぷりの、エキゾチックなローズ香水です。

エスカーダお得意のキュートな甘酸っぱさを、そのまま大人向けに熟成させたような、まろやかで落ち着いたフルーティー感。
時代を上手くとらえた、ライトでさり気ないムスキーノート。

エスカーダ香水ファンなら誰しも覚えがあるであろう、あの「問答無用でテンションの上がるガーリー感」を、グッとセクシーに、グッと大人っぽくした、すごく「イイ女」な香りです。

(注:そのため、限定シリーズの雰囲気と比較すると、確かに系統自体は同じですが、あの独特のギャル感はないので、限定シリーズと同じノリを期待してはいけません。逆に言うと、年齢的に限定シリーズを卒業したエスカーダ香水ファンには、とてもおすすめ。)

グラマラスな雰囲気を持った香りなので、つけるシチュエーションは選びますが、この系統の香りの中でも意外なほど甘さ控えめで、使いやすさ満点。
男性ウケも抜群です。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ディプティック ロンブルダンロー(芸術系)


『ディプティック ロンブル ダン ロー』
* Diptyque L’Ombre Dans L’Eau *
香調:フローラル <レディース>

グリーンで瑞々しい。
カシスの葉が独特の表情を添えた、芸術的な香りです。

1983年発表 * 調香師 Serge Kalouguine

<トップ> ブラックカラント・リーフ(カシスの葉)が、ほんのりスパイシーで甘酸っぱい、ベリーニュアンスをまとったグリーン感を広げます。

<ミドル> ブルガリアン・ローズの艶やかでフルーティーな香りが、ゆったりと立ち上がります。

<ラスト> アンバーを中心としたオリエンタルで高貴な甘みが、肌の上に柔らかく残ります。


*カシスの鮮やかなグリーン感の中から、ゆっくりと、フルーティーなローズが浮かび上がり、透明感を保ったまま、アンバーの優しい甘さに溶けていきます。


陽の光が眩しく降り注ぐ、午後の薔薇園。
咲き乱れるどの花も、めいめいに鮮やかな色を発し、漂う蜜の香りは、暖かな空気に満ちる様に、あふれては溶けていく。

水面にはキラキラと光が映り込み、柔らかな風に揺れるその奥、水の中にも、ほのかな明かりが点る。
それは、あたかも其処に花が咲いているかのよう、淡く発光し、波連を編み、ゆらぎの中に一瞬の永遠を描く。

光が、水が、薔薇に恋をし、薔薇の姿を映し、薔薇のフリをする。
その粒子の振る舞いを、人は鏡のようだという。

誰が気にかけるのだろう?
刻々と姿を変え、決して触れることのできない、“水”の見る夢を――。


『L’Ombre=影、Dans L’Eau=水の中』

そんな光と水の作る幻影を気にかけ、その美しさを香りで描いたような、ディプティックのロングセラーを誇る作品です。

カシスの甘酸っぱいフルーティー感をまとった、西洋的なグリーンの香りが全体を覆っていて、そこから時間をかけて、ゆっくりと薔薇の香りが立ち上がってくるトップからミドルにかけての変化が、とても感動的です。

全体の質感はなかなかに涼やかで瑞々しいのだけれど、ウォータリーと表現するには、どこかサラッとしていて繊細。
カシスとその葉のハーモニーは、青さとベリー感を互いに和らげ合っていて、独特の存在感があります。

メインのブルガリアンローズは華美すぎず、爽やかでナチュラル。
バラ香水でネックになるパウダリー感もなく、また、カシス由来のほんのりとしたスパイシー感が、全体の控えめな甘さをよりシャープに、よりスタイリッシュに印象づけています。

自然を丸ごと切り取ったような、グリーン調のローズ香水をイメージする方に、特におすすめ。
香り全体を包む、ほんのりダークな静けさが美しい、芸術的な香りです。

[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ドルチェ&ガッバーナ ローズ ザ ワン(女神系)


『ドルチェ&ガッバーナ ローズ ザ ワン』
* Dolce&Gabbana Rose The One *
香調:フローラル <レディース>

優雅でセンシュアル。
「女神感」抜群の、フルーティーで甘酸っぱい香りです。

2009年発表 * 調香師 Michel Girard

<トップ> ブラックカラント(カシス)のフルーティーな甘酸っぱさがふんわり広がり、ピンクグレープフルーツとマンダリンオレンジが、程よい苦みの混ざった、品のある明るいシトラス感を絡めます。

<ミドル> ブルガリアン・ローズの艶やかでフルーティーな香りがあふれ出し、ライチがジューシーで美味しいトロピカル感を、ピオニーがフレッシュな甘酸っぱさを、リリー・オブ・ザ・ヴァレイ(すずらん)とマドンナリリーがバランスの良い、清潔感あふれるグリーン調の華やかさを添えます。

<ラスト> ムスクとアンブレット・シード(ムスクマロウ/植物由来)のモダンで軽やかな、ソフトなパウダリー感が淡く漂い、バニラが甘美な甘さを、サンダルウッド(白檀)がミルキーでコクのあるウッディーニュアンスを重ねます。


*甘酸っぱいカシス&シトラスが、ジューシーなブルガリアンローズへと高まり、淡いパウダリー感をまといながら、ムスキーなバニラに落ち着きます。


ブラックカラントやピオニー、グレープフルーツが生み出す、健康的な、瑞々しい甘酸っぱさ。
それは、つい気を引きたくなるような、触れてみたくなるような、チリリと男心を焦がす「女らしさ」。

「俺に笑いかけてくれないかな?」なんて自分を見て欲しくなるのは、甘いムスクのせい。
「俺のことどう思ってるのかな?」なんて相手を知りたくなるのは、ロマンチックなローズのせい。

100ほど言い訳並べて、ドキドキしながら誘いたくなる。

それは、胸を締め付けるような、淡い恋心と深い欲望。
その白く清らかな柔肌に触れられるなら、どんなワガママにも応えたくなる――。


そんな、『強い男ほど抗えない女』の魅力を詰め込んだ、センシュアルな香り。

全体を通して、瑞々しさやフルーティーさが効いており、とてもモダン。
ソフトな香り立ちでパウダリー感も程よいので、デートでもオフィスでも、さり気なく女度アップさせたいときに最適です。

また、ラストのバニラが強めに出るところも、明るくてハッピーで素敵。
ブルガリアン・ローズの艶っぽさを支える様に、ホワイトフローラルが適度に健全・清楚な空気を漂わせており、高級薔薇石鹸のような、心地よい清潔感と気品をたたえた印象に仕上がっています。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム・ナイトタイム

武蔵野ワークス ロサブラン(白薔薇をイメージ)


『武蔵野ワークス 和の花 香りシリーズ ロサブラン』
* Musashino Works Floral 4seasons Rose Blanc *
香調:フローラル <ユニセックス>

ピュアでナチュラル。
ホワイトローズ(白薔薇)をイメージした、淡く、たおやかな香りです。

<トップ> ローズ・ブーケの爽やかで繊細な香りがすらっと立ち上がり、イタリア産ベルガモットがアロマティックな苦みと酸味を添えます。

<ミドル> エジプト産ゼラニウムの、バラにレモンを混ぜたような、ハーバルなロージー感があふれ出し、フルーツノートが優しい瑞々しさを絡めます。

<ラスト> ムスクとアイリス(ニオイアヤメ)の淡いパウダリー感がふんわりと広がり、サンダルウッド(白檀)がマイルドで静かな甘さを、モロッコ産アトランティックシダーが心地よい木々の落ち着きを添えます。


*上品で優しいローズの香りが、ハーバル感とフルーティーな甘さをまとって深まり、ほんのりと、甘いムスクが肌に残ります。


ポカポカとした陽の光が差し込む、気持ちの良い午後。
開け放ったベランダから届くのは、乾ききった、真っ白なバスタオルの匂い。

それは、お母さんが気に入りの薔薇の香水を一滴たらした、すこしだけ洒落た、家庭的な洗濯物の香り。
日々を彩る柔らかな愛情が詰まった、懐かしい、幸せな記憶――。


そんな、どこかで嗅いだような、ノスタルジックな香り。

石鹸系の淡いフローラルミックスに、薔薇のオイルをほんの少し加えたような、「気取らないけど、ちょっと贅沢」な控えめな雰囲気と、万人受けする清潔感が魅力です。

また、何ともつかないソフトなフルーティー感がよく効いており、全体的にとても軽め。
ゼラニウムのレモン・ニュアンスも含めると、結構シトラス系の酸味が混ざっており、甘めなムスクと上手くバランスが取れています。

[持続性] ★★☆☆☆ [拡散性] ★☆☆☆
[TPO] 春・夏・秋 / デイタイム

エリーサーブ ル パルファム ローズクチュール(きらきら女子系)


『エリー サーブ ル パルファム ローズ クチュール』
* Elie Saab Le Parfum Rose Couture *
香調:フローラル <レディース>

きらきらしてる!
キャラメルが香る、キャッチーで甘い香水です。

2016年発表 * 調香師 Francis Kurkdjian

<トップ> ローズ・ペタル(薔薇の花びら)の明るくフェミニンな香りに、ピオニーが甘酸っぱさとフレッシュ感を、オレンジブロッサムがクリーンな透明感を絡めます。

<ミドル> ローズ・ブーケのモダンでロマンティックな華やかさが優しく広がり、ジャスミンがすっきりとした淡いグリーン感を、フルーティーノートがまろやかな瑞々しさを、バニラが明るい甘さを重ねます。

<ラスト> パチョリのライトなハーバル感と、キャラメルのクリーミーで洒落たスウィート感がふんわりと漂い、サンダルウッド(白檀)が清らかで甘い、静かなウッディー感でコクを出します。


*石鹸系の淡いローズが、フルーティーな甘さをまとって華やぎ、ふんわりと、美味しそうなスウィート・ノートへ溶けていきます。


スウィート感あふれる、フェミニンなローズ香水。
砂糖の結晶の中に薔薇の花びらを閉じ込めたような、キャンディーのように甘い香りです。

バラを中心に、ピオニーやジャスミン等ホワイトフローラルも効いた、石鹸系の淡いフローラルが軸なので、「ローズの雰囲気は楽しみたいけど、あんまりリアルなのはちょっと…」という方に最適。

また、そこに加わる程よい甘酸っぱさやフルーティー感、パチョリやキャラメルが、ちょうどグルマンとフローラルの間を漂うような、「可愛くて品の良いお嬢さん」な雰囲気を醸し出しており、美麗です。


昨今のグルマン香水の流行から、こういったスウィート&フローラルな香りが多く発表される中で、今回この香りを選んだのは、意外に「本当に使い勝手がいい、いろんな面でバランスが良い」香りは少ないから。

それぞれの香水に、それぞれ異なった魅力やアピールがあり、香り自体を楽しむ分にはどれも素敵でも、いざオフィスやデート等「人にどう思われるか」を過剰に気にするときには、どうしても最大公約数的な、万人受けする要素(=多くの人に嫌われにくい要素)を意識しますよね。

そういった気持ちで香水を選んだときに、私が「現代的なさり気なさ」が秀逸だなあ、と感じたのが、この香水。
(もともとエリーサーブのドレスが好きで、香水ラインにも興味を持ったのですが、ドレスと同様、エリーサーブらしい美的感覚がそのまま香りにも反映されていて、すっかりお気に入りブランドの1つだったりします。)


この「ローズ クチュール」は、オリジナルの「エリーサーブ ル パルファム」のどこかクラシカルな雰囲気とは打って変わった、とてもモダンな香りに仕上がっているのですが、どちらにも共通するのは、「初めてでも違和感がない、既視感(既嗅感?)すら感じる香りなのに、どこか斬新で、決して替えが効かない」ところ。

「まさにオンリーワン」な素晴らしい香りはたくさんあるけれど、こんな「つい必要としてしまう」香りは珍しい。

おそらくはこの香水、ひいてはこの記事にセレクトした香水達には、「ある種の普遍性」が根底に流れているのだと思いますが、それに加えて、「時代を読む力」と、ポピュラー音楽で言うところの「キャッチー」な表現に優れているのだと感じます。

今どきの、と言うとどこか軽々しいですが、自分のスタイルを持ちつつも、同時に時代の空気を楽しんでいるような、生に意欲的な「キャッチー」感。
絶対的な真理も美しいけれど、流動的な社会で生み出されるものに触れて得るそんなエネルギーは、どこか温かく、ふと「日々を生活する」ことの意味を考えてしまうほど、刹那的で、わくわくして、素敵です。

この香水はまだ日本未発売で評価も未知数ですが、もしエリーサーブが本気で日本市場に取り組めば、かなりのヒットが狙えそうな、とてもさり気なく、とてもキャッチーな作品です。

[持続性] ★★☆☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/fruity-green-rose-fragrances/feed 2 1862
甘美な個性派!バニラやプラリネと香るローズ・パフューム8選 http://kosuijoho.com/praline-vanilla-rose-perfumes http://kosuijoho.com/praline-vanilla-rose-perfumes#respond Sun, 29 Jan 2017 12:39:12 +0000 http://kosuijoho.com/?p=1805 一嗅ぎすれば虜になる、愛くるしいバニラ。
ナッツの芳ばしさが癖になる、上質なプラリネ……。

そんな美味な甘さとローズが融合した、ユニークな香りを集めました。

薔薇もバニラもどっちも楽しみたいときや、さり気なくお菓子の甘さを取り入れたいときは勿論、人と被らない、印象深い香りを身にまといたいときにも、おすすめ。

グルマン系の中でも特に大人な表情を持つ、甘美な香りのレディース&ユニセックス香水です。

ランコム トレゾァ ルミニュース


『ランコム トレゾァ ルミニュース』
* Lancome Tresor Eau de Parfum Lumineuse *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

品よく、さり気なく。
洗練された大人のための、華麗なグルマン&ローズ香水です。

2013年発表 * 調香師 Dominique Ropion

<トップ> プラリネの芳ばしいナッツ&カラメルの香りが、チョコレートムースのような深いグルマン感と共に広がります。

<ミドル> ダマスクローズの蜂蜜が混ざったようにまったりとして甘い、正統派ロマンチックな薔薇感があふれ出し、バイオレットリーフがシャープで瑞々しいグリーン感を添えます。

<ラスト> グルマン(お菓子)ニュアンスの明るいバニラの香りが濃厚に漂い、ムスクがセンシュアルなパウダリー感を重ねる。そこに、サンダルウッド(白檀)とウッディーノートが、クリーミーでオリエンタルな表情を加え、全体に深みと落ち着きを与えます。


*とろけるような甘いプラリネの香りが、瑞々しいローズへと高まり、ゆっくりと、コク深いバニラに沈んでゆきます。

モダンに洗練された、バランスの良さと艶感が魅力。

ナッツの香ばしさが際立った、高級プラリネチョコレートのような上品なグルマン感。
そのスウィート感を熱をはらんで盛り上げていく、手折ったばかりの朝露に濡れたローズ……。

絶妙な「抜け感」がゾクゾクするほど色っぽい、フェミニン度マックスな香りです。

また、バイオレットリーフの、青臭さを抑えたメタリックな(シャキン、とした)グリーン感とウォータリー感が程よく効いており、ダマスクローズのゴージャスな存在感を、フンワリ、さり気ない印象に整えています。
そのため、決して軽んじてはいけないような芯の強さと華やかさを感じさせつつも、若々しく、フレンドリー。

付けた瞬間に広がるプラリネが自信とワクワク感を与えてくれ、また、香りの持ち・肌馴染みが大変良いため、何気なく付けているだけでいつの間にか「自分だけのローズ」になってくれる所も優秀。

オンオフ問わず、長く愛用できる作品です。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ヴァレンティノ ヴァレンティナ ピンク(ローズジャム香水)


『ヴァレンティノ ヴァレンティナ ピンク』
* Valentino Valentina Pink *
香調:フローラル・フルーティー・グルマン <レディース>

まるでローズジャム!
苺とプラリネが香る、キュートで乙女チックな作品です。

2015年発表 * 調香師 Daphne Bugey, Fabrice Pellegrin

<トップ> ストロベリーとブラックベリーの瑞々しい甘酸っぱさがあふれ出し、そこに絡むムスクが、センシュアルな表情で「スウィート感」を高めます。

<ミドル> メイローズとセンチフォリアローズ、ローズ・バド(バラの蕾)の濃厚で艶やかな香りがキラキラと広がり、ピオニーが美味しそうな甘酸っぱ感を添えます。

<ラスト> カシミア・ウッド(カシュメラン/合成香料)のウッディーな落ち着きの混ざったムスク調の香りがフワフワと漂い、プラリネがグルマン(お菓子)感あふれる芳ばしいナッツ&カラメルのコクを、アンバーが温かみのある優しい甘さを絡めます。


*豊かなベリーの香りが、艶やかなローズへと華やぎ、グルマン調の甘みを纏いながら、センシュアルなムスキーノートへ落ち着きます。

まるでローズジャムのような、上品で美味しい香り。

フルーティーな甘酸っぱさや、煮詰めた砂糖のコク深い甘み、全体を包む程よいムスク&カシュメランのボリューム感が絶妙に混ざり合い、可愛すぎず、お菓子すぎずの独特な「ヴァレンティノ・スウィート世界」を作り上げています。

また、まったりとしたクリーミーな質感や、ゴージャスすぎないフルーティーなローズの表情が、とてもモダン。

一歩間違えば子供っぽくなってしまうキュートな香りの手綱をしっかりと握った、ヴァレンティノらしい、リッチで大人ガーリーな仕上がりなので、さり気なくグルマン感を取り入れてみたい方や、ほんのりピュアさや無邪気さを醸し出したいときに、おすすめです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ボンドナンバーナイン ウェストサイド


『ボンド ナンバーナイン ウェスト サイド』
* Bond No 9 West Side *
香調:フローラル・ウッディ・ムスク <ユニセックス>

この上なく絢爛華麗。
気高くクラシカルな、パーフェクト・ローズの香りです。

2006年発表 * 調香師 Michel Almairac

<トップ> ローズのクラシカルで格調高い香りがあふれ出し、イランイランがエキゾチックでセンシュアルな甘さを、ピオニーがほんのり甘酸っぱくてフレッシュな華やかさを絡めます。

<ミドル> アンバーの濃厚で温かみのある、甘い樹脂の香りがゆったりと広がり、サンダルウッド(白檀)がミルキーで清らかな、優しいウッディーニュアンスを添えます。

<ラスト> ピュアすぎるバニラの香りに、ムスクがほんわりとしたボリューミーな甘さを絡めます。


*甘美で気高いローズが、濃厚なアンバー&白檀を纏って高まり、ゆったりと、澄んだバニラに溶けていきます。

ニューヨーク屈指の高級住宅街である、アッパーウェスト。
その贅と文化的・芸術的な空気を見事に描き切った、これ以上なく豪華で豊かな香り。

ピオニーとイランイランが石鹸のような柔らかさを添えた、高貴でクラシカルなローズ。
セレブな余裕を醸し出す、センシュアルでたっぷりとしたアンバー。

極上の素材だけが持つエネルギーを、確かな技術とセンスで調香した、今にもあふれ出しそうな情熱や感動、成功者の放つオーラや輝きを閉じ込めた作品です。


香りの全体像は、正統派フローラルの貫禄を持ちつつも、粋でフレッシュ。パウダリー感は抑え目。
濃厚で澄んだバニラと、大輪の花束を抱えているような、リアルで贅沢な薔薇が印象的なので、フォーマルなシーンはもちろん、特別な日のロマンチックなデートにもばっちり。

ダコタ・ハウスやセントジョン・ディバイン大聖堂で触れる、歴史の重み。
リンカーンセンターに集う、世界最高峰のオペラやバレエ……。

そんなニューヨークの煌きをひっそり肌にまとって、一生忘れられないような、素敵な時間を過ごしてみてください。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

インプ 3 ローズバニラ


『インプ 3 ローズバニラ』
* imp. rose vanilla *
香調:フローラル <ユニセックス>

天然香料を使用した、リッチな癒し系。
ほのかに香る、癖のないバニラ&ローズです。

<トップ> ダージリンティーの柔らかな芳ばしさをベースに、ベルガモットがライトなシトラス感を、ピーチが瑞々しいフルーティー感を香らせます。

<ミドル> ローズとワイルドローズのすっきりとした華やかさに、ゼラニウムが薔薇にレモンを足したようなハーバルな明るさを絡める。そこに、ジャスミンとリリーオブザバレー(すずらん)がグリーンニュアンスの爽やかなフローラル感を、チュベローズがエキゾチックな甘さを、アイリスがナチュラルなパウダリー感を添えます。

<ラスト> マダガスカル産バニラの濃厚な甘みがあふれ出し、ムスクがセンシュアルなパウダリー感で厚みを出す。そして、シダーがまったりとしたくすんだウッディー感を、アンバーが温かなオリエンタル感を添えて、香りに深みを出します。


*ソフトなシトラス感が、爽やかなローズ&ホワイトフローラルへと華やぎ、次第にパウダリー感を増しながら、濃厚なムスキーバニラに落ち着きます。

天然香料をふんだんに使用した、ナチュラルな香り。
トップからミドルにかけてはスタイリッシュでライトな印象ですが、ミドル中頃あたりから一気にパウダリーで甘いバニラに突入します。(注:グルマン系のニュアンスはありませんが、かなり甘め。)

ローズ自体については、まろやかで大人しめ、親しみやすいテンションの華やかさで、ゼラニウムのハーバル感が結構きいています。
全体的にふんわりとした淡い香りなので、リラックスタイムにもおすすめ。

[持続性] ★★☆☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

マンセラ ローズ&チョコレート


『マンセラ ローズ & チョコレート』
* Mancera Roses & Chocolate *
香調:フローラル・フルーティー・グルマン <ユニセックス>

チョコレートが大胆!
不思議な説得力を持った、気持ちの良い香りです。

2013年発表 * 調香師 Pierre Montale

<トップ> ブラックカラント(カシス)の甘酸っぱいフルーティー感がふんわりと広がり、オレンジとベルガモットがすっきりとした明るいシトラス感を、ピーチがまろやかでピュアな甘さを絡めます。

<ミドル> ほろ苦さの効いたダークチョコレートの香りがストレートに広がり、ローズが力強い華やかさを、バイオレット(ニオイスミレ)がナチュラルな大地の香りのパウダリー感を重ねます。

<ラスト> バニラの朗らかな甘みとムスクの艶めいた甘みが濃密なハーモニーを奏で、シダーが穏やかなウッディー感を添えます。


*まろやかなフルーツ感が、大胆なチョコレート&ローズへと高まり、次第に甘みを増しながら、優しいムスキーバニラに溶けていきます。

グルマンらしさとローズが不思議に共存した、なんだかとてもワイルドな香り。

調合して「作られた」香りというよりは、パナマ帽の素敵な冒険家のオジサマが、
「地球の最果てには、この世の幸を集めた楽園があってな、そこに自生している食用の薔薇じゃ。」
という囁きと共に愛する人にプレゼントする、茜色の薔薇の香りのよう。

言い換えると、「それくらい、とても説得力のある」香り。
チョコレートも薔薇もフルーツも、それぞれがそれぞれの意味を持って有機的に繋がり合い、心地よい居場所をその「香りの宇宙」の中に見い出している。

協調の成果ではなく、家族のように、どの素材も伸び伸びと個性を発揮しつつも仲が良い。そんな、ハッピーで気持ちの良いブレンドです。


チョコレートがかなりはっきり主張しますが、全体的にはグルマン(お菓子のような)ニュアンスよりもいくらかフローラル寄り。(クリーミーなチョコクリーム with ローズではなく、どこか埃っぽいような、ビターチョコレートをそのまま砕いたような香りがガツンと頭から降ってきて、目の前に巨大な薔薇が出現する感じです。)

香水の完成度を上げるための「雰囲気フローラル」ではなく、しっかりと薔薇の持ち味を大切にした、薔薇好きさんにもチョコ好きさんにも大満足な仕上がりです。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★★☆
[TPO] 春・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ロシャス トカードゥ(ノスタルジック・バニラ)


『ロシャス トカードゥ』
* Rochas Tocade *
香調:オリエンタル・フローラル <レディース>

パウダリーで、温かい。
グルマンちっくなバニラが愛くるしい、ノスタルジックな香りです。

1994年発表 * 調香師 Maurice Roucel

<トップ> ゼラニウムの薔薇とレモンを混ぜたようなキラキラとしたフローラル感が力強く立ち上がり、ベルガモットがフルーティーなシトラス感を、フリージア(浅黄水仙)とジャスミンがシャキッとしつつも艶めいたグリーンニュアンスを絡めます。

<ミドル> 愛くるしい濃厚バニラがるんるんスキップしながら濃さを増す中、ローズが「主役は私よ!」と高らかに宣言&そのゴージャスな魅力を存分に見せつけ、マグノリア(木蓮)とオーキッド(蘭)が肩を組んでゆらゆら揺れながら「そーよ、そうよ、ローズ様の言う通り!」と、甘く華やかなコーラスを添えます。それらに押されつつもアイリス(ニオイアヤメ)がパンチの効いたストイックなパウダリー感で、全体をお淑やかにまとめ上げます。

<ラスト> アンバーとベンゾイン(安息香)のほかほか樹脂コンビがいちゃつく傍で、パチョリにひっぱたかれながらムスクが悶々パフパフとした優しい甘さを、シダーがイケメンマッチョなウッディー感を、情熱的に漂わせます。


*ローズの豪華なフローラル感を命綱に、爽やかなグリーンニュアンスがパウダリーなバニラへとダイビングし、もんどりうって転がりながら、温かな樹脂&木の香りに変化します。

濃密でパウダリー。明るいノスタルジック系。
「わがままで情熱的、感情的に見せつつも慎重に歌舞く、そこはかとなく陽気で優しいマダム」。そんな性質・キャラクターを持った香り。

1994年に発表されたものですが、それよりももっとクラシカルな雰囲気。
パウダリーでゴージャスな薔薇に、グルマン(お菓子のよう)な甘いバニラが大胆に絡んでいて、かなり粋で、派手で、可愛いです。

朝付けるとちょうど日が傾くころに顔を出す、温かなラストノートが反則並みに人懐っこい。
子供っぽさはないけれど、老若問わず生き生きと輝く人にしか乗りこなせない、じゃじゃ馬チックな香りです。

[持続性] ★★★★☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ゴースト


『ゴースト』
* Ghost Ghost *
香調:フルーティー・フローラル <レディース>

甘く儚げ。
薔薇と桃とバニラが織り成す、ファンタジックな香りです。

調香師 Michel Almairac

<トップ> ローズのロマンチックでパウダリーな香りがスラリと立ち上がり、ジャスミンが淡いグリーンニュアンスのヴェールをうっすらとかけます。

<ミドル> バニラの繊細な香りがゆらゆらと漂い、ピーチ(桃)がまろやかで瑞々しいフルーティー・ニュアンスを、アンバーが凛とした甘いオリエンタル感を絡めます。

<ラスト> サンダルウッド(白檀)のミルキーで清らかな甘みが、渺として静かな香りの絨毯を広げ、ムスクが濃密なパウダリー感で全体を煙のように包みこみます。


*薔薇の優雅な香りが、瑞々しいバニラ&桃へと溶け込み、ゆっくりと霞がかるように、甘い白檀へと移ろっていきます。

深すぎる闇の中で出逢う、小さな星。
決して周囲を照らすことなどできない、そのほんの僅かな光にすがって見る、ささやかな夢。

目覚めて悲しくなるようなリアルさでなく、心の柔らかいところを痛めながら現実の上に重ねて、幻だと分かりながら見つめる、白昼夢よりも儚い想望の表出。

……そんな一瞬の安らぎを閉じ込めたような、曖昧な香りです。


パウダリーな甘さをベースにしつつ全体にフルーティーな瑞々しさを効かせた、切ないような明るいような、独特の気だるい雰囲気が魅力。
トップで広がる薔薇も、砂糖漬けにした花びらが香っているような、薄膜ごしに流体の揺らぎを眺めているような、ソフトで夢心地な感触です。

グルマン系の甘さとは趣きが異なる、どこか冷ややかなバニラが混ざりだすトップからミドルにかけての変化が、なんとも幻想的で素敵です。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

ヴァレンティノ ドンナ


『ヴァレンティノ ドンナ』
* Valentino Valentino Donna *
香調:シプレ・フローラル <レディース>

アイリスの効いた正統派。
クラシカルなローズにモダンなバニラが合わさった、「バラ色」の香り。

2015年発表 * 調香師 Antoine Maisondieu, Sonia Constant

<トップ> イタリアン・ベルガモットのフルーティーで繊細なシトラス感が、柔らかく漂います。

<ミドル> ブルガリアン・ローズの艶やかで明るいフローラル感が伸びやかに広がり、アイリス・アブソリュートが大地の香りのパウダリー感でリッチ&クラシカルな表情を添えます。

<ラスト> グルマン(お菓子のような)テイストの甘やかなバニラがあふれ出し、レザー(革)がセンシュアルなアニマル感を、パチョリがシャキッとしたハーバルなオリエンタル感を絡めます。


*フルーティーなベルガモットが、クラシカルなローズ&アイリスへと華やぎ、ゆるやかにモダンな空気をまといながら、スウィートなバニラにとろけます。


キラッキラのボトルと香りを前に、あえて「飾り気がない」と表現したい作品。

なぜなら、こういった正統派美人な香りを好むには、心の底からあふれる自信と、薔薇の輝きもバニラの甘さも当然のもののように身にまとい、レザーの艶めかしさにもたじろがない、確固とした「自覚」が必要だから。

「確固」といっても時間軸では「曖昧」で、微分してみると誰でもきっと、時折感じるあの感覚。
ストンと腑に落ちる様に自分が「女」であると、つま先から頭の天辺、髪の毛先までもが納得する瞬間。

それは服も化粧も完璧にして家を出る朝の、鏡に映った自分の姿であったり、
心臓の音が部屋中に響きそうなほど高まったムードで見る、興奮と緊張の入り混じった男性の瞳であったり。

そんな肝が据わるような、腹が据わるような、それでいてワクワクするような心地の、飾り気のない裸の心が欲する、「バラ色」の香りです。


アイリス由来のパウダリー感が効いた、クラシカルなローズと、そこに融合する、グルマン調のモダンで美味しそうなバニラ。
その2つが柱かつ顔となっており、香りの系統としては特に目新しさはないのですが、バレンティノらしいキレの良いアレンジでまとまっており、甘さも重さも絶妙。

そのため、本当にクラシックな香りの大柄感や扱いの難しさに悩むことなく、程よくさり気なく愛らしく「クラシカル感」を出せる、なかなか使い勝手の良い一本だったりします。

[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

]]>
http://kosuijoho.com/praline-vanilla-rose-perfumes/feed 0 1805