職人技フローラルブーケが、舞踏会のカオスな香り世界へ迷いこみ、じわじわと甘いパニラの中に埋もれていく、不思議で写実的な香水。
ジャンデプレ バラ ベルサイユの魅力は、独特の空気感と独創性、癖になる濃厚バルサム系スウィートです。
名香特集第8弾は、そんな芸術的な香りの世界を旅します。
ジャン デプレ バラ ベルサイユ
香調:オリエンタル <女性用>
もくじ
トップノート「舞踏会の飾りつけだって?そりゃてーへんだ!」
ブルガリアン・ローズの正統派で高貴な薔薇の香りに、オレンジブロッサムがフレッシュな甘い華やかさを、ジャスミンが草や葉のようなサラリとしたグリーンニュアンスを、ネロリ(ビターオレンジの花から採れる精油)がシトラスニュアンスのフローラル感を絡める。そのクラシカルなブーケに、ローズマリーがスッと鼻に抜けるクリーンなハーバル感を、カッシアがシナモンに似たアロマティックなスパイシー感をアクセントに添える。そして、ベルガモットとマンダリンオレンジとレモンが、柔らかめに調えられたバランスの良いシトラス感で全体を明るくします。
*高貴でクラシカルな、正統派フローラルブーケの香り
貴族のおねーさまに「明日舞踏会するから、ゴージャスですっごい飾りつけしなさい!」ってオーダーされて、
「へへえ!!おまかせくだせえ!!!」って大慌てで町中の花売りからごっそり花買い集めて、徹夜で宮殿中を飾りました!みたいな感じです。
良く言うと、とても職人的な印象。悪く言うと、力技で仕上げた印象。
といってもこの香水の名前「Bal a Versailles」は、「ヴェルサイユの舞踏会」という意味だそうなので、そういった貴族的な豪華で贅沢な雰囲気を追求した香りという点で、これ以上なく趣旨にそった、絵画並みにイメージの再現性に優れたトップノートである、ということができです。
ミドルノート「ダンスにおしゃべり、舞踏会の夜を詰め込んだ香り」
レザーの乾いたアニマル感がゆったりと広がり、オリスルートが仄かに苦い華やかなパウダリー感を、サンダルウッド(白檀)がソフトでミルキーな、ベチバーが重くスモーキーなウッディー感(木の香り)を絡める。そして、イランイランが甘く濃厚なフローラル感を、ライラック(紫丁香花)が涼やかでハチミツ花粉的な甘さのグリーンニュアンスを、リリー・オブ・ザ・ヴァレイ(すずらん)が明るい清潔感を添えます。
*グリーン・フローラル感を含んだ、レザーとウッディーの香り
空間の広がりを感じさせる、豪華に着飾った人々の「気配」を詰め込んだような不思議なノート。
ガツンとレザーや花が香るわけでなく、かといって何かまとまった香りのイメージを打ち出しているわけでもない、全てが曖昧に混ざり合ったカオスな印象です。
舞踏会につけていく香水、といった方向性よりも、むしろまんま「ヴェルサイユ宮殿の舞踏会」を絵画風に表現すること自体を目的としたような、混沌とした、革と木と花のミックス。
とても雰囲気があって良い匂いなのに、なんだか良く分からない。
主体的に香りを身に付けるというよりも、肌の上に美術館が出張してきたみたいな、完成された香りの情報を淡々と目の前で披露してくるような印象。
何か伝えようと語りかけてくるでもない、なのに半年や一年といった歳月を費やして描かれた、緻密で写実的な油絵を見せられているような、驚くほど情報量の多い香り。
拡散性(香りの広がり)の高さも相まってか、「舞踏会の社交的でざわめいた雰囲気を味わわせてやんよ!」とでも言いたげな、混沌としたミドルノートです。
ラストノート「パニエと盛り髪の中身は秘密」
シベ(ジャコウ)の暖かく魅惑的な独特の香りがあふれ出し、レジンがまったりとした、トルーバルサムがぬくぬくとした、ベンゾイン(安息香)が繊細なバルサム(樹脂)の甘さを絡める。そして、アンバーが豪奢でオリエンタルなアニマル感を、バニラが華やかな甘みを、ムスクがクリーンなパウダリー感を、シダーが甘くスパイシーなウッディー感を添えて、全体に奥行きを出します。
*バルサムとジャコウの、まったり甘く暖かい香り
ミドルが舞踏会そのものを描写したものならば、このラストはまさしく、パニエと盛り髪の謎の膨らみの神秘に迫った香り。
ぬくぬくとして妙になつっこいアニマル感にあふれた、まったりとした甘さがすごい長い時間続きます。
何かを表現しているというよりも、ひたすらジャコウや樹脂などを煮詰めまくったような、マニアックで距離感の近い、香りのための香り、といった印象です。
トップ、ミドルのカオスに情景を描いていたクールさがじわじわと消え、パニエと盛り髪に鼻を突っ込んでるような、親密で人肌な温度感の甘さに包まれます。
こんな方におすすめ&香りについて
* ジャコウのまったり甘い香水を探している
* 舞踏会に憧れている
* 濃厚な甘さ包まれたい
* 絵画を鑑賞するような、芸術的な名香に興味津々
* 「ヴェルサイユ」にときめく
* 贅沢で貴族的な香りの世界に浸りたい
⇒不思議系オリエンタル
正統派フローラルブーケが、舞踏会のカオスな香りへと迷いこみ、じわじわと甘いパニエの中に埋もれていきます。
難解で複雑、絵画的かと思えば一気に距離をつめてくる、芸術的で温かい香水。
ヴェルサイユ宮殿や舞踏会といった、華やかで贅沢な貴族的な雰囲気を楽しめる作品です。
特筆すべきは、その独特の空気感。
舞踏会をイメージした、というよりも、舞踏会の空気そのものを余すことなく描写しようとしたかのような、カオスながらも緻密に絶妙に仕上げた、ともすると空中分解してしまいそうな香りの渦が体を包み込んでくれます。
素晴らしく芳しい香りなのに、つかみどころがない。
全てが曖昧に混ざっているのに、嗅いだ瞬間に「ジャン・デプレのバラ・ベルサイユ」だと分かる、とても不思議なフレグランスです。
この香水のまとい方のポイント
拡散性(香りの広がり)や持続性(香りの持ち)、甘さに重さが最強レベルにヘビーなので、太ももや膝裏、足首、ウエストならばおへそよりも低めの位置に少量つけるのがおすすめ。かなり濃いので要注意です。
お肌の上に、美術館が出張に来てくれますよん。
香りの成分&いろいろ
<トップノート> ブルガリアン・ローズ, オレンジブロッサム, ジャスミン, ネロリ, ローズマリー, カッシア, ベルガモット, マンダリンオレンジ, レモン
<ミドルノート> レザー, オリスルート, サンダルウッド, ベチバー, イランイラン, ライラック, リリー・オブ・ザ・ヴァレイ
<ラストノート> シベ, レジン, トルーバルサム, ベンゾイン, アンバー, バニラ, ムスク, シダー
1962年発表, 調香師 Jean Desprez
* Bal a Versailles Jean Desprez *
[持続性] ★★★★★ [拡散性] ★★★★
[TPO] 春・秋・冬 / デイタイム・ナイトタイム
バッラヴェルサイユ…。
この香水は、母が一番愛した香水。
母自身、若い頃に香水を買っていて、そのコレクションの内の一つ。
母にとっては、『運命の香水』とも言うべき香水で、母曰く『京都の舞妓さんが懐に忍ばせて置く匂い袋の様な香りでとても落ち着く』のだそう。
何度か、このバッラヴェルサイユを嗅いでいるのですが、『古い香水はこんな香りかぁ、フーン。』程度でした。
25になるまでは、エッセンシャルオイルを使ったオリジナル香水を作ってみたり、キャピキャピ系に走ったりとかなり迷走状態でした(笑)
ただ、バッラヴェルサイユは無意識の内に私の記憶の中に刻み込まれていた様で、ランヴァンの『アルページュ(エクラじゃないの)』を26歳の頃に手にして以来、クラシック香水に目覚め、改めて母の香水コレクションを試させて貰う機会を得て、バッラヴェルサイユの魅力を再認識。
母からは、ロベルト・カプッチの『カプッチ・ドゥ・カプッチ』のミニボトルを貰いましたが(笑)
私がカプッチ・ドゥ・カプッチのエキゾチックな香りに心酔しているのを母が見て『それ、気に入ってるんなら、あげるよ。お母さんは、このバッラヴェルサイユがあれば十分だから。』という訳で譲り受けました(笑)
この辺りから、『もっと古い時代の香りが知りたい』と思う様になって、ドンドンとクラシック香水の魅力にどっぷりとハマり、今に至ります(笑)
因みに去年の母の誕生日には、ネットフリマで見つけた、バッラヴェルサイユの未使用品パルファン・ドゥ・トワレをプレゼント。
母はとても嬉しそうにしてました。
本当は一昨年に、50歳の節目のプレゼントしたかったのですが、その年は生憎、ネットフリマをしていなかったので、その年は、キャシャレルの『アナイス・アナイス』をプレゼント。
この香水も母の好きな香水の一つ。
『ラストがバッラヴェルサイユに似てて好き』なんだそうです(^^)
バッラヴェルサイユとカプッチ・ドゥ・カプッチは、クラシック香水のなかで最も慣れ親しんだ香り。
この二つは、本格的に正統派クラシック香水へと走る切っ掛けとなったのは言うまでもありません。
その切っ掛けを築いたのが、母親なんです。
私にとって、バッラヴェルサイユは、『母を象徴する香り』であり、『原点の香りの一つ』。
母が元々持っているオードトワレは、母が若い頃に買ったものですが、三、四十年経った今でも、色褪せる事なく、美しい香りと輝きを放ち続けています(^^)
茉莉花さんの文章ににじむ、心からお母様を愛していらっしゃる温かなお気持ちと、
素敵なお母様と趣味の世界を分かち合い、ときに香りと共に心までも導いてもらっているとのこと、
とても感動しました。
私は家族内で父と2人だけ味覚や嗅覚が鋭く、また、父は荒っぽい環境をくぐり抜けてきたせいか、父自身が何かをコレクションしたり楽しむということはなく、しかし同時に本来は感受性豊かな人であったため、私に音楽や絵画といった芸術に触れる機会を多く与えてくれました。
中学生の頃、そんな父に連れて行ってもらった神戸の異人館街にある「香りの家・オランダ館」で、初めてオリジナル香水を調合してもらったことが、私が本格的に香水にはまるきっかけでした。
クラシックな香水に初めて触れたのは17才の頃。
当時通学していた高校と実家(山間部)の間の、ちょうど都市部と田舎をつなぐ大きな幹線道路沿いにある、
郊外型の超巨大リサイクルセンターで、万華鏡を模した限定パッケージに魅かれて購入した、『エルメス カレーシュ』でした。(今の今まですっかり忘れていましたが、そういえば当時は万華鏡の製作やコレクションにも熱心でした。笑)
保存状態があまり良くない品で、香りも劣化していたのですが、身の回りにあふれていた「いかにも実用品」といった香りやパッケージとは一線を画す趣が、レトロ趣味も相まってとても魅力的にうつったのを、今でも鮮明に覚えています。
『バッラヴェルサイユ』のような素敵な香りに深い思い入れがあること、愛するお母様から『原点』となるような何かを受け継いでいらっしゃること、心から羨ましく思います。
また、趣味の世界を持つこと、更にはそれらを他者と共有することの素晴らしさや大切さを、改めて考えさせられました。
茉莉花さんのような方を子にもつお母様は、とても幸せですね。
素敵なお話を、本当に有り難うございました(*´▽`*)
今感じている気持ちを大切に、私も何か少しでも親孝行をしようと思います。
ところで、「運命の香水」って、とてもロマンチックな響きですね。
茉莉花さんはもう、そんな香りに出逢っていますか?
私の中で運命と言える香りは、イヴ・サンローランの『オピウム(阿片)』かしら。
今までのオリエンタル香水の中で一番大好きな香水。
他の香水には無い、独特の存在感があります。
禍々しくて、刺々しく、終始ドス黒いオーラを放つ香水。
他の香水ではその様な暗いモノが感じられないのです。
対抗馬なる、ディオールのプワゾンですら、禍々しさを感じられないのですから。
恐らく、イヴ・サンローランが戦時中、軍隊の中で受けた虐めの経験、それが原因となった神経衰弱、薬物依存症が関係している様に思えます。
偉大なるファッションデザイナー、イヴ・サンローランの輝かしい功績の裏にある、彼の深い闇の部分。
それを物語るのがこのオピウムなんだと思います。
大抵の香水は、そのブランドの輝かしい部分しか見せない。
でも、オピウムは、敢えて栄光の影に隠された闇を見せる。
『ファッション業界は華やかなだけじゃない、熾烈で厳しい世界である』事をオピウムは、教えてくれる。
『美しい薔薇には棘がある』なんて言葉がありますが、オピウムは当にその言葉がピッタリ。
そもそも、イヴ・サンローランの香水に興味を持つキッカケは、彼が同性愛者であったこと。
私も同性愛者なので、彼に親近感が湧き、そんな彼が世に送り出した香りはどんな香りなんだろうと思い、オリエンタルが一番好きな私は、オピウムを選んだワケです。
初めてこの香りと対面した時、強烈なスパイス香に全身に電撃が走った様な衝撃を感じ、その瞬間、この香りの虜に。
スパイスの嵐の後には、今度は、猛毒の蛇が這いずり回る様な、危険で甘い香り。その甘い香りは、狂気へと誘います。
この変化も魅力的で、完全に雁字搦めになって離れられなくなりましたわ(笑)
以来、オピウムは、特別な時にだけ纏う、とっておき香水として定着してます。
因みにオピウムは、初期の頃の物と現行品とではボトルデザインも香りも違います。
初期のオピウムは、印籠の様なデザインのボトルで、香りにアニマリックな香りがあり、重みがあります。この頃のオピウムには、ビーバーから採れる香料、『カストリウム』が使われていました。
現行品は、磨りガラスで竹をモチーフにし、真ん中に丸い窓が付いたデザイン。
香りは、アニマリックな香りは無く、全体的に軽く仕上げられています。
これは、規制でカストリウムが使えなくなった事に起因しています。
なので、オリジナル版と比較すると、若干香りが痩せた様に感じられます。
私自身は、オリジナル版のオードトワレと、現行品のオードパルファンを所有しています。
オードパルファンは、日本では売っておらず、ネットで、海外からのお取り寄せて貰って購入。
オードトワレは、ネットのフリーマーケットで購入。
オピウムは、あの美輪明宏氏が17の頃から愛用されている、ダナの『タブー』直系の子孫に当たります。
ダナのタブーは、オピウムの歴史を知るのにはもってこい。
オードコローニュでありながら、オードパルファン並みの賦香率を誇る香水です(^^)
茉莉花さん、素敵なお話をありがとうございます(*´▽`*)
禍々しく狂おしいもの、昔はとても好きだったのに、大人になるにつれてそういった感情や感覚が上手く理解できなくなって、今では何かもどかしい思いでしかそういうものに触れられなくなった私には、茉莉花さんの『オピウム』への思いが「感覚的に知っているもの」としては理解し共感できるのに、ふと自分の中にフォーカスをあてると、もうそれを直接何かから感じ取れるだけの感性が身の内にはないように感じられて、懐かしいような羨ましいような、すごく不思議な心地がします。
イヴ・サンローランやココ・シャネルのドキュメンタリーや映画をいくつか見たことがあるのですが、初めて見た頃の私はファッションには単なる「服」としての興味しか持っていなかったため、サンローランやシャネルが成し遂げたことや主張、とりわけ文化やジェンダー、社会的な挑戦としての意味合いを知って、とても驚き、考えさせられた覚えがあります。
「闇」を描いてみせる芸術は数あれど、イヴ・サンローランが実現しているような、その闇を香水や服といったアイテムに仕上げて、単に「展示」するのではなく「身にまとえるもの」としてたくさんの人に思いや感覚、香りを届けた偉業に、改めて驚嘆します。
ビーバー、天然ダムをつくれる上に良質な香料までつくれるなんて、素敵すぎる(笑)
『オピウム』は現行のものしか嗅いだことないので、是非初期のものも探してみようと思います。
ダナの『タブ―』は、お香にはまっていた頃に確か嗅いだことがあったはずなのですが、いまいち覚えていないので、これも探してみます。インドのお香はヤニの雑味がなかなか味わい深くて好きだったのですが、衣類に匂いがしみついたり水槽に膜がはったりと大変で使わなくなったので、今なら『タブー』を重宝しそうです。
美輪明宏氏、昔兄がはまって、よく「美輪さん美輪さん」言うてました(笑)
『タブー』を十代から愛用するとは、どんな方でしょう。ググる楽しみができました(*´▽`*)