キャシャレル リベルテ「苦い香りは嫌われ者?」童話風香水コラム

甘苦くてスパイシーな、ビターオレンジを基調にした複雑な香り。

トップは新鮮な果物のオレンジ、ミドル以降はジャムのような、コッテリとした甘さに包まれたマーマレードへと変容し、その後はシトラス感を大いに引きずったまま、スパイシーなパチョリとハーモニーを奏でます。

万人におすすめできる香水ではありませんが、ストレスで参っている時や、自信が欲しい時に強力な味方になってくれる、パワフルな作品です。

以下、あんまりにも苦美しいので、メルヘンチックにレビュー。
「ビターオレンジくん」が居場所を探す、匂いを性格と音に反映した文章です。


『キャシャレル リベルテ』
* Cacharel Liberte *
香調:シプレ・フローラル <レディース>

2007年発表 * 調香師 Domitille Bertier, Olivier Polge

トップノート:ビターオレンジ、マンダリン、ベルガモット




「僕はなんて嫌なやつなんだろう。」
ある日、ビターオレンジくんが言いました。

「可愛い小鳥たちが飛んできては、僕と同じ木に生る大きくて橙色の兄弟たちをついばむのだけれど、次の瞬間、皆きまってペッペと吐き出し、身震いしながら飛び去っていってしまうんだ。僕は甘くおいしいどころか、喉の渇きひとつ潤せやしない、嫌われもののオレンジに違いない。」

ポタポタ、ボタボタとビターオレンジくんが涙をこぼしはじめると、あたりいっぱいに、苦くて渋い、イガイガした柑橘の香りが広がります。 ちょうど地上を通りかかったテントウムシくんは、「ぎゃあ!」と叫んで草の陰へと逃げ込み、ヒラヒラ舞っていた蝶々さんは、見たこともない早さで丘の上へと飛んでいってしまいました。

それを見ていよいよ悲しくなったビターオレンジくんは、わんわんと声を上げて泣き、涙を流す分だけ濃縮された体は、もはや同種のビターオレンジ一族も驚くほどの苦みを蓄えていきます。

見かねた隣の木のマンダリンオレンジちゃんが、甘くて瑞々しい、サテンのように滑らかな声をかけます。
「何いってるのよ。甘いだけの果実がどんなめに合うか、知っているでしょう?私の姉妹たちは、ほとんど鳥やリスに食べられてしまって……。おちおち熟してもいられないわ。」

ビターオレンジくんは、スン、と鼻をすすって、マンダリンオレンジちゃんの木を眺めます。ほんの2週間ほど前から色づき始めた甘い果実たちは、日増しに動物たちの興味をひきつけ、今ではすっかり青々とした葉ばかりが揺れています。
少し気の毒になって返す言葉を探すのですが、ちょうどマンダリン一家の木に登ってきたシマリスさんが美味しそうに果実を頬張るのを見ると、羨ましくなって、何もいえなくなってしまいました。

傾きかけた太陽の、柔らかな赤い光に包まれたシマリスさんとマンダリンちゃんは、まさに生命の輝きに満ち、その力強さと刹那的な欲の充足でもってビターオレンジくんを圧倒し、深い渇望をその胸の内にくすぶらせるのです。

「どうして君は甘くて、どうして僕は苦いのだろう。」
ぽつんと言うと、ビターオレンジくんはそよそよ枝を揺らして、マンダリンオレンジちゃんのほっぺにそっと、いつの間にか日課になっていた、鈍いキスをしました。こうして苦いエキスをつけておくと、マンダリンオレンジちゃんは鳥野郎どもにつつかれません。

そして、ひと際大きく体を揺らすと、プツッと枝から離れ、空に放物線を描いて飛び出していきました。

ミドルノート:オレンジウォーター、シュガー、フランジパニ、ホワイトフラワー




ころころ、ころころ転がり続けて、太陽と月が何度か入れ替わったころ、ビターオレンジくんは不思議な光景に出逢います。それは小さなアリの行列なのですが、皆、背中に何かキラキラ光るものを背負っているのです。
「なんて綺麗なんだろう!」
見たこともない透明な結晶に興奮して、ビターオレンジくんはその行列が始まる場所へと、ゴロロン、ゴロン、進路をとります。

木から離れて数日、雨風にさらされ多少まろくなったとはいえ、まだまだ苦い香りをまき散らす巨大な物体――そんなシトラスの怪物風情が前方からやって来て、デコボコした地面を飛び跳ねながらすぐ隣を転がっていくのに、危うく轢き潰されそうになったアリたちは、
「ぎゃあ!危ないなあ!」
「なんだなんだ?!」
と口々に叫び、綺麗な結晶――人間の言葉でお砂糖――を放り出して、散り散りに逃げ出して行きます。
そして、いったん崩れてしまった列は、ドミノ倒しのようにその「危険情報」を伝播していき、やがてアリっこ一匹いなくなった跡には、真っ直ぐに伸びた砂糖の道だけが残りました。

あっという間の出来事に、ビターオレンジくんは驚きと申し訳なさでいっぱいになりますが、現れたキラキラ光る道への好奇心には勝てません。静かなワクワク感と物悲しさに包まれて、ひとりぼっちで道の真ん中を転がっていきます。

コロコロ、ザラザラ、キラキラ……、橙色の体がしだいに透明な結晶に覆われ、太陽の光を反射して、ミラーボールのように輝きだしました。ほんのり甘い香りまで立ち昇りだし、ビターオレンジくんは段々良い気分になってきます。

「僕はなぜ自分が苦いことに理由なんか求めていたんだろう?この魔法の結晶で着飾れば解決じゃないか!」

すっかり浮かれてギラギラしながらそう言い放つと、開放的な気分で速度を上げて、光る道の最終地点、角砂糖の山を蹴散らしました。キラキラ飛び散る砂糖の粒を眺めるその瞳は、どこか傲慢で、どこかピュアです。

「そうだ、ずっと憧れていた、ホワイトフラワーの園へ行ってみよう。」
ふと思いついたのは、いつも頭上を飛んでいく蝶たちが、まるでこの世の楽園だと噂していた場所です。悩みを忘れたビターオレンジくんは、好奇心で胸をいっぱいに膨らませ、庭園へと続く小径を転がっていきます。





コロコロ、ゴロロロ、ゴロンゴロン。
どこまでも続くような長い道程も、希望を持てばこそ無心で挑め、やがてたどり着いた庭園の入り口から望む鮮やかな草木の色に、ビターオレンジくんは誇らしいような、切ないような気持ちをかきたてられます。

緩やかな坂道を下っていくと、辺りの空気に甘い蜜の香りが混ざり出しました。サラサラと揺れる芝の向こうには白や黄色の花々が揺れ、鈴を転がすような飴色の笑い声も聞こえてきます。

俄然勢いを増し、平らな芝生も突っ切って、堂々と庭園を転がっていくビターオレンジくんに、ガーデニアさんやオレンジブロッサムさん、ジャスミン姉さんが、次々と声をかけます。

「あら、珍しいお客さんだこと」
「なぜキラキラ光っているのかしら?」
「逞しいボディーねえ」

草をかきわけ花咲く木の下、ぐるぐると彼女たちの間を転がりながら、ビターオレンジくんは「やあやあ」と挨拶し、生まれて初めてみる美しい花々に見とれました。ボディービルダーのようにピカピカ輝く体をアピールすると、キャッキャと笑って甘い蜜の香りを振りまく彼女たちに、いよいよご機嫌です。そこへ――





「この苦い香りは何です?」

太陽とのおしゃべりを終えたフランジパニ姉さんが、はしゃぐホワイトフラワー達にピシャリと低い、ハスキーな声をかけました。
ぴたりと止んだ笑い声の中、すっかり甘い結晶につつまれて「苦い」を忘れていたビターオレンジくんは、ちょっとムッとしながら、ちょっと不安もまざりながら、声のした方へと転がり出ます。

低木とはいえビターオレンジくんの遥か頭上にもっさりと広がる枝葉の先、パキッと針金でも入ったような、なんとも迫力満点に5枚の手足を広げた花が、じっとビターオレンジくんを見下ろしています。根が小心者のビターオレンジくんの心臓はキュッと悲鳴を上げ、太陽の熱で溶けだした砂糖の結晶が、タラタラと橙色の額を伝います。

「お邪魔しています。僕は丘の向こうの果樹園から来た、ビターオレンジです。……あなた方の蜜の香や姿を噂に聞いており、ずっと、皆に愛されるその匂いに触れてみたいと、憧れていたのですが……。……僕の苦い匂いは、お嫌いですか?」

真っ白い花弁の中心に鮮やかな黄色を滲ませた、一見ツンとした空気を醸し出すフランジパニ姉さんは、風に揺られてユラユラ、ふむふむ、焼き過ぎたオレンジタルトじみたしょげた言葉を聞き終えると、どこか飄々とした、朗らかな調子で音を紡ぎます。

「苦い匂いは嫌いではないわ。それに、よく注意して嗅いでごらんなさい。どんな花も果実も、ただ甘いだけ、ただ苦いだけのものなんてないのよ。色んな香りの要素が合わさって、一つの個体の匂いが出来上がっているの。――その中から一つの特徴を取り出して好き嫌いで語ろうなんて、ちょっと短絡的すぎやしないかしら?」

「みんな苦いといって、僕から逃げていってしまうのです。」

「そうねえ。でも、“みんな”って、果たして本当に“みんな”なのかしら?――あのね、あなたがそんなにも苦いのは、あなたの種が生き延びるための賢い選択の結果なのよ。若いあなたにはまだ悪い面しか見えていないかもしれないけれど、いずれ、その価値や理由を見い出せるようになるわ。」

淀みなくもっともらしい言葉を畳みかけられると、なんだか言いくるめられているような気がして、本当かなあ、と、ビターオレンジくんはあれこれ考えます。そして、隣の木のマンダリンオレンジちゃんを苦いエキスで守ってあげていたことに思い当たり、自分の苦い香りを誇らしく感じていた瞬間があったことに、はじめて気づきました。

「僕の苦い体は、きっと良い虫よけになって、あなたたちを守ることができます。」
長年自己否定が染みついたビターオレンジくんは、どうにも安易に身を投げ出し、そこに一時の安らぎを見い出したがります。フランジパニ姉さんは、そんな心を傷つけやしないか心配しながら、ゆっくりと首を横に振ります。

「私たちは虫媒花といってね、蜂や蝶に蜜を与える代わりに花粉を運んでもらって、子孫を残しているの。だから、私たちにとって、虫は悪い存在ではないのよ。それに、あなたはその苦みで外敵と戦うだけでなく、もっと必要とされ、調和できる存在であるということを、知らなければいけないわ。」

ビターオレンジくんは、しばしポカンとフランジパニ姉さんを見つめ、それからちょっと寂しそうに、コロン、と一つ頷きました。





外からは窺い知れないそれぞれの生きる世界があることも、短絡的に居場所を求めた自分の浅はかさも、まだ見えぬ旅の終わりも、花たちの優しさも――、どれもが砂糖の結晶でできた鎧を突き抜けてチクチクと胸を刺すのだけれど、同時に、ただ痛むだけのはずの胸が発する温かな疼きに、体の芯がちょっとだけ甘くなるような、不思議な心地に包まれます。再び転がり始めると、棘は、勇気に変わります。

庭園の入り口で振り返ると、眩しい日差しの中、花々と蝶が戯れています。良く見ると、蝶は蜜の多い花を探して次から次へと懸命に飛び回り、花はできるだけ多くの蝶に花粉を付けようと、綺麗な花弁を妖しく揺らしています。

見た目の儚さを凌駕する、強かな生き方に裏付けられた、気高く甘い蜜の香りを――それまで単に「みんなが喜ぶ花の香り」としか知らずにいた匂いのディテールを記憶に刻み込むと、ビターオレンジくんは暗い小径を進みます。

ラスト:パチョリ、ベチバー、バニラ




ざわざわと葉擦れの音だけが響く、荒れた道を転がり続けて三日三晩。小川も丘もいくつも越え、雨にも風にも動じなくなった頃。
暗いばかりだった森の景色に、少しづつ日が差し込みはじめ、やがて心地よい風が吹く草原へとたどり着きました。湿った森の土の匂いをまとったビターオレンジくんは、じんわりと滲む苦みに鈍く低いウッディー感が絡み、すっかり落ち着いた表情を浮かべています。

これからどうしようか。
半ば途方に暮れて佇んでいると、どこからか変わった音が聞こえてきました。
それはこれまで耳にしたことのない、明瞭な輪郭と高さを持った響きの連なりで、音のする方へと近づくにつれ、その独特のリズムや、まるで言葉を話しているかのような抑揚が、耳にする者の注意をひきます。

ギコーギコー、ポロロン。
ギィーポロギィーギィー。

はじめは順調だったその掛け合いは、だんだんと激しくなってきて、ついには怒声が混じり始めます。

「なんなんだ、そのスタッカートは!雑音混じり過ぎ、あたり強すぎ、発音のタイミングがまるで喧嘩売ってきてるみたいだ!」
「そっちこそ、その地獄の鐘のような和音はなんなの!力づくで低音響かせて自己満足に浸ってないで、ちゃんと粒揃えなさいよ!」
「なんだと!せっかくお前のスッカスカのバイオリンの音を拾ってやろうと、こっちは気を使ってタッチしてるってのに、弓使いまくって返す度に雑音混ぜられたんじゃ、揃う粒もずっこけるわ!」
「なんとまあ傲慢だこと!人の音にケチ付ける前に、まず自分のコントロールの悪さを自覚しなさいよ!あんたが弾くとまるで全部ラフマニノフじゃない!耳に雪でも詰まっているの?!」

バイオリンを持ったまま殴りかかろうとした緑の草――パチョリさんを、ビターオレンジくんはとっさに止めに入ります。
「そんなので殴ったら壊れちゃいますよ!せっかく綺麗な音がしていたのに、何が不満なんです?!」

「音の問題じゃなくて、音楽の問題よ!不満だらけだわ!」
「こっちこそ、お前の伴奏なんかもう懲り懲りだ!」

フン、とそっぽを向いたピアニスト――バニラくんは、そこでやっとビターオレンジくんの存在に気づき、パチパチと瞬きし、気まずそうに視線をそらします。パチョリさんも同様に気づくと、振り上げたバイオリンを下して、ジロリ、と2人を睨みます。

「こいつがチェロ追い出したから悪いのよ。難癖付けて、すぐにそのゴツくて甘ったるい音を目立たせたがるのよ。」
「お前の耳に刺さるようなキーキー音に比べたら、この世の音はみんなバタークリームケーキだろうよ。」
「なんですって、このナルシスト野郎!」
「そっちこそなんだよ、お姫様はとっととユニコーンにでも乗って夢の国へ帰れよ!」

口の悪い二人の楽器奏者を前に、険悪な空気に耐性のないビターオレンジくんは、オロオロと口をはさみます。
「分からないなあ、僕は音楽なんてもの生まれて初めて耳にしましたが、あなた達の息はぴったりでしたよ?」

「それは俺が合わせてやってるからだ」
「ほらまた始まった。悪いのは私?あんたはアポロン?」
「セイレーンのように他人を海に沈めるお前よりかは、いくらかアポロンに近いだろうな。」
「いつ私が人を沈めたっていうのよ!弦いびりして追い出すのはあんたの方でしょ!」
「指揮者気取りでボンボン鳴らすやつばっかり連れてくるからだろ!」
「じゃあ今度はあんたが探してきなさいよ!」

バニラくんはフン、と鼻で笑って、おもむろに小型無線機を取り出すと、次々とチャンネルを合わせて「チェリスト必要なんだけど」とオファーします。
ですが……、次々と断られていきます。
「ほらね」と意地悪そうな笑みを浮かべるパチョリさんを一瞥すると、のっそりと立ち上がり、ピアノの下から大きなチェロケースを取り出しました。そして戸惑った表情を浮かべるビターオレンジくんをジロジロと眺めた後、

「……………よし、お前やってみろよ。」
「なにを?」
「チェロだよ。パチョリさんが親切に教えてくれるから、そーっと弾くんだぞ。」
「ほんっとに無責任ね。自分好みのチェリストが欲しいなら、自分で教えなさいよ。」

意外と素直なバニラくんは、ムスッとしつつもパカッとチェロケースを開けると、ビターオレンジくんを椅子に座らせ、その手にチェロと弓を持たせます。
「……………よし、弦楽器ってのは、この木に張ってある4本の羊の腸を、この馬の尻尾でこするんだ。」
「……?」
「ガット弦っていうんだよ。あいつら羊は草しか食わないから、少ない栄養を取り出すために、腸が長いんだ。文句言うんじゃねえよ。」
「……ちょう?蝶?腸?それ何ですか?」
「腸だよ、腸!腹の中に入っているやつ!」

「あんたたち、楽器弾く気あるの?」
パチョリさんがしょうがないなあと言わんばかりに横から手を伸ばし、ポンポンポンと右手の指で弦をはじきながら、左手で素早く調弦をします。
「左手は指を立ててギュッと抑えて、右手はふんわりと弓を弦に当てるのよ」
そう言ってビターオレンジくんの手ごと弓に手を添えて、滑らせるように軽く引くと、ボォーッ、と、大きな音が響きます。

木を通してダイレクトに皮膚に伝わる振動に、弓から伝わる、波打つような音の感触――。
初めて触れる楽器に感動して、ビターオレンジくんは、すぐにチェロの虜になりました。





来る日も来る日も練習に明け暮れ、ときにバニラくんに皮肉を言われ、ときに……否、しょっちゅうパチョリさんに罵倒されながらも、しだいに3人の呼吸は揃いはじめ、ビターオレンジくんは合奏の楽しさも覚え始めました。
はじめは喧嘩の絶えなかったバニラくんとパチョリさんも、協力してビターオレンジくんに弾き方を教えるうちに、互いを認め合い、尊重するようになりました。

鋭く切り込むような、シャープに研ぎ澄まされたバイオリンの音とそっとハーモニーを奏でる、酸いも甘いも噛み分けたような、鈍く暗いチェロの響き。それらを包み込む、神々しいほど厳粛な、鐘の音に似たピアノ――。

単独では得られない、表情の異なる複雑な音の重なりの中に、ビターオレンジくんは自分の苦い音の居場所を見い出すようになりました。
それは衝突しがちなバイオリンの高音フラットとピアノの二度音程のつくる、ほんのり歪な不協和音の波の中であったり。どこか走りがちなバイオリンのパッセージを受け止めようとする、甘く分厚いピアノの傍であったり。はたまたストイックさがたまに鼻につくピアノの正確な音階のうねりに寄り添う、爆発するような弦の響きのど真ん中であったり……。

そして時に、哀愁漂う漂うチェロの音に、ピアノが煌きを、バイオリンが優しさと切なさを絡めたり、またある時には、力強さと誇りに満ちたチェロの深い和音の響きに、甘えるように触れるピアノのトレモロと、気高さでぶつかるバイオリンを一緒くた、ハグするように受け止める瞬間―――、音色それぞれが干渉しあう様々な響きの中に、万物の価値を見い出すのでした。

「おい、130小節目の頭、裏拍ったってもうちょっとあたり弱くしろよ。俺の和音がまぬけに聞こえる。」
と、バニラくんが言うと、
「3弦鳴らすんだから、これで精一杯よ。チェロに響きを助けてもらったら?」
と、パチョリさんが話をふり、
「じゃあその最低音のオクターブ上をピアニシモで鳴らして、ビブラートで表情をつけるよ。」
と、ビターオレンジくんが請け負います。

苦い匂いも苦い音も、甘さや辛さと出逢ってぶつかってみると、その性質はそのままに新たなハーモニーが生まれること。
弱点や悪いところだと思っていることも、個性として生かさなければいけないこと、さらには、強みにしていかなければいけないこと。
そして何より、互いを補い、高め合うことの素晴らしさを学んだビターオレンジくんは、もう以前のように自分を否定することも、憐れむこともなくなりました。

好き嫌いでなく意義と居場所を見い出すようになった世界にあふれる、優しい希望の光の中で、ビターオレンジくんは、いつまでも幸せに暮らしました。

おしまい。





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[持続性] ★★★☆☆ [拡散性] ★★☆☆
[TPO] 春・夏・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム

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